追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第12話

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 翌朝、ライトはいつもより早く目を覚ました。
 カーテンの隙間から差し込む淡い朝日が部屋の空気をゆっくりと温めている。
 昨夜の眠りは深く、久しぶりに夢も見なかった。

(よく寝たな……)

 まぶたの重さは残っているが、身体のだるさはほとんど感じない。
 昨日の緊張や疲れは、どうやらすべて眠りの中で溶けていったらしい。

 布団から抜け出し、何気なく拳を握ってみる。
 力を入れるたびに、掌の皮がほんのわずかに固くなっているのが分かった。

(昨日より……ちゃんと前に進めている)

 そんな確かな実感が、胸の奥に静かに広がった。

 洗顔を済ませ、身支度を整えてから窓を開けると、朝の澄んだ空気が滑り込んできた。
 街の音が少しずつ動き出す気配がする。

(今日も……頑張ろう)

 自分に小さく言い聞かせるように呟き、ライトは部屋を出た。

 宿の食堂はすでに数人の冒険者たちで賑わっていた。
 彼らが話している声が耳に入る。

「昨日の討伐、もう終わったらしいぜ」

「新人のライトってやつだろ? 噂になってるぞ」

「罠の多い森を、ひとりで帰ってきたって話だ」

 ライトは思わず足を止めた。
 自分の名前が、誰かの会話に紛れ込んでいるというだけで胸が高鳴る。

(俺のこと……そんなふうに言われてるんだ……)

 信じられないような、でも嬉しい感情が胸を温めていく。

「おはようございます、ライトさん!」

 ミィナの明るい声で意識が戻った。
 振り向くと、食堂に用意された小さなカウンターから身を乗り出すようにして笑顔を向けていた。

「おはようございます、ミィナさん」

「朝ごはん、準備できてますよ! 今日は野菜スープとパンです!」

「ありがとうございます」

 ライトが席に着くと、ミィナはすぐに朝食を持ってきてくれた。
 湯気の立つスープは食欲をそそり、温かな香りが鼻をくすぐる。

「今日の予定はどうされるんですか?」

「ギルドで依頼を見て……できそうなのがあれば受けようと思います」

「それがいいと思います! でも……ライトさん、本当に無理はしないでくださいね」

 その声音には、昨日の戦闘を心配している気持ちが自然とにじんでいた。
 ライトは小さく頷いた。

「はい。気をつけてやります」

 ミィナは安心したように微笑んだ。
 その笑顔を見ると、胸の奥がほんの少し軽くなる。

 朝食を終え、ギルドへ向かう道を歩いていると、昨日の少年に声をかけられた。

「お兄ちゃん! 今日も頑張ってね!」

「ありがとう」

 ライトは微笑む。
 少年は嬉しそうに笑い、走り去っていった。

(誰かが応援してくれるって……こんなに力になるんだな)

 胸の中の温かさは、昨日よりもさらに大きくなっていた。

 ギルドに入ると、朝から多くの冒険者たちが依頼の掲示板の前に集まっており、活気に満ちていた。
 ライトが近づくと、ガルドが大きな声で手を振った。

「おっ、来たなライト!」

「おはようございます、ガルドさん、セインさん」

 セインも軽く手を挙げて挨拶を返してくれる。

「今日は何を狙ってんだ?」

「まだ決めていません。昨日より少し難しい依頼……それか、薬草採取でもいいかなって」

「いい判断だ。いきなり強い敵に挑む必要はねぇ。まずは体力と感覚を慣らすのが先だ」

「ライトは慎重だから大丈夫だよ。選び方を間違えることはないと思う」

「……ありがとうございます」

 二人の言葉が心に染みる。
 背中を押されるような安心感があった。 

 依頼板を見ていると、ひとつ気になるものが目に入った。

「スライム討伐……?」

 小さな森に出没するスライムの駆除依頼。
 危険度は低く、初心者向けと書かれている。
 だが報酬は薬草採取よりもやや高い。

「ライト、それか?」

「はい。スライムなら危険も低いし、動きも単純だから……試すにはちょうどいいと思って」

「いいな! スライムは弱いけど、油断すると面倒な相手だ。毒や酸を持つ個体もいる。気をつけろよ」

 ガルドが真剣な目で言う。

「ライトの《超記録》にとっても、スライム相手は新しい経験になるはずだよ」

 セインの言葉にライトは頷いた。

「じゃあ、これにします」

「おう! 気をつけて行ってこい!」

 ガルドが力強くライトの肩を叩いた。
 その重い手に応援の気持ちが込められているようで、胸の奥がじんと熱くなる。

 ミィナに依頼書を渡すと、彼女は少しだけ心配そうに眉を寄せた。

「ライトさん、スライムは弱いって言われてますけど……油断は禁物ですよ? 特に酸を吐く個体がいると危ないですから……」

「気をつけます。無理はしません」

「約束ですよ?」

「はい」

 ミィナの真剣な目が、ライトの心にやさしく触れた。
 その気持ちが嬉しくて、ライトは小さく笑った。

 ギルドを後にし、街外れへ向かう道を歩く。
 朝の空気は冷たすぎず、心地よい風が頬を撫でた。

(昨日より……心が落ち着いているな)

 不安がないわけではない。
 だが、昨日の自分が今日の自分を支えてくれている。
 そんな感覚が、歩く足取りを軽くしていた。

 森の入口が見えてきたところで、ライトは一度立ち止まり、深く息を吸い込んだ。

「よし……」

 剣の柄を握る。
 その感触が、昨日よりも確かに手に馴染んでいる気がした。

(俺はここから……もっと強くなる)

 胸の奥で言葉が静かに燃える。

 ライトは森の奥へと、ゆっくり足を踏み入れた。
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