追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第3話

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 外の風を感じた瞬間、ライトはその場で立ち止まった。
 最深部の冷え切った空気とは違う。
 草原の、どこか懐かしい匂いが胸の奥まで入り込んでくる。

(生きて……帰ってきたんだな)

 その実感がふわりと湧き上がり、膝から力が抜けそうになる。
 けれど、まだ倒れるわけにはいかなかった。
 ここから街へ戻るまでが本当の帰還だ。

 ライトは剣を確認し、深く息をついた。
 風が吹くたびに草が揺れ、太陽の光がその緑を照らしている。

「……綺麗だ」

 思わずこぼれた声は、震えていた。
 ダンジョンの暗闇を歩き続けたあとの、この光の眩しさは胸に沁みた。

 地上はこんなにも明るかったのか。
 その事実が、今はただ嬉しかった。

 街までの道のりは決して近くない。
 傷だらけの身体には重い負担となるが、ライトは一歩一歩確実に進んだ。

 歩いていると、ふと胸の奥に思いが込みあげてくる。

(なんであいつらは……あんなに簡単に俺を置いていけたんだろうな)

 足音に混じるように、悔しさが小さく鳴った。
 怒りとは違う。
 裏切られた痛みが、まだ傷口のように残っているのだ。

 だけど、ライトは唇を噛んで顔を上げた。

(でも……俺は生きてる)

 そう思えるだけで、胸の奥がほんの少し軽くなった。

 しばらく歩いたところで、街の輪郭が遠くに見えてきた。
 赤い屋根が並び、小さな煙が上がる。
 人々の生活の匂いが風に乗って流れてくる。

「もう少しだ……」

 声に出すと、不思議と力が湧いてきた。
 自分を奮い立たせるように、ライトは歩みを速める。

 途中、道端で魔物の痕跡を見つけたが襲われることはなかった。
 《超記録》による感覚が働いているのだろう。
 危険な気配が近づくことはなく、ライトは無事に街の門へたどり着いた。

 城塞都市レグナ。
 地方都市とはいえ、冒険者が集まる拠点として賑わっている場所だ。

 門番がライトを見ると、驚いたように眉を上げた。

「……おい、大丈夫か? ひどい傷じゃないか」

「少し……ダンジョンで迷って」

「迷ってこの状態か。無事でよかったな。中に入れ」

 門番はそれ以上追及せず、門を開いてくれた。
 その静かな優しさに、ライトは少し救われたような気がした。

 門を潜り抜けると、石畳の街道が広がる。
 人々の声や店の匂い、鍛冶場の音。
 どれも久しぶりすぎて胸が熱くなる。

(ここから……俺の人生をやり直すんだ)

 傷が痛むので、ライトはまず宿を探すことにした。
 探索の末、街の中ほどにある古びた宿が、あたたかい明かりを灯していた。

「いらっしゃい。部屋を探してるのかい?」

「はい。今日から数日……泊まりたいです」

 女将はライトを見て、少し驚いた顔をする。

「顔色が悪いねぇ。無理はしないで、ゆっくり休みな」

 その言葉は、身体の奥まで沁みた。
 ダンジョンでは浴びることのなかった優しさに、胸の奥が熱くなる。

「……ありがとうございます」

 ライトは鍵を受け取り、部屋へ向かった。

 小さな部屋だったが、ベッドは清潔で、窓からは街の灯りが見えた。
 その光を見ていると、安心と疲労が同時に押し寄せてくる。

「……生きて帰れたな」

 呟きながらベッドに腰を下ろす。
 全身へ重力が沈むように疲れが広がり、深い呼吸が漏れた。

 けれど、まだやるべきことがある。

(明日……ギルドへ行こう。登録して、仕事をもらって……)

 独り立ちしなければならない。
 誰かに頼れる立場ではないし、頼る気もなかった。

(俺は俺の力で、ここまで来たんだ)

 その事実が、ライトの心を少しずつ支えてくれる。

 そうして横になると、体が鉛のように重くなり、意識が沈んでいった。

(……明日はきっと、いい日になる)

 そんな小さな願いを胸に抱きながら、ライトは静かに眠りについた。
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