追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第5話

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 草原に広がる風の音は、昨日までの暗いダンジョンとはまるで別世界だった。
 青い空の色が濃く、雲が静かに流れていく。
 ライトは依頼書を軽く握りながら、その景色の中に立っていた。

(薬草採取……か)

 冒険者として最初の仕事だったが、不思議と抵抗はなかった。
 今のライトにとって大事なのは、どんな依頼であれ、自分の足で前に進むことだった。

「ええと……この辺りに生えてるって聞いたけど」

 依頼書を見つめながら、小さく呟く。

 薬草の名前はヒルミ草。
 細長い葉が特徴で、日の当たる丘の斜面に多く生えるらしい。

 ライトは周囲を見回し、日光の差し具合が良い方向へと歩き始めた。

 歩いていると、足元の草が風で揺れ、その下に小さな影が動いた。

「……魔物?」

 一瞬身構えるが、影はすぐに逃げて行き、ただの小型動物だったことが分かる。

「……よかった。魔物じゃなかったか」

 そう安堵しながら、歩みを進める。

 風の音、鳥の声、草の匂い。
 一つ一つが落ち着いた気持ちを呼び戻してくれる。

(こういう時間……久しぶりだな)

 勇者パーティにいた頃は、移動中も常に気を張り、置いていかれないように必死だった。
 感情を挟む余裕などなかった。

 けれど今は違う。
 ようやく、息ができている気がした。

 丘に差しかかった時、ライトはようやくヒルミ草を見つけた。
 薄い黄緑色の葉が太陽に照らされ、柔らかい光を返している。

「あった……これだ」

 ライトは丁寧に根元から摘み取った。
 薬草採取という依頼にしては簡単すぎるほど順調だった。

「あと数本あれば……」

 そう思って手を伸ばしたとき。
 風とは違う、ざわりとした音が耳に届いた。

「……?」

 ライトは反射的に周囲へ意識を向けた。
 《超記録》の感覚が小さく反応し、胸の奥でざわつく。

(何か……近づいている)

 草原の向こうから、低い唸り声が響いた。

 狼型の魔獣。
 一匹だけでなく、複数の足音。

「くる……!」

 ライトは腰の剣を構える。
 昨日とは違い、恐怖よりも冷静さが勝った。

 風が草を押し倒し、その間から灰色の狼が現れた。
 鋭い牙をむき、じわりと距離を詰めてくる。

(二匹……いや三匹。囲まれたら危ない)

 狼たちの動きを《超記録》が読み取っていく。
 足の踏み込み、体の揺れ、視線の向く方向。
 そのすべてが、ライトの頭に入ってきた。

(右が囮だ。飛び込んでくるのは左……)

 狼たちが一斉に動いた。
 右側の一匹が低く跳ね、ライトの注意を引こうとする。
 しかしライトの視線は、すでに左の狼に向いていた。

「……見えてる!」

 狼が飛び出すのと同時に、ライトは身体をひねって剣を振る。
 狼の体に刃がかすり、血が散った。

 狼は倒れない。
 だが隙が生まれた。
 ライトは反対側の狼の攻撃を紙一重で避け、足を払うように地面を蹴った。

 狼が転倒し、短い悲鳴を上げる。

 二匹目が距離を取った瞬間、三匹目が背後から迫る。

「後ろ……!」

 声が漏れるより早く、ライトの身体が動いた。
 地面に手をつき、転がるようにして距離を取る。

 狼の爪が地面をえぐった。

(怖い……でも、負けない)

 胸の奥に熱いものが流れ込む。
 昨日の自分なら逃げることしか考えられなかった。

 でも今は違う。

(ここで倒せる……!)

 ライトは立ち上がり、前の二匹へ向き合う。
 呼吸を整え、剣を握る手に力を込めた。

 狼たちの筋肉の動きが見える。
 息の荒さが分かる。
 次にどこへ跳ぶのか、まるで線が引かれるように軌道が浮かぶ。

 ライトが動いた。

 一歩踏み込み、左の狼の首元を狙う。
 狼が反応しきれず、刃が深く入った。

 血が飛び、狼が倒れ込む。
 すぐに右の狼が飛びつく。

「来い……!」

 ライトは剣を横に払った。
 狼が跳んだ勢いで、自ら刃に突っ込むような形になり、そのまま地面に崩れ落ちる。

 残りの一匹が、怯んだように後退した。

「……まだやるのか?」

 ライトの声に、狼は牙をむく。
 ただし、動きは鈍くなっていた。

(もう……終わらせる)

 ライトは地面を蹴り、最後の一匹に向かって駆けた。
 狼が跳びかかるのと同時に、ライトは剣を振り上げる。

 刃が狼の肩口を捉え、そのまま倒れ込むように沈んだ。

 草原が静寂を取り戻す。

「……ふぅ……終わった」

 膝に手をついて、大きく息をついた。
 額から汗が流れ、胸の奥で鼓動が早く鳴っている。

(昨日より……ずっと動けてる。戦えてる)

 息を整えながら、ライトは倒れた狼たちを見つめた。

 そのとき、視界の端に文字がふわりと浮かぶ。

《敵のスキルを記録しました:斬撃強化(小)》

「……これが、《超記録》の力か」

 さっきの戦闘で受けた、狼の爪の軌道。
 それらが“スキル”として記録されたのだろう。

「ありがとう。使わせてもらうよ」

 小さな声で呟き、ライトは剣を納めた。

 薬草採取は思ったより大変だったが、狼を倒したあとでヒルミ草をもう一度探し、必要分をしっかり確保した。

「これで……依頼は達成だな」

 小さな達成感が胸に広がる。

 草原を吹き抜ける風が心地よい。

(ギルドに持ち帰ったら、ちゃんと仕事として認めてもらえる。
 昨日までは、仲間として扱ってもらえなかったのに……
 今は俺の名前が、誰かの仕事として残るんだ)

 それが嬉しくて、ライトは自然と微笑んでいた。

 草原の丘を下りながら、遠くに見える街の屋根を眺める。

(ここからだ。俺の冒険は)

 胸に静かな熱を抱きながら、ライトはレグナの街へ向かって歩き出した。
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