追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

文字の大きさ
12 / 69

第12話

しおりを挟む
 翌朝、ライトはいつもより早く目を覚ました。
 カーテンの隙間から差し込む淡い朝日が部屋の空気をゆっくりと温めている。
 昨夜の眠りは深く、久しぶりに夢も見なかった。

(よく寝たな……)

 まぶたの重さは残っているが、身体のだるさはほとんど感じない。
 昨日の緊張や疲れは、どうやらすべて眠りの中で溶けていったらしい。

 布団から抜け出し、何気なく拳を握ってみる。
 力を入れるたびに、掌の皮がほんのわずかに固くなっているのが分かった。

(昨日より……ちゃんと前に進めている)

 そんな確かな実感が、胸の奥に静かに広がった。

 洗顔を済ませ、身支度を整えてから窓を開けると、朝の澄んだ空気が滑り込んできた。
 街の音が少しずつ動き出す気配がする。

(今日も……頑張ろう)

 自分に小さく言い聞かせるように呟き、ライトは部屋を出た。

 宿の食堂はすでに数人の冒険者たちで賑わっていた。
 彼らが話している声が耳に入る。

「昨日の討伐、もう終わったらしいぜ」

「新人のライトってやつだろ? 噂になってるぞ」

「罠の多い森を、ひとりで帰ってきたって話だ」

 ライトは思わず足を止めた。
 自分の名前が、誰かの会話に紛れ込んでいるというだけで胸が高鳴る。

(俺のこと……そんなふうに言われてるんだ……)

 信じられないような、でも嬉しい感情が胸を温めていく。

「おはようございます、ライトさん!」

 ミィナの明るい声で意識が戻った。
 振り向くと、食堂に用意された小さなカウンターから身を乗り出すようにして笑顔を向けていた。

「おはようございます、ミィナさん」

「朝ごはん、準備できてますよ! 今日は野菜スープとパンです!」

「ありがとうございます」

 ライトが席に着くと、ミィナはすぐに朝食を持ってきてくれた。
 湯気の立つスープは食欲をそそり、温かな香りが鼻をくすぐる。

「今日の予定はどうされるんですか?」

「ギルドで依頼を見て……できそうなのがあれば受けようと思います」

「それがいいと思います! でも……ライトさん、本当に無理はしないでくださいね」

 その声音には、昨日の戦闘を心配している気持ちが自然とにじんでいた。
 ライトは小さく頷いた。

「はい。気をつけてやります」

 ミィナは安心したように微笑んだ。
 その笑顔を見ると、胸の奥がほんの少し軽くなる。

 朝食を終え、ギルドへ向かう道を歩いていると、昨日の少年に声をかけられた。

「お兄ちゃん! 今日も頑張ってね!」

「ありがとう」

 ライトは微笑む。
 少年は嬉しそうに笑い、走り去っていった。

(誰かが応援してくれるって……こんなに力になるんだな)

 胸の中の温かさは、昨日よりもさらに大きくなっていた。

 ギルドに入ると、朝から多くの冒険者たちが依頼の掲示板の前に集まっており、活気に満ちていた。
 ライトが近づくと、ガルドが大きな声で手を振った。

「おっ、来たなライト!」

「おはようございます、ガルドさん、セインさん」

 セインも軽く手を挙げて挨拶を返してくれる。

「今日は何を狙ってんだ?」

「まだ決めていません。昨日より少し難しい依頼……それか、薬草採取でもいいかなって」

「いい判断だ。いきなり強い敵に挑む必要はねぇ。まずは体力と感覚を慣らすのが先だ」

「ライトは慎重だから大丈夫だよ。選び方を間違えることはないと思う」

「……ありがとうございます」

 二人の言葉が心に染みる。
 背中を押されるような安心感があった。 

 依頼板を見ていると、ひとつ気になるものが目に入った。

「スライム討伐……?」

 小さな森に出没するスライムの駆除依頼。
 危険度は低く、初心者向けと書かれている。
 だが報酬は薬草採取よりもやや高い。

「ライト、それか?」

「はい。スライムなら危険も低いし、動きも単純だから……試すにはちょうどいいと思って」

「いいな! スライムは弱いけど、油断すると面倒な相手だ。毒や酸を持つ個体もいる。気をつけろよ」

 ガルドが真剣な目で言う。

「ライトの《超記録》にとっても、スライム相手は新しい経験になるはずだよ」

 セインの言葉にライトは頷いた。

「じゃあ、これにします」

「おう! 気をつけて行ってこい!」

 ガルドが力強くライトの肩を叩いた。
 その重い手に応援の気持ちが込められているようで、胸の奥がじんと熱くなる。

 ミィナに依頼書を渡すと、彼女は少しだけ心配そうに眉を寄せた。

「ライトさん、スライムは弱いって言われてますけど……油断は禁物ですよ? 特に酸を吐く個体がいると危ないですから……」

「気をつけます。無理はしません」

「約束ですよ?」

「はい」

 ミィナの真剣な目が、ライトの心にやさしく触れた。
 その気持ちが嬉しくて、ライトは小さく笑った。

 ギルドを後にし、街外れへ向かう道を歩く。
 朝の空気は冷たすぎず、心地よい風が頬を撫でた。

(昨日より……心が落ち着いているな)

 不安がないわけではない。
 だが、昨日の自分が今日の自分を支えてくれている。
 そんな感覚が、歩く足取りを軽くしていた。

 森の入口が見えてきたところで、ライトは一度立ち止まり、深く息を吸い込んだ。

「よし……」

 剣の柄を握る。
 その感触が、昨日よりも確かに手に馴染んでいる気がした。

(俺はここから……もっと強くなる)

 胸の奥で言葉が静かに燃える。

 ライトは森の奥へと、ゆっくり足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

スキル【ファミレス】を使っていたら伝説になりました。

キンモクセイ
ファンタジー
スキル「ファミレス」を手にした。 ハズレスキルかと思い、主人公の思うがまま行動している。 そんな時に1人の少女と出会い、運命が変わる。

【完結】料理人は冒険者ギルドの裏で無双します

vllam40591
ファンタジー
東京の超一流レストランで命を削り、ついには過労死してしまった天才料理人・椎名栄作(29歳)。目を開けば、そこは魔法と魔物が存在する異世界「アストラル大陸」だった。 偶然にも毒蜘蛛に噛まれた少年を救ったことで、栄作は自分に特殊能力「味覚分析」が宿っていることを知る。触れるだけで食材の全てを理解し、その潜在能力を引き出せるこの力は、異世界の食材にも通用した。 石造りの町アーケイディアで冒険者ギルドの料理人として雇われた栄作は、やがて「料理魔法師」という稀有な存在だと判明する。「魔物肉」や「魔法植物」を調理することで冒険者たちの能力を飛躍的に高める彼の料理は評判となり、ギルドの裏で静かに"伝説"が生まれ始めていた。 「この料理、何か体が熱くなる…力が溢れてくる!」 「あのシェフのおかげで、SS級の討伐クエストを達成できたんだ」 戦うことなく、ただ料理の力だけで冒険者たちを支える栄作。 しかし古き予言の主人公「料理で世界を救う者」として、彼は「死食のカルト」という邪悪な組織と対峙することになる。 鍋と包丁を武器に、料理精霊を味方につけた栄作は、最高の一皿で世界の危機に立ち向かう。 現代で認められなかった料理人が、異世界で真価を発揮し「グランドシェフ」として成長していく姿を描いた、笑いと感動と食欲をそそる異世界美食ファンタジー。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

兄が【剣聖】、妹は【聖女】になった双子の転生者はのんびり冒険者やってます♪

雪奈 水無月
ファンタジー
「兄は剣聖、妹は聖女──でも、転生理由は女神の“うっかり”でした。」 平凡な放課後が、空に走る黒い亀裂で終わりを告げる。 与えられたのは最強の力と、新しい世界イングレイスでの第二の人生。 しかし、転生直後に待っていたのは──濃い霧と、不気味な視線。 手を離したら、もう二度と会えない。 これは、剣と癒しで道を切り拓く兄妹の冒険の始まり。

異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです

青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。 混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。 もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。 「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」 思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。 その時、見知らぬ声が響く。 「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」 これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
*読者のみなさま  この作品をお読みいただきありがとうございました。こちらの作品は1月10日12時をもって非公開とさせていただきます。 『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

処理中です...