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第11話
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宿の部屋へ戻ると、窓から差し込む夕暮れの光が薄く赤みを帯びていた。
戦いの疲れがじわじわと身体に戻ってきているようで、ライトはベッドへ腰を下ろすと、ゆっくり深呼吸した。
(今日は……よくやったな)
胸の中にそんな言葉が自然と浮かぶ。
誰かに強制されたわけでも、背中を押されたわけでもなく、自分の意志で挑んで、自分の力で乗り越えた一日だった。
剣を扱う右手を見つめる。
ほんの少しだけ、掌の皮が固くなったように思える。
昨日の自分と今日の自分。
積み重ねの中で、確かに違いが生まれ始めていた。
窓から見える街並みは、夕陽に照らされて穏やかな色に染まっている。
冒険者たちの笑い声が遠くから微かに聞こえ、どこか暖かい空気を感じさせた。
(この街に……俺の居場所ができてきたのかな)
そんな思いが胸に広がる。
まだはっきりと言えるほど強いものではない。
それでも、確かに心の形が変わり始めている気がした。
夕食をとるために宿の食堂へ向かうと、思いがけず賑やかな声が耳に飛び込んできた。
「ライト!」
ガルドが大きく手を振っている。
セインも隣で微笑みながら席を空けてくれていた。
「ちょうどいいところだ。こっち来いよ」
「え、でも……」
「遠慮すんなって。初依頼の成功祝いだ。お前に声をかけずに始めるわけにいかねぇよ」
その言葉に胸が温かくなる。
声をかけられたことが、まるで長い冬の後にふいに差し込む春風のようだった。
「……じゃあ、少しだけ」
「よし、それでいい!」
席につくと料理が運ばれ、温かな香りが食欲をそそった。
肉と野菜を煮込んだスープに、焼いたパン。
素朴だが、温かさが染みるような味だった。
「ゴブリンの群れを相手にしたんだってな」
「……はい。少し危なかったですけど」
「そりゃそうだ。あいつらは一匹なら雑魚だが、群れになると厄介だからな」
ガルドは豪快に笑いながら、パンをちぎって口へ放り込む。
「でもよ、お前は初めてであれだけやれたんだ。胸張れよ」
「……ありがとうございます」
ライトは目を伏せながらも、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「セイン。お前はどう見る?」
「ライトは……素直に伸びるタイプかな。変な癖がないし、周囲をよく見て動ける。あと……意志が強い」
「俺が?」
「うん。置き去りにされた状況から生き延びたんだよね。それだけで十分強いよ」
セインの柔らかな言葉に、ライトは胸が詰まる思いがした。
(あの日のことを思い出すだけで……少し胸が痛むな)
かつての仲間に見捨てられた瞬間の冷たさ。
あの暗闇は一生忘れないだろう。
だが、今はその記憶に押しつぶされるばかりではない。
(もう……あの日の俺じゃない)
そう思えるだけで、救われる気がした。
「ところでライト、今後どうするつもりなんだ?」
ガルドが問いかけてきた。
その目は真剣で、茶化すような様子はない。
「どう……というと?」
「冒険者として、どんな道を進むのかって話さ。レグナで活動するのか、この街を拠点にするのか、とかよ」
「……そうですね」
ライトは少しだけ考える。
(この街で……もう少し頑張ってみたい)
自然とそう思った。
「レグナで……もっと力をつけたいです。まだ弱いし、もっと戦えて、役に立てるように」
「いいじゃねぇか! 最高だろ、それ!」
ガルドは嬉しそうに手を叩いた。
「レグナは新人にはうってつけの街だし、ミィナも嬉しいだろうな」
セインも穏やかな笑みを浮かべた。
「焦らなくていいよ。ゆっくり自分のペースで強くなっていけばいい」
「……はい」
力強い声ではなかったが、それでもライトの心にはしっかりと芯が通っていた。
食事を終え、少し談笑をしてから、二人に見送られて部屋へ戻る頃には夜の帳がすっかり降りていた。
窓から見える星空はどこか澄んでいて、森での緊張が嘘のように静かだった。
装備を外し、ベッドに座ると、自然と今日一日の出来事が思い返される。
(俺……本当に、一歩ずつ進めているんだな)
その実感が胸に満ちていく。
焦りも、不安も、今日だけは不思議と遠ざかっていった。
そして、ライトは小さく拳を握る。
「もっと……強くなろう」
誰かを見返すためではなく、自分のために。
誰かに認められたいという気持ちもある。
でもそれ以上に、自分自身に胸を張りたいという想いがあった。
その瞬間、心の奥底でほんの微かな火が強く揺らいだ気がした。
特別な力が宿ったわけでも、何か新しいスキルを手に入れたわけでもない。
けれど、確かに自分が変わり始めている。
ライトはゆっくり布団に横になり、目を閉じた。
明日は今日よりも、少しだけ強くなっていたい。
その願いだけを胸に、静かに眠りへ落ちていく。
戦いの疲れがじわじわと身体に戻ってきているようで、ライトはベッドへ腰を下ろすと、ゆっくり深呼吸した。
(今日は……よくやったな)
胸の中にそんな言葉が自然と浮かぶ。
誰かに強制されたわけでも、背中を押されたわけでもなく、自分の意志で挑んで、自分の力で乗り越えた一日だった。
剣を扱う右手を見つめる。
ほんの少しだけ、掌の皮が固くなったように思える。
昨日の自分と今日の自分。
積み重ねの中で、確かに違いが生まれ始めていた。
窓から見える街並みは、夕陽に照らされて穏やかな色に染まっている。
冒険者たちの笑い声が遠くから微かに聞こえ、どこか暖かい空気を感じさせた。
(この街に……俺の居場所ができてきたのかな)
そんな思いが胸に広がる。
まだはっきりと言えるほど強いものではない。
それでも、確かに心の形が変わり始めている気がした。
夕食をとるために宿の食堂へ向かうと、思いがけず賑やかな声が耳に飛び込んできた。
「ライト!」
ガルドが大きく手を振っている。
セインも隣で微笑みながら席を空けてくれていた。
「ちょうどいいところだ。こっち来いよ」
「え、でも……」
「遠慮すんなって。初依頼の成功祝いだ。お前に声をかけずに始めるわけにいかねぇよ」
その言葉に胸が温かくなる。
声をかけられたことが、まるで長い冬の後にふいに差し込む春風のようだった。
「……じゃあ、少しだけ」
「よし、それでいい!」
席につくと料理が運ばれ、温かな香りが食欲をそそった。
肉と野菜を煮込んだスープに、焼いたパン。
素朴だが、温かさが染みるような味だった。
「ゴブリンの群れを相手にしたんだってな」
「……はい。少し危なかったですけど」
「そりゃそうだ。あいつらは一匹なら雑魚だが、群れになると厄介だからな」
ガルドは豪快に笑いながら、パンをちぎって口へ放り込む。
「でもよ、お前は初めてであれだけやれたんだ。胸張れよ」
「……ありがとうございます」
ライトは目を伏せながらも、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「セイン。お前はどう見る?」
「ライトは……素直に伸びるタイプかな。変な癖がないし、周囲をよく見て動ける。あと……意志が強い」
「俺が?」
「うん。置き去りにされた状況から生き延びたんだよね。それだけで十分強いよ」
セインの柔らかな言葉に、ライトは胸が詰まる思いがした。
(あの日のことを思い出すだけで……少し胸が痛むな)
かつての仲間に見捨てられた瞬間の冷たさ。
あの暗闇は一生忘れないだろう。
だが、今はその記憶に押しつぶされるばかりではない。
(もう……あの日の俺じゃない)
そう思えるだけで、救われる気がした。
「ところでライト、今後どうするつもりなんだ?」
ガルドが問いかけてきた。
その目は真剣で、茶化すような様子はない。
「どう……というと?」
「冒険者として、どんな道を進むのかって話さ。レグナで活動するのか、この街を拠点にするのか、とかよ」
「……そうですね」
ライトは少しだけ考える。
(この街で……もう少し頑張ってみたい)
自然とそう思った。
「レグナで……もっと力をつけたいです。まだ弱いし、もっと戦えて、役に立てるように」
「いいじゃねぇか! 最高だろ、それ!」
ガルドは嬉しそうに手を叩いた。
「レグナは新人にはうってつけの街だし、ミィナも嬉しいだろうな」
セインも穏やかな笑みを浮かべた。
「焦らなくていいよ。ゆっくり自分のペースで強くなっていけばいい」
「……はい」
力強い声ではなかったが、それでもライトの心にはしっかりと芯が通っていた。
食事を終え、少し談笑をしてから、二人に見送られて部屋へ戻る頃には夜の帳がすっかり降りていた。
窓から見える星空はどこか澄んでいて、森での緊張が嘘のように静かだった。
装備を外し、ベッドに座ると、自然と今日一日の出来事が思い返される。
(俺……本当に、一歩ずつ進めているんだな)
その実感が胸に満ちていく。
焦りも、不安も、今日だけは不思議と遠ざかっていった。
そして、ライトは小さく拳を握る。
「もっと……強くなろう」
誰かを見返すためではなく、自分のために。
誰かに認められたいという気持ちもある。
でもそれ以上に、自分自身に胸を張りたいという想いがあった。
その瞬間、心の奥底でほんの微かな火が強く揺らいだ気がした。
特別な力が宿ったわけでも、何か新しいスキルを手に入れたわけでもない。
けれど、確かに自分が変わり始めている。
ライトはゆっくり布団に横になり、目を閉じた。
明日は今日よりも、少しだけ強くなっていたい。
その願いだけを胸に、静かに眠りへ落ちていく。
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