余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

197.騎士団と甥っ子

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「フェリちゃんはどっちがいい?」


 トラードから与えられた選択肢。お兄さんの処罰をローズ達に任せるか、今向かって来ている騎士団に任せるか。
 騎士団なら帝国法に則って正当な処罰を下すだろうけれど、違法に裁けるローズ達ならどんな処罰でも出来る。普通なら正当な順序を踏むべきだから、騎士団に任せた方が良いのだろうけれど…。

 気になるのは、その後お兄さんからマーテルのことやら何やらを聞き出せるのかどうかということ。お兄さんが持つ情報はきっと、マーテルを倒そうとしている僕達の目的の役に立つ。
 けれど、お兄さんが騎士団に捕まってしまえばそれは叶わなくなるかもしれない。


「うぅむ…らいねす…」


 困ったときのシモン頼み…は今出来ないから、今回はライネスに縋った視線を向けてみる。
 ライネスは「ぐっ」と呻いて胸を抑え、きょとんとする僕にふわりと優しい笑顔を浮かべてくれた。


「うーん…個人的な感情では私がクズ神官の拷問を担いたいくらいだけど…でも、法に任せても問題は無いと思うよ」

「隠蔽とかされねーか?腐ってもコイツ、神官だし。神殿が何か卑怯なことしたら…」

「公爵家の令息に手を出しておいて、隠蔽も何も無いでしょ。何より証人に私が名乗り出るんだからね、神殿に余計な事はさせないよ」


 にこっと笑うライネスに、トラードは「おう…確かに…」と呟いた。
 確かにそうだと、僕も納得。そういえば僕、公爵令息というれっきとした貴族だものねとふむふむ頷いた。皇室と深い関係を築いている神殿だから不安はあるけれど、流石に公爵家を陥れることは容易ではなさそうだ。

 でも…それならやっぱり、不安は一つだ。お兄さんが持っているマーテルの情報、騎士団に捕らわれた後に果たしてそれを聞き出せるのかどうか。
 せっかくの有力な情報をここで手放してしまえば、きっとみんながっくしする。魔塔のみんなにもパパにも、良い情報を渡せるかもしれないのに。

 なんてことをぐるぐる考え込んでいると、ふとライネスにほっぺを柔く摘ままれた。
 ふくふく、と触れられきょとんと顔を上げると、穏やかに弧を描いた瞳に見つめられてぴたりと固まる。


「フェリ。また優しいこと考えてるでしょ?大方、このクズ神官の情報を手放すのが惜しいって所かな。私達ががっかりすると思ってる?」

「むっ…」


 全て見透かされている。
 びくっとすると、ライネスは窘めるみたいにほっぺをむにゅーっと強く伸ばした。にっこり笑顔にぷるぷる体が震えて、むにゅーっと伸びたほっぺのままむぐむぐと答える。


「むぅ…じょーほー…みんにゃ、ほしぃ…」

「確かに情報は欲しいね。でも一番大事なのはフェリだから、それ以外は全部二の次だよ。この件に神殿が関わっているなら、根本まで全て引き摺り出さなきゃ」


 心なしか、ライネスの笑顔が段々黒くなっているような気がするのは気のせいだろうか…。
 いっそ不自然に感じる満面の笑顔のライネスを見て、ローズとトラードが若干引いたような表情を浮かべたのが分かった。


「元々神殿は目障りだったから丁度良い。これで大義名分が出来た」


 そう言ったライネスが浮かべた仄暗い不敵な笑みは、以前パパが見せたものとそっくりだった。




 * * *




 半ばライネスに誘導されるようにして答えを出した後、ローズとトラードは「ギルドの方は任せろ」と言い放って崩れた壁から塔を出て行った。ギルドって、一体何の話だろう。
 はてなを浮かべたけれど、詳しく聞く時間もなさそうなので口を噤んだ。その時にはもう、たくさんの足音が階下からこの部屋に近付いてきていたから。

 ぐったりと倒れるお兄さんを「起きろクズ神官」と乱暴に蹴り起こしたライネスの姿には、いつもの優しい貴族の雰囲気が一切感じられなかった。


「あわ、なんですか何事ですかっ!ぐえっ!!」

「喧しい。直ぐに騎士団が来るからさっさと起きろ」

「え、えぇっ!騎士団!?私捕まっちゃうんですか!」

「当然でしょ。この期に及んで取引とか舐めた事言ったら殺すよ」


 ぷるぷる。お兄さんと一緒にぷるぷる体を震わせた。ライネスがパパ化している…。
 お兄さんの髪をがしっと乱暴に鷲掴んで無理やり頭を持ち上げると、ライネスは魔王みたいな真っ黒いオーラを纏って低く告げた。


「お前、運が良いね。騎士団の尋問なら、流石に四肢切断も火炙りも許されないだろうから」

「へ……」

「……とは言え先の事は分からない。君が投獄中に不慮の事故に合わないことを祈るよ」


 事故の心配をしている…?なーんだ、パパ化したわけじゃなかったみたい。
 やっぱりライネスはいつでも優しいライネスのまま。黒いオーラも気のせいだったのねよきよきとほくほく。心配されて嬉しいはずなのに、お兄さんが顔を蒼白させているのは何故なのだろうと不思議に思った。

 静かに震えるお兄さんから手を離し、ライネスがふと立ち上がる。それと同時に扉がばーん!と開かれた。


「……んぁ?フェリアル?」


 騎士団だ!手を挙げろ!くらい言われると思っていたけれど。実際初めに部屋に響いたのは、どこか楽観的で悠長な、けれど大人の余裕を感じる声だった。

 ライネスの表情が驚愕に染まったことに少し不安を抱きながら恐る恐る振り返る。

 そこに立っていたのは数人の騎士を背に引き連れたがっしりとした巨躯の男性。僕の身長を優に超えた大剣を背負った、金髪オールバックと瑠璃色の瞳の野性味溢れる騎士。
見覚えがないはずなのに、それでもなんだか、彼に言葉にできない懐かしさを感じて首を傾げた。


「おめぇフェリアルだよなぁ!?あんなちびっ子がこんなでかく…でかっ…?いや、でかくはなってねぇか…?ちっこいままだな。ちっこいままだ」

「がーん…!!」


 初対面のはずなのに、ちびっこだのちっこいだのと散々な言いようをされてしまった。
 がっくしと肩を落としてめそめそ縋り付くと、ライネスは当然のようにぽんぽん撫でて慰めてくれた。やさしい。


「そんでおめぇは…フレデリックんとこの悪餓鬼か!!ライオンとかいったか?おめぇはでかくなったなぁ!!」

「ライネスです」


 ぴしっと額に青筋を浮かべてすかさず訂正するライネス。にっこり笑顔だけれど、これまた目が笑っていない…。
 ぱちくりしつつライネスに「だれ…?」と耳元で小さく問い掛ける。彼は…と口を開きかけたライネスの言葉を遮るように、陽気な雰囲気を纏った巨躯の騎士が声を上げた。


「アイツはまだ寝たきりか?呪いで死にかけてらぁって聞いたが!」

「父上ならとっくに呪いを解いて前線に復帰していますよ。いつの話してるんですか。それ今更父上の前で言ったら首飛びますからね」


 熱気溢れる騎士と淡白なライネス。二人は知り合いなのかな、と首を傾げる。
 やがて扉付近にいた数人の騎士の一人が遠慮がちに前へ出て、ガハハと豪快に笑いながら世間話を繰り広げるオールバックの騎士に何やら耳打ちした。


「団長…そろそろ状況の把握を…」

「んぁ?あぁそうだな!!わりぃわりぃ!可愛い甥っ子に会えたのが嬉しくってなぁ!!」


 甥っ子?はてと瞬いてぴこーんと頷く。
 なるほどなっとく。彼はライネスのおじさんなのかそうなのかーとふむふむして、やがてぴたりと動きを止めた。

 む…?ライネスのおじさん、どうして僕を見つめているのだろう。

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