追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第10話

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 森の中を歩くライトの足取りは、さきほどまでの戦闘の緊張がわずかに残ってはいたが、不思議と心は軽かった。
 自分ひとりでゴブリンの群れを倒し、罠まで看破して生還できたという事実が、胸の内で静かに熱を灯し続けている。

(生きて帰れるって……こんなに嬉しいものなのか)

 最深部で置き去りにされたあの日、死ぬしかないと覚悟した瞬間を思い出す。
 あの暗闇から比べれば、この森の薄暗さなどどうということもなかった。

 街へ戻る道は、太陽の光が差し込むたびに足元の草を優しく照らしていた。
 小さな虫たちが飛び交い、鳥が枝から枝へ跳ねる。
 その光景一つ一つが、今は喜びとして胸の内に染み込む。

 小さく深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。
 剣は鞘の中で静かに収まっていた。

(次はもっと落ち着いて動けるはずだ)

 そんな確信が自然と湧き上がってきて、ライトは少しだけ笑った。

 街の門が近づくと、門番がライトに気づき、大きく手を上げた。

「おおっ! ゴブリン討伐に行った新人か! 無事だったか!」

「はい、なんとか……」

「その様子だと問題なく片付けてきたようだな!」

 門番の明るい声に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
 こうして誰かに認められることが、これほど嬉しいとは思ってもみなかった。

 街の中に入ると、通りは相変わらず賑やかだ。
 野菜を売る声、鍛冶屋の金属音、子どもの笑い声。
 昨日よりも、世界が少しだけ鮮やかに見える。

(こんなふうに街へ帰ってこれる日が来るなんて……あの時は思いもしなかった)

 胸の奥にある小さな傷が、じわりと癒えていくようだった。

 ギルドへ足を運ぶと、扉を開けた瞬間、ミィナがぱっと顔を明るくした。

「ライトさん! おかえりなさい!」

 その声が、まるで帰ってくる家に灯された明かりのように感じられた。

「ただいま戻りました。討伐、完了です」

「えっ、本当ですか? 一日で終わらせるなんて……すごいです!」

 ミィナが目を丸くしながら、急いで依頼書を確認する。
 その様子を見ていると、自然と胸の奥が熱くなってくる。

「怪我はありませんか? 血の跡とか……ないですよね?」

「大丈夫です。罠はありましたけど……なんとか避けられました」

「罠まで……! よくご無事で!」

 ミィナは胸に手を当てて、ほっと息をつく。

「ライトさん、本当に頑張ったんですね」

 その言葉に、ライトは少し照れくさくなり、視線をそらした。

「……ありがとうございます」

 ギルドで誰かに褒められるなど、これまで一度もなかった。
 勇者パーティにいた頃は、失敗扱いされることばかりだったからだ。

(本当は……俺はもっとやれるんだって、誰かに気づいてほしかったのかもしれない)

 胸の内でそんな思いがふと浮かぶ。

「おう、ライト!」

 後ろから聞き慣れた声がした。
 振り返ると、ガルドとセインが肩を並べて立っていた。

「戻ったか。どうだった?」

「ゴブリンの群れでした。でも……なんとか倒せました」

「群れ相手に無事帰ってきたか! すげぇじゃねぇか!」

 ガルドは豪快に笑い、ライトの背中を軽く叩いた。
 その衝撃に、ライトは少しよろけながらも嬉しさがこみ上げてくる。

「ゴブリンの罠は?」

「落とし穴と……倒木の罠がありました」

「倒木か。あれは初心者殺しだ。避けられたんなら大したもんだよ」

 セインが感心したように頷く。

「ライトの動きは悪くなかったからね。きっと経験が積み重なって、もっと洗練されていくよ」

「……ありがとうございます」

 胸の奥がじわりと熱くなる。
 今まで自分を褒めてくれた人など、ほとんどいなかった。
 その言葉がどれだけ救いになるのか、自分でも驚くほどだった。

「ライトさん、報酬はこちらになります!」

 ミィナが袋を差し出してくれる。
 その中には、昨日の薬草採取よりも少しだけ多い硬貨が入っていた。

「これ……ゴブリン討伐の報酬ですか?」

「はい! 討伐数も確認しましたし、問題ありません!」

「ありがとうございます」

 袋の重みは決して大きなものではない。
 だが、自分の力だけで稼いだ報酬だと思うと、胸の奥が熱くなる。

(俺でも……誰かの役に立てるんだ)

 そんな実感が、心に深く沁みていく。

「ライト、今日のところはゆっくり休めよ」

「はい。そうします」

「明日はどうする予定だ?」

「依頼を……また考えてみます」

「まあ急ぐ必要はねぇ。お前は昨日から一気に動きすぎだ。体壊すなよ」

「ありがとうございます」

 ガルドとセインが去っていく背中を見送りながら、ライトは胸の奥にじんわりと広がる温かさを噛みしめた。

(こんなにも……優しい人たちがいるんだな)

 仲間の後ろをついていくだけの毎日だったあの日とは、大違いだった。

 ギルドを出ると、夕方の柔らかな光が街を包んでいた。
 家へ帰る人々の姿、露店が閉じ始める音、子どもたちの笑い声。
 そのすべてが、今日一日をやり遂げた自分をそっと褒めてくれているように感じる。

 ライトはゆっくりと宿へ向かった。

 胸の内にあるのは、不安ではなく静かな充実感。

(この街で……もっと強くなれる。きっと……なれる)

 木々の香りを含んだ風が頬を撫でた。
 その感触が、希望の形をしているように思えてならなかった。

 ライトは空を見上げ、深く息を吸い込んだ。
 そして、小さく、しかし確かな声で呟いた。

「明日も……頑張ろう」
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