余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
153 / 405
【聖者の薔薇園-プロローグ】

197.騎士団と甥っ子

しおりを挟む
 

「フェリちゃんはどっちがいい?」


 トラードから与えられた選択肢。お兄さんの処罰をローズ達に任せるか、今向かって来ている騎士団に任せるか。
 騎士団なら帝国法に則って正当な処罰を下すだろうけれど、違法に裁けるローズ達ならどんな処罰でも出来る。普通なら正当な順序を踏むべきだから、騎士団に任せた方が良いのだろうけれど…。

 気になるのは、その後お兄さんからマーテルのことやら何やらを聞き出せるのかどうかということ。お兄さんが持つ情報はきっと、マーテルを倒そうとしている僕達の目的の役に立つ。
 けれど、お兄さんが騎士団に捕まってしまえばそれは叶わなくなるかもしれない。


「うぅむ…らいねす…」


 困ったときのシモン頼み…は今出来ないから、今回はライネスに縋った視線を向けてみる。
 ライネスは「ぐっ」と呻いて胸を抑え、きょとんとする僕にふわりと優しい笑顔を浮かべてくれた。


「うーん…個人的な感情では私がクズ神官の拷問を担いたいくらいだけど…でも、法に任せても問題は無いと思うよ」

「隠蔽とかされねーか?腐ってもコイツ、神官だし。神殿が何か卑怯なことしたら…」

「公爵家の令息に手を出しておいて、隠蔽も何も無いでしょ。何より証人に私が名乗り出るんだからね、神殿に余計な事はさせないよ」


 にこっと笑うライネスに、トラードは「おう…確かに…」と呟いた。
 確かにそうだと、僕も納得。そういえば僕、公爵令息というれっきとした貴族だものねとふむふむ頷いた。皇室と深い関係を築いている神殿だから不安はあるけれど、流石に公爵家を陥れることは容易ではなさそうだ。

 でも…それならやっぱり、不安は一つだ。お兄さんが持っているマーテルの情報、騎士団に捕らわれた後に果たしてそれを聞き出せるのかどうか。
 せっかくの有力な情報をここで手放してしまえば、きっとみんながっくしする。魔塔のみんなにもパパにも、良い情報を渡せるかもしれないのに。

 なんてことをぐるぐる考え込んでいると、ふとライネスにほっぺを柔く摘ままれた。
 ふくふく、と触れられきょとんと顔を上げると、穏やかに弧を描いた瞳に見つめられてぴたりと固まる。


「フェリ。また優しいこと考えてるでしょ?大方、このクズ神官の情報を手放すのが惜しいって所かな。私達ががっかりすると思ってる?」

「むっ…」


 全て見透かされている。
 びくっとすると、ライネスは窘めるみたいにほっぺをむにゅーっと強く伸ばした。にっこり笑顔にぷるぷる体が震えて、むにゅーっと伸びたほっぺのままむぐむぐと答える。


「むぅ…じょーほー…みんにゃ、ほしぃ…」

「確かに情報は欲しいね。でも一番大事なのはフェリだから、それ以外は全部二の次だよ。この件に神殿が関わっているなら、根本まで全て引き摺り出さなきゃ」


 心なしか、ライネスの笑顔が段々黒くなっているような気がするのは気のせいだろうか…。
 いっそ不自然に感じる満面の笑顔のライネスを見て、ローズとトラードが若干引いたような表情を浮かべたのが分かった。


「元々神殿は目障りだったから丁度良い。これで大義名分が出来た」


 そう言ったライネスが浮かべた仄暗い不敵な笑みは、以前パパが見せたものとそっくりだった。




 * * *




 半ばライネスに誘導されるようにして答えを出した後、ローズとトラードは「ギルドの方は任せろ」と言い放って崩れた壁から塔を出て行った。ギルドって、一体何の話だろう。
 はてなを浮かべたけれど、詳しく聞く時間もなさそうなので口を噤んだ。その時にはもう、たくさんの足音が階下からこの部屋に近付いてきていたから。

 ぐったりと倒れるお兄さんを「起きろクズ神官」と乱暴に蹴り起こしたライネスの姿には、いつもの優しい貴族の雰囲気が一切感じられなかった。


「あわ、なんですか何事ですかっ!ぐえっ!!」

「喧しい。直ぐに騎士団が来るからさっさと起きろ」

「え、えぇっ!騎士団!?私捕まっちゃうんですか!」

「当然でしょ。この期に及んで取引とか舐めた事言ったら殺すよ」


 ぷるぷる。お兄さんと一緒にぷるぷる体を震わせた。ライネスがパパ化している…。
 お兄さんの髪をがしっと乱暴に鷲掴んで無理やり頭を持ち上げると、ライネスは魔王みたいな真っ黒いオーラを纏って低く告げた。


「お前、運が良いね。騎士団の尋問なら、流石に四肢切断も火炙りも許されないだろうから」

「へ……」

「……とは言え先の事は分からない。君が投獄中に不慮の事故に合わないことを祈るよ」


 事故の心配をしている…?なーんだ、パパ化したわけじゃなかったみたい。
 やっぱりライネスはいつでも優しいライネスのまま。黒いオーラも気のせいだったのねよきよきとほくほく。心配されて嬉しいはずなのに、お兄さんが顔を蒼白させているのは何故なのだろうと不思議に思った。

 静かに震えるお兄さんから手を離し、ライネスがふと立ち上がる。それと同時に扉がばーん!と開かれた。


「……んぁ?フェリアル?」


 騎士団だ!手を挙げろ!くらい言われると思っていたけれど。実際初めに部屋に響いたのは、どこか楽観的で悠長な、けれど大人の余裕を感じる声だった。

 ライネスの表情が驚愕に染まったことに少し不安を抱きながら恐る恐る振り返る。

 そこに立っていたのは数人の騎士を背に引き連れたがっしりとした巨躯の男性。僕の身長を優に超えた大剣を背負った、金髪オールバックと瑠璃色の瞳の野性味溢れる騎士。
見覚えがないはずなのに、それでもなんだか、彼に言葉にできない懐かしさを感じて首を傾げた。


「おめぇフェリアルだよなぁ!?あんなちびっ子がこんなでかく…でかっ…?いや、でかくはなってねぇか…?ちっこいままだな。ちっこいままだ」

「がーん…!!」


 初対面のはずなのに、ちびっこだのちっこいだのと散々な言いようをされてしまった。
 がっくしと肩を落としてめそめそ縋り付くと、ライネスは当然のようにぽんぽん撫でて慰めてくれた。やさしい。


「そんでおめぇは…フレデリックんとこの悪餓鬼か!!ライオンとかいったか?おめぇはでかくなったなぁ!!」

「ライネスです」


 ぴしっと額に青筋を浮かべてすかさず訂正するライネス。にっこり笑顔だけれど、これまた目が笑っていない…。
 ぱちくりしつつライネスに「だれ…?」と耳元で小さく問い掛ける。彼は…と口を開きかけたライネスの言葉を遮るように、陽気な雰囲気を纏った巨躯の騎士が声を上げた。


「アイツはまだ寝たきりか?呪いで死にかけてらぁって聞いたが!」

「父上ならとっくに呪いを解いて前線に復帰していますよ。いつの話してるんですか。それ今更父上の前で言ったら首飛びますからね」


 熱気溢れる騎士と淡白なライネス。二人は知り合いなのかな、と首を傾げる。
 やがて扉付近にいた数人の騎士の一人が遠慮がちに前へ出て、ガハハと豪快に笑いながら世間話を繰り広げるオールバックの騎士に何やら耳打ちした。


「団長…そろそろ状況の把握を…」

「んぁ?あぁそうだな!!わりぃわりぃ!可愛い甥っ子に会えたのが嬉しくってなぁ!!」


 甥っ子?はてと瞬いてぴこーんと頷く。
 なるほどなっとく。彼はライネスのおじさんなのかそうなのかーとふむふむして、やがてぴたりと動きを止めた。

 む…?ライネスのおじさん、どうして僕を見つめているのだろう。

しおりを挟む
感想 1,714

あなたにおすすめの小説

気付いたらストーカーに外堀を埋められて溺愛包囲網が出来上がっていた話

上総啓
BL
何をするにもゆっくりになってしまうスローペースな会社員、マオ。小柄でぽわぽわしているマオは、最近できたストーカーに頭を悩ませていた。 と言っても何か悪いことがあるわけでもなく、ご飯を作ってくれたり掃除してくれたりという、割とありがたい被害ばかり。 動きが遅く家事に余裕がないマオにとっては、この上なく優しいストーカーだった。 通報する理由もないので全て受け入れていたら、あれ?と思う間もなく外堀を埋められていた。そんなぽややんスローペース受けの話

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

お子ちゃま勇者に「美味しくないから追放!」された薬師、田舎でバフ飯屋を開く

ファンタジー
現代日本から転生した味覚オタクの薬師ユージンは、幼い勇者パーティの“保護者枠”として命を守るため口うるさくしていたが、「薬が苦い」「うるさい」と追放される。 田舎ミズナ村で薬膳小料理屋「くすり香」を開いた彼の“バフ飯”は冒険者を覚醒させ、村を救い、王都の薬利権すら揺らす。 一方、追放した子どもたちはユージンの真意を知って大泣きするが、彼は戻らない──自分の人生を取り戻すために。

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。