余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

196.きえた侍従

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「……ありゃ、そろそろ時間切れみたいだな」


 気絶しているお兄さんをげしげし蹴って起こそうとしていたトラードが、不意に外から聞こえた喧噪を振り返り残念そうに声を上げた。
 ローズが壁の崩れた場所に向かい、軽く身を乗り出して塔の下を見下ろす。面倒くさそうに踵を返して戻ってきたローズは、トラードとお兄さんを交互に見据えて呟いた。


「面倒だ。騎士団の到着が想定より早い」

「まぁあんだけド派手な登場したからな。そらそうなるわ」


 どうやら騒ぎに気が付いた騎士団が駆けつけて来たらしい。トラードの言葉にそろりと崩れた壁に視線を向け、確かにこれはすぐに事態がバレそうだと納得した。
 突然塔の壁がどかーんと壊れているのに、騒ぎに気付かれないはずがない。

 ローズたちは暗殺者だけれど大丈夫なのかな。そう思いそわそわ眉を下げる僕の不安をよそに、二人は特に焦った様子も見せず冷静な態度で話始める。


「でもどうするよ。今コイツ奪われんのはキツいぜ。下手すりゃ神殿の地位を揺るがすような情報持ってるかもしれんのに」

「……確かにそうだな。この場所にしろ多額の依頼料の出処にしろ、今回の件に裏がある事は確実だ」

「リュウも言ってたからなぁ。取り敢えずこの依頼料については…個人が出せる額じゃない」


 何やら真剣そうに話し合っている二人。それをぽーっと見つめていた時、不意にあることを思い出してハッとした。

 僕を抱っこして頭なでなでしてくれているライネスにぱっと丸い瞳を向ける。ライネスは僕の突然の動きにぴたりと手を止め、ぱちくりしながら「どうしたの?」と首を傾げた。
 その冷静な姿を見ると逆に焦りがあわあわ湧いて、冷や汗たらたらーっとしながら問い掛ける。思い出した今、一番気になる疑問を。


「シモン。どこ?」


 問いは予想以上に部屋に響き、ローズとトラードの会話もふと止んだ。
 ライネスが「あぁ」とぱちぱち瞬く。色々とあったせいだろうか、今の今までシモンの存在を忘れていたみたいだ。


「彼は…ごめんね、分からないんだ。店でシモンが消えた瞬間は確かに見たけれど、それ以降は何も…。シモンのことだから、一足先に影でフェリの元に転移したと思っていたけど」


 それも違ったみたいだね。そう言って眉を下げるライネスにしょぼんと肩を落とした。あの場に一緒にいたライネスも、シモンの行方を知らないのか。

 ライネスが知らないなら…それじゃあ、シモンは本当にどこへ行ってしまったのだろう。考え始めると不安が止まらなくなって、ライネスの腕の中でそわそわ体を揺らす。
 むぎゅ、と宥めるような抱擁をされて少し落ち着き、不安の原因を震える声でぽそりと呟いた。


「血の誓約。どこにいても、いっしょ。誓約…いま、かんじない。シモン、どこにもいない…」


 小さな呟きに、頭をなでなでしてくれていた手がぴたっと動きを止めた。
 ライネスはつい数秒前まで表情にあった余裕の色を掻き消し、怪訝そうに眉を顰めて尋ねてくる。


「シモンの気配を感じない…?それは不安だね…誓約の範囲外になる場所なんてあるわけ…」

「え、それ死んでんじゃね」


 ぴしっ。


 今日何度目かの、空気が凍る現象。けれど今のそれは、さっきまでのそれよりも圧倒的に不穏さが段違いだった。
 軽々と言い放ったトラードをよそに、ローズとライネス、そして僕の三人が氷の如く硬直。トラードは不思議そうに瞬いたけれど、やがて自分が発した言葉の重さを理解したのかさーっと青褪めた。


「あっ、い、いやっ!別にただの憶測だから!確定じゃな…、あぁ…!泣いちゃった…」

「ぅ……うぅ……しもん…っ」


 しもんしんじゃった…?

 しくしくぽろぽろ涙を流しながら考える。
 シモンが死んじゃう…?想像するだけで胸がきゅっとなって目眩がしてくる。
 どれだけ他の可能性を考えたって、誓約の効果が絶たれているという事実は変わらない。一番有力な可能性がトラードの言葉の内容であることに変わりは無いのだ。

 誓約は魂同士で繋がっていて、どんな場所にいようとそれが途切れることはない。それが切れたという事はつまり…魂との繋がりが絶たれたということ。トラードが言う可能性は現実的なものだ。


「と、とにかくシモンのことはちゃんと探してみよう!大丈夫だよ、シモンはそんな簡単に死ぬような弱い人間じゃないって、フェリが一番よく分かってるでしょ?」

「っ…うん…しもんつよぃ…」

「そうだよね、シモン強いよね。だから全然大丈夫なんだよフェリ。この馬鹿が適当なこと言うから不安になっちゃったんだよね、大丈夫大丈夫。よしよし」


 むぎゅむぎゅ。なでなで。
 安心するぽかぽかを全て与えてくれるライネスにふわりと心が落ち着いて、一度すーはー深呼吸して混乱する頭を宥めた。そうだ、よく考えたらシモンはとっても強いのだった。だから、シモンが死んじゃうなんてありえない。
 ふむふむよかったよかったとほっとしている横で、トラードが「馬鹿だってぇ!?」とぷんすか騒ぎ始める。トラードはおばかさんじゃないよ、僕がだめだめだから深く考えてしまっただけで。


「おいお前ら。無駄話はそこまでにしろ。騎士団が上がって来ている」

「無駄話ではねぇだろ!やめろお前っ、これ以上フェリちゃん泣かすようなこと言うんじゃねぇ!」

「泣かせたのはお前だろうが。殺すぞ」


 がやがやと近付いてくる声。ローズの言う通り、確かに騎士団の人たちがここに向かって来ているようだ。
 一応被害者側なのになんだかそわそわしてしまう。僕も何か、じんもんされてしまうのだろうか。カツ丼でてくるかなぁそわそわ、と頬を染める僕を、ライネスが何故か微笑ましいものを見るような目でのほほんと眺めていた。


「待てよ?じゃあコイツの処分マジでどうするよ」

「俺達が違法に裁くか騎士共が正当に裁くか。当事者のフェリアルが判断すれば良い」

「……まぁ確かにそうだけども。その言い方だと真面目でいい子なフェリちゃんの答え、ほぼ一択で決まったようなもんだろ」


 はようシモンを探しにゆかねば。そんなことをふむふむと思いながら、騎士団に確保される未来を想像してそわそわし始めた。

 かつどんもぐもぐできるかなー。
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