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44 下船
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金髪の青年は南へ向かう巨大な船の甲板に立っていた…。
この便を逃すと、次の便は五時間後だった。
正直、この船を下りて、次の便を待つのは嫌だった。
見ない振りをしたかった…。
ただ……。
女は相当、不器用なのか五つのバッグを一度に持って数歩歩くと一つのカバンを落とした。
そして、二、三歩歩くと、一つ落とす…。
そんな調子だから、この船にも乗り遅れたのだろう。
もう乗船手続きは、終了していた。
女はその事にも、気がついていないようだった。
見れば、十分な魔力を持っていそうなのに、なぜ魔力を使わないのだろう…。
──馬鹿なのか?
スーリは、甲板から見ていたその女を無視して、自分が取った一等室の豪華な客室に戻りたかった。
疲れた体をベッドに投げ出して、早く寝たかった。
……寝るつもり…だった。
スーリがクースリューの魔術で飛ばされた場所は、見知らぬ国の街中だった。
雪の降りしきる中、目が覚め、自分の魔力が格段に上がっている事に、すぐに気がついた。
シャルリンテ様の魔力を半分ずつ分けたのだとすれば、あの方の魔力も半分になっているはず…と焦った。
しかし、一瞬にして思い直しす。
──そもそも、あの方は自分の魔力の、百分の一も使っていなかった。
本気を出せば、クースリューとも渡り合える程の潜在能力を持っていた。
しかし、カルダンテ王に甘やかされ、周りが全てやってくれるので、自分から魔力を使うのは、見せびらかす時と横着をする時だけだった。
そういえば、闘剣技大会で、怪我をした騎士に治癒魔法を施していた事もあったか…。
あれは、オルグ騎士隊長になんとか近づきたいという下心からの行動だった…。
宝の持ち腐れ…とはこの事だ…と、いつもそばで思っていた。
──自分が捜し出さねば、一生会えない…。
その危機感から、必死に捜した。
魔力と、自分の持っている魅力の全てを使い、新興貴族として社交界に入り込んだ。
人脈を作り、あの方の噂話が入ってこないかと、毎日血眼になって捜した。
国中、捜し尽くすと南下して、次の国でも捜した。
…もう、何か国、渡り歩いただろう…。
常に、魔力の波動も追ったが、使っているのが微量なのか、自分の能力が低いのか、何も感じとる事はできなかった。
そもそも、生きて…。
そんな不安と戦いながら、次の国、次の国…と。
南下したのは、あの方に、サシュナを出たら南へ向かう…と言っていたから。
あの方は単純だから、きっと南に向かう…私を捜して…。
いや…もしかしたら、もう私を捜していないのかもしれない…。
そんな焦燥と不安に苛まれ、早二年が過ぎていた。
気がつけば、スーリはその船を下り、カバンに手こずっている女の元へ歩いていた。
背中に、出航した船の汽笛の音が聞こえてきた。
次の便は、五時間後の上、きっと三等室しか空いていない。
この女が、あの方のように、不器用なのが悪い…。
そして、あの方に似た茶色の髪がいけない…。
頭を覆っている白いショールからはみ出た長い髪が、茶色だった。
…ただ、それだけで下船した。
今まで百人以上の女に声をかけた…。
いや、二百人かも…。
そのたび、どきどきと期待した。
そして、あの方でない事に、いつも恐ろしいぐらいの虚無感に包まれる…。
また、同じ事を繰り返すのか…?
今日は特に、疲れている。
また、違う女だったら、しばらくは立ち直れない…。
スーリはピタリと歩みを止め、それ以上近寄るのを止めた。
そして、大きな声で女に喋りかける。
「…魔力を、使えばいいのではないですか?ほら…荷物を消しておいて、後で出す魔術とか…色々、きっとご存知でしょう?」
女はこちらに気がつき、「…ああ!」と手を打った。
そしてそのせいで、二つのカバンを落とした…。
女は、一瞬にして全ての荷物を消す。
両手が楽になって嬉しかったのか、途端にうきうきとした空気を醸し出す。
そしてこちらに向かってペコペコと頭を下げた。
スーリは、くっと笑った。
久しぶりに、変な女を見た…。
まるで、あの方のようだ。
不器用で、抜けていて…それでいて…とても人を惹きつける…。
スーリは日が傾き出した空に目を向けた。
──本当、コレ、病気だな…。
あの方に似た女は沢山いる。
あの方より美人も…性格のいい女も…。
正直、他の女でいいじゃないかと何度も思った。
しかし、気づくといつもあの方を捜している…。
乗船の時間まで、海辺でも散歩しよう…と女に背を向け歩き出した途端、背中のすぐ後ろから懐かしい声が響く。
「…スーリ…?スーリじゃない?私、シャルリンテ…覚えていない?ほら、あの、最後にバラバラに飛ばされて…。クースリューが飛ばしてくれたんだと思うのだけど…。もう、私の事…忘れてしまったかしら?」
スーリは一瞬、心臓が止まるかと思った。
この便を逃すと、次の便は五時間後だった。
正直、この船を下りて、次の便を待つのは嫌だった。
見ない振りをしたかった…。
ただ……。
女は相当、不器用なのか五つのバッグを一度に持って数歩歩くと一つのカバンを落とした。
そして、二、三歩歩くと、一つ落とす…。
そんな調子だから、この船にも乗り遅れたのだろう。
もう乗船手続きは、終了していた。
女はその事にも、気がついていないようだった。
見れば、十分な魔力を持っていそうなのに、なぜ魔力を使わないのだろう…。
──馬鹿なのか?
スーリは、甲板から見ていたその女を無視して、自分が取った一等室の豪華な客室に戻りたかった。
疲れた体をベッドに投げ出して、早く寝たかった。
……寝るつもり…だった。
スーリがクースリューの魔術で飛ばされた場所は、見知らぬ国の街中だった。
雪の降りしきる中、目が覚め、自分の魔力が格段に上がっている事に、すぐに気がついた。
シャルリンテ様の魔力を半分ずつ分けたのだとすれば、あの方の魔力も半分になっているはず…と焦った。
しかし、一瞬にして思い直しす。
──そもそも、あの方は自分の魔力の、百分の一も使っていなかった。
本気を出せば、クースリューとも渡り合える程の潜在能力を持っていた。
しかし、カルダンテ王に甘やかされ、周りが全てやってくれるので、自分から魔力を使うのは、見せびらかす時と横着をする時だけだった。
そういえば、闘剣技大会で、怪我をした騎士に治癒魔法を施していた事もあったか…。
あれは、オルグ騎士隊長になんとか近づきたいという下心からの行動だった…。
宝の持ち腐れ…とはこの事だ…と、いつもそばで思っていた。
──自分が捜し出さねば、一生会えない…。
その危機感から、必死に捜した。
魔力と、自分の持っている魅力の全てを使い、新興貴族として社交界に入り込んだ。
人脈を作り、あの方の噂話が入ってこないかと、毎日血眼になって捜した。
国中、捜し尽くすと南下して、次の国でも捜した。
…もう、何か国、渡り歩いただろう…。
常に、魔力の波動も追ったが、使っているのが微量なのか、自分の能力が低いのか、何も感じとる事はできなかった。
そもそも、生きて…。
そんな不安と戦いながら、次の国、次の国…と。
南下したのは、あの方に、サシュナを出たら南へ向かう…と言っていたから。
あの方は単純だから、きっと南に向かう…私を捜して…。
いや…もしかしたら、もう私を捜していないのかもしれない…。
そんな焦燥と不安に苛まれ、早二年が過ぎていた。
気がつけば、スーリはその船を下り、カバンに手こずっている女の元へ歩いていた。
背中に、出航した船の汽笛の音が聞こえてきた。
次の便は、五時間後の上、きっと三等室しか空いていない。
この女が、あの方のように、不器用なのが悪い…。
そして、あの方に似た茶色の髪がいけない…。
頭を覆っている白いショールからはみ出た長い髪が、茶色だった。
…ただ、それだけで下船した。
今まで百人以上の女に声をかけた…。
いや、二百人かも…。
そのたび、どきどきと期待した。
そして、あの方でない事に、いつも恐ろしいぐらいの虚無感に包まれる…。
また、同じ事を繰り返すのか…?
今日は特に、疲れている。
また、違う女だったら、しばらくは立ち直れない…。
スーリはピタリと歩みを止め、それ以上近寄るのを止めた。
そして、大きな声で女に喋りかける。
「…魔力を、使えばいいのではないですか?ほら…荷物を消しておいて、後で出す魔術とか…色々、きっとご存知でしょう?」
女はこちらに気がつき、「…ああ!」と手を打った。
そしてそのせいで、二つのカバンを落とした…。
女は、一瞬にして全ての荷物を消す。
両手が楽になって嬉しかったのか、途端にうきうきとした空気を醸し出す。
そしてこちらに向かってペコペコと頭を下げた。
スーリは、くっと笑った。
久しぶりに、変な女を見た…。
まるで、あの方のようだ。
不器用で、抜けていて…それでいて…とても人を惹きつける…。
スーリは日が傾き出した空に目を向けた。
──本当、コレ、病気だな…。
あの方に似た女は沢山いる。
あの方より美人も…性格のいい女も…。
正直、他の女でいいじゃないかと何度も思った。
しかし、気づくといつもあの方を捜している…。
乗船の時間まで、海辺でも散歩しよう…と女に背を向け歩き出した途端、背中のすぐ後ろから懐かしい声が響く。
「…スーリ…?スーリじゃない?私、シャルリンテ…覚えていない?ほら、あの、最後にバラバラに飛ばされて…。クースリューが飛ばしてくれたんだと思うのだけど…。もう、私の事…忘れてしまったかしら?」
スーリは一瞬、心臓が止まるかと思った。
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