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エピローグ 1( 8年後 )
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「で、お父様とは別々に、ダート様に飛ばされて、山の中の炭焼き職人と出会って…それで?!」
シャルリンテの座っている椅子に、二人の男の子が取り囲んで目を輝かせていた。
椅子のひじ掛けに手を載せて笑っている子は、金髪で茶色の瞳の元気な男の子だ。
反対側に立っている、もう一人の年下の子は、白に近い金髪で、スーリと同じ青い瞳をしていた。
その瞳が、より涼し気な雰囲気を際立たせている。
二人は、同じ話を何回もしているのに、飽きずに毎回、このくだりをせがむ。
シャルリンテは、腕に抱いている赤ちゃんにミルクをあげ、辟易しながらも笑った。
期待通り二人の男の子の目の前に、ボウッと小さな火の玉を魔術で出す。
「わぁ~!」
魔力の弱い、二人の男の子はシャルリンテの魔術を見て、歓声をあげた。
「…火起こし女として重宝されたのよ…。治癒魔法は目立つから使えなかった。まぁ、内緒でこっそりと皆を治癒したわよ…。私がそこにいた時期、皆、怪我も病気もなくって平和だったでしょうね…」
自己満足に浸りながら、シャルリンテはため息をついた。
「瞬間移動は使わなかったの?便利なのに…」
「…お母様ね、魔術の勉強をかなりサボったから、遠距離の瞬間移動を使うと、たまに失敗するの…。近いのは得意なんだけど。失敗して、カリストに戻ってしまったら怖いでしょ?だから…」
「だから、歩いて山を越えたんだよね?南へ向かいながら山を下り、港でお父様とまた会えて…」
そこへ、瞬間移動で帰宅したスーリが目の前に現れる。
二人の男の子は、帰宅した父親を見て歓喜した。
スーリは、抱っこをせがんだ次男を抱きあげながら言った。
「そしてお母様は私の顔を見て、違う人だと思って去って行こうとしたんだよ…おかしいだろう…?」
おかしいだろう…というわりに、スーリの顔は全く笑っていなかった。
スーリは八年たった今も、その事を根に持っていた…。
「あら…お早いお帰りで…。話、聞こえていたの?」
「ええ…少しだけ。ただいま…奥様。今日はあと一回…の日ですね。覚えていますか?だから早く帰ってきた…」
スーリは、色っぽく微笑んだ。
シャルリンテはそう言われ、「ああ…」と小さく返事をする。
「返されていない魔力は半分だから…と、500回の時に戻るかと思ったら、戻らなかったものね。やはり、1000回なのかしらね…」
浮かない顔のシャルリンテに、スーリは聞いた。
「…魔力…戻るの…嬉しくないんですか?」
「…だって、私、普段から、ほとんど魔力使わないし…それに…」
「──それに?」
「あなた、返し終わったら…もう、義務を果たしたと…思ってしまうでしょう?」
スーリは、シャルリンテの言わんとしている事を理解した。
「…奥様、私は義務と思った事など一度もないですよ。魔力が戻っても、変わらずにあなたを…」
そう言って、小さな包みをシャルリンテに渡した。
「…?」
「仕事で教えている家の方からいただきました。あなた、甘い物お好きでしょう?それとクースリューとダートが結婚するそうです。新婚旅行の途中に、ここに寄ると……。やっとですね…」
スーリは届いた手紙に、目を通しながら言った。
「二人とも気が強いから…。私のように一歩引くところがあれば、クースリューも、もっと早く結婚できたかもね…」
そう語るシャルリンテを、スーリは静かに見ていた…。
シャルリンテが包みを開けると、かわいらしいハートのクッキーが現れる。
スーリは、貴族の子息や令嬢に魔術を教える仕事をしていた。
表に出る仕事ではないから、ちょうどいいと言って…。
ここは南国の辺境の地で、魔術を使える者も、一部の貴族だけだ。
その貴族も皆、ごくごく弱い魔力しか持たない。
平和なこの場所では、それでなんの支障もなかった。
しかし、スーリの洗練された魔術を目にした貴族の親達は、教養としてそれを我が子に学ばせたがった。
その為、スーリを争って雇いたがり、魔術の先生としてスーリは引っ張りだこだった。
懸念点は、たびたび教え子の中にスーリに、憧れる子女が現れる事。
それが嫌だったシャルリンテは、違う仕事はないのか?もしくは自分が働きに行く…と何度も言った。
そのたびスーリは、しれっとこう言う。
「あなたが、嫉妬してくれるのが嬉しい…。侍女の時は嫉妬など一度もしてもらえなかったから…」
クースリューが言っていた、「綺麗な顔の裏で酷い事をする…」というのは本当かも…と思った。
「…不安にさせておかなければ、あなた、私の事など、飽きて捨ててしまうでしょう?」
そんな冗談か本気か分からない事を、三人の子どもがいるにもかかわらずにいつも言う…。
育児にくたびれ果て、疲れた顔の女を見て、なぜそんな心配が湧くのか不思議だった。
シャルリンテが、そんな事を考えていると、大人しく遊んでいたはずの二人の男の子が、些細な事で喧嘩を始めた。
スーリは、そんな二人をじっと見ながら言った。
「…記念すべき日だから今夜はあなたとゆっくり過ごしたい…。だからこの子達を確実に寝かす…。今から外で少し遊ばせてきます…」
「…今から?もう暗くなるわよ?」
「ええ…分かってます…」
そう言うと、二人の子どもの手を繋ぎ、薄暗くなり始めた外へ出て行った。
この地は、スーリの理想通りの場所だった。
スーリとシャルリンテは、辿り着いたこの場所が気に入り、そのまま居着いてしまった。
陽気な国柄で、温暖な気候。
そして、日も長い。
……そうは言っても、もう子どもが外で遊ぶ時間ではなかった。
シャルリンテは、腕の中でシャルリンテの髪を、おもちゃにして遊んでいる娘に言った。
「二人を寝かしたってね…あなたは数時間おきに起きるのにね…?」
娘は髪が茶色である事以外は、父親似だった。
その茶色の髪には、金色の筋がいくつも入っている。
強力な魔力を撒き散らしながら笑う娘に、シャルリンテはキスをした。
「あなたも、将来、魔力をちゃんと返してくれるだんな様と結婚するのよ?」
そう言って、シャルリンテは幸せなため息をついた。
シャルリンテの座っている椅子に、二人の男の子が取り囲んで目を輝かせていた。
椅子のひじ掛けに手を載せて笑っている子は、金髪で茶色の瞳の元気な男の子だ。
反対側に立っている、もう一人の年下の子は、白に近い金髪で、スーリと同じ青い瞳をしていた。
その瞳が、より涼し気な雰囲気を際立たせている。
二人は、同じ話を何回もしているのに、飽きずに毎回、このくだりをせがむ。
シャルリンテは、腕に抱いている赤ちゃんにミルクをあげ、辟易しながらも笑った。
期待通り二人の男の子の目の前に、ボウッと小さな火の玉を魔術で出す。
「わぁ~!」
魔力の弱い、二人の男の子はシャルリンテの魔術を見て、歓声をあげた。
「…火起こし女として重宝されたのよ…。治癒魔法は目立つから使えなかった。まぁ、内緒でこっそりと皆を治癒したわよ…。私がそこにいた時期、皆、怪我も病気もなくって平和だったでしょうね…」
自己満足に浸りながら、シャルリンテはため息をついた。
「瞬間移動は使わなかったの?便利なのに…」
「…お母様ね、魔術の勉強をかなりサボったから、遠距離の瞬間移動を使うと、たまに失敗するの…。近いのは得意なんだけど。失敗して、カリストに戻ってしまったら怖いでしょ?だから…」
「だから、歩いて山を越えたんだよね?南へ向かいながら山を下り、港でお父様とまた会えて…」
そこへ、瞬間移動で帰宅したスーリが目の前に現れる。
二人の男の子は、帰宅した父親を見て歓喜した。
スーリは、抱っこをせがんだ次男を抱きあげながら言った。
「そしてお母様は私の顔を見て、違う人だと思って去って行こうとしたんだよ…おかしいだろう…?」
おかしいだろう…というわりに、スーリの顔は全く笑っていなかった。
スーリは八年たった今も、その事を根に持っていた…。
「あら…お早いお帰りで…。話、聞こえていたの?」
「ええ…少しだけ。ただいま…奥様。今日はあと一回…の日ですね。覚えていますか?だから早く帰ってきた…」
スーリは、色っぽく微笑んだ。
シャルリンテはそう言われ、「ああ…」と小さく返事をする。
「返されていない魔力は半分だから…と、500回の時に戻るかと思ったら、戻らなかったものね。やはり、1000回なのかしらね…」
浮かない顔のシャルリンテに、スーリは聞いた。
「…魔力…戻るの…嬉しくないんですか?」
「…だって、私、普段から、ほとんど魔力使わないし…それに…」
「──それに?」
「あなた、返し終わったら…もう、義務を果たしたと…思ってしまうでしょう?」
スーリは、シャルリンテの言わんとしている事を理解した。
「…奥様、私は義務と思った事など一度もないですよ。魔力が戻っても、変わらずにあなたを…」
そう言って、小さな包みをシャルリンテに渡した。
「…?」
「仕事で教えている家の方からいただきました。あなた、甘い物お好きでしょう?それとクースリューとダートが結婚するそうです。新婚旅行の途中に、ここに寄ると……。やっとですね…」
スーリは届いた手紙に、目を通しながら言った。
「二人とも気が強いから…。私のように一歩引くところがあれば、クースリューも、もっと早く結婚できたかもね…」
そう語るシャルリンテを、スーリは静かに見ていた…。
シャルリンテが包みを開けると、かわいらしいハートのクッキーが現れる。
スーリは、貴族の子息や令嬢に魔術を教える仕事をしていた。
表に出る仕事ではないから、ちょうどいいと言って…。
ここは南国の辺境の地で、魔術を使える者も、一部の貴族だけだ。
その貴族も皆、ごくごく弱い魔力しか持たない。
平和なこの場所では、それでなんの支障もなかった。
しかし、スーリの洗練された魔術を目にした貴族の親達は、教養としてそれを我が子に学ばせたがった。
その為、スーリを争って雇いたがり、魔術の先生としてスーリは引っ張りだこだった。
懸念点は、たびたび教え子の中にスーリに、憧れる子女が現れる事。
それが嫌だったシャルリンテは、違う仕事はないのか?もしくは自分が働きに行く…と何度も言った。
そのたびスーリは、しれっとこう言う。
「あなたが、嫉妬してくれるのが嬉しい…。侍女の時は嫉妬など一度もしてもらえなかったから…」
クースリューが言っていた、「綺麗な顔の裏で酷い事をする…」というのは本当かも…と思った。
「…不安にさせておかなければ、あなた、私の事など、飽きて捨ててしまうでしょう?」
そんな冗談か本気か分からない事を、三人の子どもがいるにもかかわらずにいつも言う…。
育児にくたびれ果て、疲れた顔の女を見て、なぜそんな心配が湧くのか不思議だった。
シャルリンテが、そんな事を考えていると、大人しく遊んでいたはずの二人の男の子が、些細な事で喧嘩を始めた。
スーリは、そんな二人をじっと見ながら言った。
「…記念すべき日だから今夜はあなたとゆっくり過ごしたい…。だからこの子達を確実に寝かす…。今から外で少し遊ばせてきます…」
「…今から?もう暗くなるわよ?」
「ええ…分かってます…」
そう言うと、二人の子どもの手を繋ぎ、薄暗くなり始めた外へ出て行った。
この地は、スーリの理想通りの場所だった。
スーリとシャルリンテは、辿り着いたこの場所が気に入り、そのまま居着いてしまった。
陽気な国柄で、温暖な気候。
そして、日も長い。
……そうは言っても、もう子どもが外で遊ぶ時間ではなかった。
シャルリンテは、腕の中でシャルリンテの髪を、おもちゃにして遊んでいる娘に言った。
「二人を寝かしたってね…あなたは数時間おきに起きるのにね…?」
娘は髪が茶色である事以外は、父親似だった。
その茶色の髪には、金色の筋がいくつも入っている。
強力な魔力を撒き散らしながら笑う娘に、シャルリンテはキスをした。
「あなたも、将来、魔力をちゃんと返してくれるだんな様と結婚するのよ?」
そう言って、シャルリンテは幸せなため息をついた。
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