422 / 423
学園編
61.変わること
アランはそもそも生徒会に入ることすら渋っていたし、会長なんてもってのほかだったのにどうして。
あからさまにびっくり仰天する僕を見て呆れ顔を浮かべたアランだけれど、ふと照れくさそうに頬を染めて小さく呟いた。
「……まぁ、僕もそろそろ成長しようと思ってね。フェリアルやアディみたいに」
僕やアディくんみたいに?
きょとんと首を傾げると、アランは「少しだけどアディから聞いたよ」と、僕が今朝アディくんから受けた相談のことを口にした。
アディくん、あのことをアランにも話したのか。
それじゃあアランは、アディくんが素敵な夢を抱いていることを知って……なるほど、そういう意味の成長か。
「で、でもアラン、苦手なことは、むりしなくても」
心配でそわそわと身体を揺らす。
生徒会に入る時、アランは本当に迷っていた。僕がいるからと一緒に入ってくれたけれど、それは苦渋の決断だったはずだ。
アランは僕の不安を悟ると、ふと複雑そうに微笑んだ。
「あぁ……まぁ、最初はそりゃ渋ってたよ。兄上と比べられるのが目に見えていたからね」
力無く呟くアランに息を呑む。
やっぱり、アランが一番悩んでいたのはレオのことか。
確かにそれについては否定できない。きっと会長になれば、アランは嫌でもレオとの比較を受ける時が来るだろう。
レオが悪いわけじゃない。もちろん、アランだって優秀だし上に立つ人間として相応しい。
でも、レオはあまりに優秀過ぎた。とっくに学園を卒業した今もなお、歴代最高と呼ばれる伝説の生徒会長として名を馳せるくらいだ。
そんな中、アランは三年で会長職に就くことを決意した。
そこにはどれほどの覚悟が潜んでいるのか、僕なんかにはまるで計り知れない。
「兄上と比較されたくないから逃げ続ける、なんて。それこそ笑い者だって気付いたんだ」
僕の正面に立つと、アランは僕の手をとって軽やかに笑う。
そこに後悔は滲んでいなかった。
「兄上と比較したメリットもデメリットも必要ない。僕は僕だ。僕の好きなように、やりたいようにやるよ」
アランの肩越しに、ローダがほんの微かに笑ったのが見えた。
オーレリア兄様もうんうんと頷いて微笑んでいる。そんな二人の様子が滲んで見えてきた頃、僕は自分が涙ぐんでいることに気が付いた。
ぶわっと目頭が熱くなって、僕はアランに握られた手をするっと抜いて、代わりにアランをぎゅうっと抱き締めた。
「わっ……!」
「うんうんっ!アランえらいっ!とっても!すてきだよっ!」
この感動をどう伝えればいいか分からなくて、とにかくアランの背中や頭を撫で回しながら「偉い!」と繰り返した。
ちょっぴり上から目線な言い方かもしれないけれど、褒めるといったらこの言葉しか浮かばないから。
アランの成長を目の当たりにして、僕はもう溢れる涙を止められない。
しばらくぱちくりと固まっていたアランは、やがて小さく吹き出して笑った。
「ふはっ!そんな、別に泣くことじゃないでしょ」
「なぐよぉっ!アランえらすぎるよぉっ!」
「あーもうわかった、わかった。フェリアルってほんと涙脆いよね」
ぐすん、ぐすんと号泣する僕を離すと、アランはハンカチで目元を優しく拭ってくれた。
お手を煩わせて申し訳ない……と落ち着きつつ、ハンカチを受け取ってびしょ濡れのほっぺを自分の手で拭う。
アランは僕の頭をよしよしと撫でながら、何やらすっと目を細めて微笑んだ。
「全部、フェリアルのおかげだよ」
「……へ?ぼくのおかげ?」
って、なんのこと?
僕何かしたっけ?と首を傾げると、アランは仕方なさそうに笑った。
「なんかさ、どう言えばいいか分からないけど、フェリアルを見てると不思議と思うんだよね。あー僕も頑張らなきゃなー、みたいな?」
「えぇ?」
なぁにそれ、と眉尻を下げる。
よく分からないけれど、僕はただ生きているだけで何か周りに影響を与えられるらしい。いつの間にそんな特殊能力が……。
困惑顔の僕をよそに、何やらオーレリア兄様やローダまでこくこくと頷き始めた。
「それ分かるよ。フェリアルの生き方っていつも真っ直ぐだからかな?見ているだけで元気づけられるよね」
「……確かに、常にちょこまかしていて癒される」
ローダのそれは褒めているのだろうか……。
少し不服な気持ちになりつつも、けれど良いことを言われているというのは分かるから悪い気はしない。
とりあえずえっへんと胸を張ってみる。
なんだか分からないけれど、僕を見れば頑張れるのなら、僕はいつだってアランや皆の周りをちょこまかしようじゃないか。ふふん。
「まぁ、とにかくそういうわけだから。来年は僕が生徒会長だから、フェリアルもまた生徒会やってくれるよね?」
「うん?うん!もちろん!」
アランを支えるためなら喜んで生徒会を続けるに決まっている。
あ……でも、そうなるとローダは来年どうなるんだろう。
ふと疑問に思って尋ねると、その問いにはオーレリア兄様が応えてくれた。
「あぁ、ローダンセは来年の生徒会には入らないよ。推薦を受けても断るつもりらしい」
「え!ローダ、そうなの?」
「あぁ。そろそろ飽きてきた頃だったからちょうどよかった」
飽きたからやらないのか……ま、まぁローダらしくて何よりだ。
来年はオーレリア兄様も卒業して、ローダも生徒会を抜ける。
グリードは年齢的に色々と謎だけれど、一応三年だから卒業ということになるのだろう。
となると残るのはアランと僕と、たぶんアディくんも一緒だからこの三人だけか。
新しい人たちも入って、また新制生徒会が発足するんだろうな。
そう思うと、なんだか妙な気持ちになった。
「……そっか。来年は、いっぱい変わるね」
ぽつりとした呟きが耳に届いたのはアランだけだった。
アランは僕を見下ろすと、何やら困ったように微笑んでまた頭を撫でてきた。
なんだろう。僕、何かおかしな表情でも浮かべていたかな。
「そうだね。これからも、生きていれば色んなことが変わるよ」
アランの言葉にぱちくりと瞬く。不思議な感覚がまた増した。
「なんだか、人生みたいだね」
「ははっ!そうだね、人生だからね」
おかしそうに笑うアランを見て、僕もなんだかおかしくなって笑った。
そっか。これは人生だ。
時間は流れるし、物語みたいに途中でぷつんと途絶えるわけじゃない。
これからも色んなことが変わって、終わって、また始まる。それが普通なんだ。
ふと心の奥底に、なにかモヤみたいなものが生まれた気がした。
僕は胸をきゅっと手で押さえて、奇妙な感覚に首を傾げることしか出来なかった。
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
表紙は自作です(笑)
もっちもっちとセゥスです!(笑)
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております)
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)