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学園編
16.名探偵フェリアル
しおりを挟む「そうだ。ちょうど生徒会のメンバーも集まっていることだし、この際だから役職も決めてしまおうか」
新制生徒会が誕生して間もなく。
オーレリア兄様が優雅に紅茶を嗜みながらそう声を上げた。
「いいですね、賛成です。何度も集まるのも面倒だし効率よくいきましょう」
「僕、きちんとお役に立てるかな……」
いかにも皇子様って感じで堂々と頷くアランと、もじもじ萎縮する僕。
正反対な僕達を見て呆れたように肩を竦めたアディくんが、ふと何かを思い出した様子で「そういや……」と扉に目を向けた。
「あの自由な感じの書記先輩はいませんけど、いいんですか?役職なら大事なことだし、全員揃ってからの方がいいんじゃ」
「あぁ、彼のことは気にしないで。耳聡いから、きっとどこかで会話を聞いていると思う」
「マジで物理的に地獄耳なのか……」
安定のアディくんによるツッコミが入ったところで、今度は僕が恐る恐る手を挙げた。
「あのぅ……僕にもできるお仕事、ありますでしょうか……」
生徒会の役職っていったら、いかにも頭の良さそうなかっこいいやつだろう。
果たして僕みたいな世間知らずでもこなせる仕事なのか。不安で眉尻を下げる僕に、オーレリア兄様はくすくす笑いながら答えた。
「もちろん。生徒会の仕事は多岐に渡るからね。フェリアルの力は生徒会にとって重要なものになるはずだよ」
「……!そ、それなら、よかったです」
ひとまずほっと一息だ。
生徒会の仕事については、何やらお金の計算をしたり書類を書いたり……正直、この程度のぼんやりしたイメージしかない。
どんなことをやるのかな、とそわそわしたり考え出す新参者の僕達。
ローダに「説明」と全てを丸投げされたオーレリア兄様が、会長のローダに代わってしっかりと説明してくれた。
「生徒会の役職は、会長、副会長、書記、会計、庶務。主にこの五つに分けられているよ」
一気に情報を詰め込むと目を回してしまう体質の僕を気遣ってだろうか。
オーレリア兄様は、ご丁寧に部屋の隅からホワイトボードを引っ張って文字に起こしてくれた。
ありがたいけれど、僕ってばちょっぴり情けない。
「一応、会長と副会長の説明もしておこうか。この役職は、イベント事で表に出ることが多いね。僕は専ら、ローダが働いた無礼の尻拭いをするのが仕事だ」
やれやれと首を振るオーレリア兄様に、三人揃って苦笑が零れてしまった。
ちなみに、嫌味を向けられた先であるローダは特に動揺も見せずふんぞり返っている。
流石は学園を背負って立つ生徒会長だ、まさに傍若無人の鑑といったところだろうか。
「書記は議事録の作成が主な仕事だね。他の委員も集まる会議では言葉が飛び交って大変だけれど、耳の良いグリーンが的確にまとめてくれているよ」
なるほど。どうやら書記に関しては、天職ともいえるグリーン先輩がしっかり役割を果たしているようだ。
となると、書記に加わる必要はなさそうかな。アランとアディくんもそう判断したらしく、書記の説明については軽く聞き流していた。
オーレリア兄様は僕たちの反応を見てうんうんと頷くと、ボードに書かれた『会計』と『庶務』に大きくマルをつけた。
「察しての通り、問題は会計と庶務だ。まずは会計から説明するね」
ボードに何やら難しそうな単語が書き込まれていく。
その段階で、僕は光の速さで察した。あ、だめだ。どうやら僕に会計は向いていない、と。
「会計の仕事は主に、部費や行事予算の管理。今までは僕達でなんとか回していたのだけれど、そろそろ大きな行事も控えているからどうしようかと悩んでいたんだ」
「それは、確かにそうですよね。特に一番デカい文化祭がありますし」
「数学は得意だし、こういう几帳面な仕事は結構合うかも」
僕が冷や汗をたらたらする横で、どうやらアディくんとアランは会計の仕事に魅力を感じているようだった。
それなら……!とこういう時だけ頭が冴える僕、シュパッと手を挙げて提案してみた。
「会計は、アランとアディくんがいいと思います!僕、しょむ?やります!」
「え、いいのか?」
「そんな、気を遣わなくても……」
申し訳なさそうに眉尻を下げる二人に僕の方が罪悪感に苛まれた。
自分に会計の才能がないからと半ば押し付ける感じになっちゃっただけなのに、なぜか『恵まれた仕事を友達に譲る優しい子』みたいになってしまった……。
「う、うん。いいの、というか、庶務やりたいの。僕、計算は苦手だから、会計は二人のほうがいいかなーって、思っただけなの」
申し訳なくなったので、すんなり白状することにした。
ごめんね二人とも、難しい仕事を押しつける最低な友達で。
しょんぼりと肩を落としつつ自己嫌悪に沈んでいると、二人は特に怒ることもなくあっさりと笑った。
「なんだ、そういうことか。ま、確かにフェリアルにこういうチマチマした作業は向いてねぇな。お前はもっとこう、ドデカい何かしらを成し遂げるタイプだ」
「そうだね。フェリアルはなんというか、爆弾みたいなものだからね。予算表とか、細かい書類を持たせるのはちょっと、いや、かなり不安だよね」
「ぐ……ぐぬぬぅ……」
あれれ、どうしてだろう。まったく褒められている気がしない。
とはいえ二人に会計を押しつけた手前、偉そうに反論することもできない。
諦めてむぅっと頬を膨らませるだけに留めると、オーレリア兄様が困ったように笑って僕の頭を撫でた。
む、むぅ……そんな、なでなでされたってそう簡単に機嫌は戻らな……むっ!オーレリア兄様ったら、なでなで上級者だ。
心地良くてあっという間に機嫌が元通りである。
「どうやら役職は決まったも同然だけれど、とりあえず庶務についても説明するね」
僕の役職だ、と慌てて姿勢を正す。
オーレリア兄様はペンを取り、ボードに書かれた庶務の時から何本も線を引っ張った。
あれ……もしかして、庶務って結構やること多いのかな。
「庶務は特殊でね。言ってしまうと、明確な仕事は特にない。強いて言えば、生徒の困り事を聞いたり話を聞いたりして、学園の情勢維持を仲介するのが主な仕事かな」
「じょーせーいじ……」
真面目な顔をして頷くけれど、ちょっぴりついていけていない。
僕の賢い子ぶった反応に目敏く気付いたアディくんが、呆れ顔をしながらもすかさず説明してくれた。
「簡単に言うと、学園でデカい揉め事が起こる前に根元を絶つってことだ」
「ふむ……」
「あー……そうだな、アレだ。探偵だ。困ってる生徒の依頼を受けて、それを華麗に解決!生徒会の名探偵フェリアル!これがお前の仕事だ。わかったか?」
「名探偵フェリアル……!わかった!僕がんばる!」
お顔キラキラ。瞳キラキラ。
学園の探偵……なんてワクワクドキドキな肩書きなんだ。
依頼を受けたからにはどんな謎もサラリと解き、あらゆる難事件を華麗に解決する。
そう、僕の目に偽証は映らない。なぜなら真実はいつもひとつ、じっちゃんの名にかけて誓おうじゃないか。えっへん。
「きまり!ローダ、会長!オーレリア兄様、副会長!グリーン先輩、書記!アランとアディくん、会計!そして僕、名探偵!」
「うん、庶務な」
ウィーン、がちゃん。
ここでおっきな扉が閉まり、ねくすとふぇりあるずひんとへ──
ふふんと胸を張り、僕は改めて新制生徒会の誕生を喜ぶのであった。
「フェリアルはいつもこうなのか」
「はい。見ての通り、天使の皮を被ったポンコツです」
「隙を見せるとすぐこうなるから、目を光らせないとね」
「本当に、見ていて退屈しない可愛い従兄弟だなぁ」
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