余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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学園編

60.成長と生徒会長

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アディくんは、どうやら選択に対する迷いを捨てたらしい。
僕はただ話を聞くことしかできなかったけれど……僕と話したことで、少しでもアディくんの心が休まったなら嬉しいな。

その後はいつも通り教室へ向かって、授業を受けて、もうすっかり日常になった一日を過ごした。

昼休みになると、アディくんは先生に用事があるからと言ってどこかへ行ってしまい、珍しく僕は一人に。
とりあえずご飯を食べに行こうと、僕は学食へ向かった。



***



食堂は今日も賑やかだ。
周囲から絶えず向けられる無数の視線にも慣れたもので、僕は特に注目を気にせずメニューを眺めた。


「今日のおすすめは……」


ハンバーグか。
うんうん、ちょうどお肉の気分だったし、今日はハンバーグにしよう。

早速注文しに行こうとすると、ふと背後からそわそわと緊張したような声を掛けられた。


「あ、あの!エーデルスさん!」


慣れない呼ばれ方だったので反応が遅れてしまった。

数拍置いてようやく、今のは自分が呼ばれたのかと気付いて慌てて立ち止まる。
「はい!」と返事をして振り返った先には、何やら大人しそうな三人組の男子生徒がいた。
三人とも頬を染めたり身体を揺らしたりと、なんだかちょっぴり忙しない。


「どうしました?」

「あ、あっ、あの!これ!これ、さっき落とされました!」


三人組の真ん中に立っていた生徒が、直角に腰を曲げて恭しく何かを差し出してくる。
勢いに気圧されながらも恐る恐る受け取り、それが確かに自分のハンカチだと気付いて、僕は慌てて彼らに続くように頭を下げた。


「わっ、ありがとうございます!わざわざ、拾ってくれて」

「いえ!いえいえ!当然でございます!突然お声がけして申し訳ございません!」


互いにお辞儀の深さを競い合うように謝り倒す様子は、傍から見るとかなりシュールに映ったことだろう。

それにしてもこの人……後輩なのか?まさかの先輩なのか?
学園の生徒達は大抵僕にはものすごく腰が低いから、こういう人でも確認するまでは普通に先輩の可能性が残っている。


「えぇっと、それじゃあ……、ん?」


この騒ぎで周囲からの注目を増してきたし、ひとまずさっさと退散しよう。
そう思ってその場を去ろうとしたけれど、僕はふと三人組が抱えている本を見て動きを止めた。

そして、その本のタイトルを読んで目を見開く。


「……あの、それってもしかして、異国文化の?」


恐る恐る尋ねてみると、彼らは揃って勢いよく顔を上げた。
そこに浮かぶのは驚いたような表情だ。同時にそわそわと忙しなく瞳を揺らして、先頭の……僕のハンカチを渡してくれた生徒が小さく頷いた。


「は、はい。我々、しがない地理オタクでして……他国の文化や歴史を日々語り合っているのです……」


眼鏡くいっ。
真ん中の彼が話すと、両脇に立つ二人も頷きながら眼鏡をクイッと上げた。

なるほど、なるほど。
気の合う友人たちと趣味のことで楽しくお喋り……いいな、僕もそれ、したい。
それに、この三人組とは僕も気が合いそうだ。なんて、勝手にそう考えるのは烏滸がましいというか、迷惑かもしれないけれど。

僕は彼らが抱える興味深い本を見つめて、やがてふむふむと頷いた。


「僕も、地理好きです。最近も、遠い国のことを調べていて」

「えッ!そうなのですか、帝国の救世主であるあなたも、帝国の外に興味がおありで!?」

「うん。あ、はい。今は、サマリスって国を調べてます。海がきらきら光ってて、すごくきれいだって」

「ほほう!サマリス!それはお目が高い!かの国の海は美しく清潔で、噂によると海底には人魚が住む都もあるとか」


初耳の情報にピクッと反応する。
なんと。サマリスには人魚さんもいるのか。それは資料室で見つけた本にはなかった話だ。
彼らは地理に詳しいみたいだし、こういう情報も学園以外の場所から得られるのだろう。

僕はずっと一人で調べていたから、誰かから教わるという選択肢がそもそもなかったな。


「うーん……」


ふと腕を組んで考える。
そうだ。僕にも同じ趣味を持つ友人がいれば。そうすれば、帝国の外についてもっと詳しく知ることが出来るんじゃないか?

そう思い、僕は早速彼らに声を掛けた。


「あの!もしよかったら、時間が空いている時、僕もみなさんのお喋りに参加させてもらってもいいですか!」


緊張で頬が紅潮する。
自分から人との交流に深入りするなんて慣れなくて……でも、夢のためには成長が不可欠だから。


「僕、帝国の外の世界について、知りたくて……でも、どうしても一人じゃ、いっぱい色んなことを知るの、難しいから……」


ドキドキと鼓動が大きな音を立てる。
断られたらどうしよう。引かれたらどうしよう。たくさんの不安が湧き上がって震えていると、やがて彼らは応えてくれた。

予想とは異なり、とっても嬉しそうな表情で。


「もちろんです!光栄です!エーデルスさんは歴史学や大陸文化の試験で常に首席でおられますし、我々もぜひ一度議論を交わしてみたかったのです!」

「地理の発表レポートを拝見いたしましたが、それはもう素晴らしかったです!国外への好奇心が強く表れたとても興味深いレポートでした!」

「異国文化の解釈について、ぜひエーデルスさんの見解もお伺いしたく思います!!」


眼鏡クイッとしながら興奮した様子で迫ってくる三人組。
僕はしばらくポカンと彼らを見上げた後、やがて思わず笑みを吹き出してしまった。

ちょっぴり変わった人たち……でも、とても素敵な出会いであることは間違いない。


「うん、うん……うれしい。いっぱいお喋りできるの、とっても楽しみです」


僕はへにゃへにゃと緩み切った笑顔を浮かべながら、ひとまず彼らと改めて自己紹介をし合ってお開きにすることにした。

流石にここでこれ以上話すのは周囲の視線が気になり過ぎるし、どうせなら続きは静かな場所で話したい。
どうやら彼らはいつも休み時間になると図書室で過ごすそうなので、暇が出来たらいつでも来てほしいと誘われた。

これから時間が出来た時は、“夢”の達成に必要な知識を深めるためにも図書室へ通ってみよう。

彼らと一度お別れすると、僕はルンルン気分で生徒会メンバーが集ういつもの部屋へと向かった。



***



僕はとっても得意気な気持ちだった。


「ふんふん、ふふふん」


心なしかいつもより鼻歌も上機嫌だ。
自分からはじめましての人と仲良くなるべく喋って、動いて、誘って。
自分でも自分の成長がよく分かる。昔の僕なら、絶対にこんなこと出来なかった。

きっとあの場にシモンやライネスがいたら、それはもう涙すら溢れさせながら褒めてくれたんだろうな。

兄様達もレオも、きっとローズやルルまで。
学園に入学してから今日までの短い間。こんなに短時間で人間は大きな成長が出来るんだよと、そう教えてあげたらきっと皆がびっくりするはず。


「こんど、お手紙で教えてあげよう」


ここまでの僕の成長記録を、大事な人たちに手紙で報告してみよう。
そう考えて、僕はまたふんふんと上機嫌に足取りを軽くした。

いつもの個室へ向かって、お昼ご飯を食べて……そうだ。今日もとっても気分が良いから、自分からデザートを頼んだりするのもいいかもしれない。

注文した食事が出来るまでまだかかるだろうし、それを待つ間に誰かとお喋りでも出来たらいいのだけれど。

なんて思いながら目的地に辿り着くと、僕はそこに見えた光景にぱちくりと瞬いた。


「──おやフェリアル。いらっしゃい、昼食は注文してきた?」


部屋へ入ると、初めに声をかけてくれたのはオーレリア兄様だった。
その言葉にこくこくと頷き、また視線を正面へ戻す。オーレリア兄様も、僕の視線の先を辿って何やら苦笑した。


「あぁ、これね。たった今、話がまとまったところなんだ」


オーレリア兄様の不思議な言葉に首を傾げる。
話がまとまったって……一体なんのことだろう。

少なくとも今分かるのは、目の前の光景だ。
いつもながら気怠そうにソファへ腰掛けるローダのそばに、何やら真剣な顔をしたアランが立っていた。


「アラン、どうかしたの?」


ローダとアランが喋っているところ、考えてみればあまり見たことがないな。
珍しい光景だということを理解して瞬く僕に、背後からゆっくりと追ってきたオーレリア兄様が状況を説明してくれた。


「今、ローダンセとアラン君が話をしていたところなんだ。来年の生徒会長について」

「……来年の、生徒会長?」


振り返ったアランが、僕に「待ってたよフェリアル」と微笑みかける。
一体なんの話をしていたのかと尋ねると、アランは呆れたようにローダを見下ろして答えた。


「この人、会長の続投はしないみたいでさ。それについて話し合ってたんだけど……」


切り出された初めの言葉に息を呑む。
そうか、ローダは来年になったら生徒会長をやめちゃうのか。てっきり卒業まで会長を続けるのかと思っていた。
ローダは今二年だし、むしろここで交代というのもかなりイレギュラーだ。

……って、そういえば、その話がどうしてアランに繋がるんだっけ?
疑問が顔に浮かんでいたのか、アランは苦笑しつつもあっさりと答えた。



「来年の生徒会長、僕がなることにしたんだ」

「……へ?」



お手本のようなびっくり顔をしてしまう。
「ええぇぇッ!?」と大声を上げたのは、それから数秒後のことだった。
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