余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
154 / 423
【聖者の薔薇園-プロローグ】

198.おっきな団長さんと眼鏡くいっ副官さん

しおりを挟む
 

「奇襲に拉致にレイプ未遂なぁ…それも神官がこんなちびっ子に…」


 顎を撫でながらしみじみと呟く金髪の騎士さん。
 ライネスの説明を聞き始めた辺りから騎士団の人たちの顔色が暗くなり、話し終える頃にはお兄さんを取り囲んで逃走を防ぎつつ侮蔑の眼差しを注いでいた。蒼白顔のお兄さんは、屈強な騎士たちから向けられる強い視線に涙目だ。


「極刑が妥当かと」

「おぉう、落ち着け!気持ちは分かるが落ち着け!」


 ライネスの静かな怒りが風になって表れる。少し威力の増した周囲の風を感じたのか、金髪騎士さんが慌てたように声を上げた。屈強で厳つい見目とは裏腹に、気の良い常識的なおじさんみたいだ。


「三歳の少年に恋情を抱いた挙句、長年引き摺ってレイプ未遂ですか。神官にあるまじきクズ行為ですね。無垢と神聖を謳う神殿がここまで落ちぶれたとは知りませんでした」


 眼鏡をくいっとしながら語るのは、金髪騎士さんの副官さんだ。彼も平均よりは大柄な体つきをしているけれど、他の騎士たちと並べば細身に見える。


「罪状だけ見れば未遂ですので、極刑までは行かないかと思いますが…処罰は此方できっちり下しますのでご心配なく」


 眼鏡くいっ。


「……えぇ。それは勿論、お願いします」


 眼鏡くいっ。その仕草、癖なのかな。

 微かに不満げな表情を浮かべたライネスが小さく頷く。困ったように頭をぽりぽりと掻いた金髪騎士さんが、二人のやり取りを見て「はぁぁ…」と長い溜め息を吐いた。
 なにごと、と顔を上げる。自分と同じ瑠璃色の瞳にじっと射抜かれると何だか擽ったくて、そわそわとライネスの肩に顔を埋めて視線から逃れる。

 すると不意に後ろからひょいっと持ち上げられ、ライネスから引き離されてしまいぎょっとした。
 正面に立つ困り顔のライネスをぽかんと見つめる。やがてぶわっと涙が溢れた。


「ら、ら…らいねすっ…いやぁ…!ぎゅ、ぎゅー…うぅ…」


 ライネスに手を伸ばす。宙を切る手が悲しくて涙の勢いを更にぶわわっと強めると、カッ!と目を見開いた副官さんが金髪騎士さんに叫んだ。


「ばっ!何してんですか団長!今すぐその子を彼に返しなさい!!」

「んぁ?いや、俺が抱いてた方がいいだろう!団長だし安心するじゃねぇかよ!それに俺はフェリアルの…──」

「えぇい喧しいこのKY筋肉ゴリラ!!襲われた直後に屈強な雄ゴリラに抱かれるとか何の拷問だゴラァ!!」


 ゴツンッ!!と鳴り響くとっても痛そうな音。思わずきゅっと目を瞑り、開いた時にはライネスのぎゅーに戻っていてほっと息を吐いた。
 むぎゅむぎゅ。すかさずライネスチャージをしてえねるぎーを補給する。なるほどなっとく、以前兄様たちが言っていたフェリチャージというのはこういうことか、ふむふむ。


「ライネスぎゅー。おじさんこわい。こわいの…やぁ…こわいよぉ…」

「怖かったね、よしよし。でもねフェリ、このおじさんは悪い人じゃないんだよ。戦場暮らしでちょっぴりデリカシーが欠如しているだけでね。一応良い人なんだよ」

「……いいひと?」

「うん。でも…顔が怖いし図体も大きいから、ちっちゃくて天使のフェリには怖いおじさんにしか見えないよね。ごめんね、もう離さないから大丈夫だよ。ほら、ぎゅーっ」

「あの…私が言うのも何ですが、団長そろそろオーバーキルなので勘弁して頂けると…」


 ぎゅーっと抱き締め返してむふむふしていると、ふと背後から副官さんの遠慮がちな声が聞こえて来て振り返った。
 本当だ。金髪騎士さん…団長さん?がおっきな体を丸めてずーんと沈み込んでいる。なんだか可哀そうなのでライネスに下ろしてもらい、団長さんの元にとてとてと近付いてみた。

 肩をつんつん。「だいじょぶ…?」と恐る恐る問い掛けると、勢いよく団長さんが顔を上げうおーんうおーんと号泣し始めた。


「わりぃフェリアル!!怖がらせちまってわりぃなぁ!!」

「う、うぅん。だいじょぶ。僕も、おじさん怖いって言って、ごめんなさい」

「いい子だなぁ!俺の甥っ子は立派に育ったんだなぁ!!ディランとガイゼルもきっといい子に育ってるんだろうなぁ!!」


 む?俺の甥っ子…?

 話の流れから、たぶん僕のことを言っているのだろうけれど。ディラン兄様やガイゼル兄様のことを、まるで血の繋がった家族みたいに…って。
 血の繋がった、家族…?

 まさか、とハッとする。兄様達とよく似た金色の髪に、僕に似た瑠璃色の瞳。そして何より、さっきの発言。彼はライネスのおじさんじゃなくて…。


「おじさん。僕の、おじさん?」

「おう!そうだぞ!俺はおめぇの親父の兄貴で帝国一の騎士だ!」

「ほえー」

「ミシェル様は帝国に五つある内の一つ、第一騎士団の団長です。第二の団長である弟君と第五の団長であるフレデリック様とは、訓練学校時代からの同期ですね」

「ほぇ?」


 すごいひとがおじさんなんだなーと油断していると突如襲ってきた不意打ち。
 どどどやぁと語るおじさんの補足をするように淡々と語った副官さんの言葉に、脳内が軽くパンクした。突然の情報量の多さに理解が追い付かず、次々と湧き上がる驚きを片っ端から処理していく。

 おじさんは第一騎士団の団長さんで…ここまではいい。すごいなーほえーでふむふむする。けれど問題はこのあとだ。
 第二騎士団の団長がお父様で、第五騎士団の団長がパパで…?初めの驚きは、お父様が騎士だったこと。そして何より、お父様とパパが知り合いだったことだ。
 お父様と大公家の話をしていた時、知り合いっぽいニュアンスは含まれていなかったような…あれ、でも知り合いじゃないとも言っていない…?でもでも、それはそれとして、お父様が騎士っぽい姿を見せたことは一度もないはずで…。

 つまり、どゆこと…?ぐるぐる思考を巡らせすぎて目も回り、すとんと後ろに倒れ込んだところをライネスがしっかり受け止めてくれた。


「もしかしてフェリ、公爵が第二騎士団の団長だってこと知らなかった?」

「しらない…ライネスは、しってた?」

「もちろん知ってるよ。でも公爵は特に訓練学校時代の事を隠したがっていたらしいから、騎士としての姿をよく知らない人も多いみたいだね」


 だからフェリが知らないのも無理はないよ。そう言ってむぎゅむぎゅしてくるライネスにむーっと頬を膨らませる。僕は知りたかったのに、ふんす。

 とはいえ何だかすっきりもした。実はちょこちょこ気になっていたエーデルス騎士団の団長の存在。あれはお父様のことだったのか。
 第二は主に東部の防衛を担う騎士団で、エーデルス領も東部。東部一の強さを誇るエーデルス家の騎士団員のほぼ全てが第二にも属するように、お父様は自動的に第二の団長も担うことになっていたのか。

 思えばパパも北部の防衛を主とする第五の騎士団長で、大公家が所有する騎士団の団長でもある。考えてみれば普通に分かることだった。
 その辺りの勉強をまだしていなかったから知らなかった。そろそろ本格的に勉強もしないと…とちょっぴり嫌なことを思い出してしまいどよーんと落ち込んだ。

 一人目がちょっぴりあれだった件がトラウマになったのか、家庭教師が信用できないと猛反対するお父様と、勉強なら自分がいれば十分ですと胸を張るシモン、そして三男だから焦らなくていいのよぉーとのほほん甘言を与えてくるお母様。
 そんな皆のこともあって、今までそれとなく避けていた僕の家庭教師問題。約三年後くらいには僕も学園に通うことになるのだから、きちんと教育は受けておかないと。

 とは言え…その時まで生きていられるかは分からないけれど。


「むぅ…」

「あ、もう…フェリ?また難しいこと考えてるでしょ。戻っておいで。考えすぎるとまた熱が出ちゃうよ、フェリは繊細な子なんだから」


 むぎゅむぎゅ。うりうり。なでなで。
 ライネスにむぎゅむぎゅの刑に処されていると、僕がぐるぐる考え込んでいる間に何かが纏まったのか、お兄さんの傍に立ったおじさんと副官さんが何やらこそこそと話していた。


「この者は本部に連行しましょう。時間が押しているので、団長はさっさと陛下に帰還の報告を。彼らは一先ずこちらで保護します」

「おう。その辺の判断は全部おめぇに頼んどくぜ!俺は法やら何やら、なーんも分かんねぇからなぁ!」

「団長は強いだけで他に何も無し、というのは周知の事実ですのでご心配なく。ですがそろそろネクタイの巻き方くらいは覚えて頂きたいですね」


 眼鏡くいっ。

 仲の良さそうな二人のやり取りをぽーっと見つめながら、ふとはっとした。
 しまった…かつどんもぐもぐできるか聞くの忘れてた…。
しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。