追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第13話

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 森の奥へと進むにつれ、空気はひんやりとしていき、光の量も徐々に減っていった。
 スライムは日の当たらない場所を好むとガルドから聞いていたため、薄暗さは逆に目的地に近づいている証拠でもあった。

 しかし、油断できる雰囲気ではない。
 昨日のゴブリンの罠が頭をよぎり、ライトは自然と足取りを慎重にした。

(スライムは弱い……けど、弱い相手ほど気を抜くと危ない)

 昔、勇者パーティにいた頃に何度か目にしたスライムたち。
 あのときは仲間たちが一瞬で倒してしまったため、危険だと感じたことはない。
 だがガルドたちの話を聞き、ライトはようやく気づいた。

(俺が知らなかっただけで……どんな相手にも警戒は必要なんだ)

 森に入ってしばらくすると、ぬるりとした気配が足元にまとわりつくような感覚がした。

 そして視界の端で、柔らかく揺れる影が見える。

(……いた)

 草の間から、薄い青色の半透明な塊がゆっくりと揺れながら姿を現した。
 太陽の光をほとんど反射しない液体状の身体。
 スライム特有の、静かな気味悪さがあった。

 ライトは剣の柄を握り直し、一歩後ろへ下がる。

「……落ち着いていけば、大丈夫」

 自分に言い聞かせるように呟き、スライムへ向き直った。

 スライムはライトを見つけると、その身体を上下にぼよんと震わせた。
 一見かわいらしい動きだが、その内部には鋭い粘性と高い耐久力が潜んでいる。

(突っ込んでくるタイプか……?)

 スライムの挙動を観察していると、ぐにゃりと身体の形が歪み、次の瞬間には勢いよく跳ねながら迫ってきた。

「来た……!」

 ライトは身体を横へずらして避ける。
 スライムは地面にぶつかった瞬間、粘り気を保ったまま潰れ、そのまままた元の形に戻ってライトへ向き直った。

《攻撃パターンを記録しました:スライム(一般種)》

 視界の端に淡い光が生まれる。

(これで動きが少しは読みやすくなる)

 スライムは再び跳ねて襲いかかってきた。
 ライトはその動きを見切り、剣で斬りつける。

 だが、刃はスライムの身体を突き抜けたはずなのに、感触はほとんどなかった。
 まるで水を切ったような鈍い感触だけが手に残る。

(硬い……というより斬りにくい……!)

 スライムは傷ついた様子もなく、また身体を縮めて跳び上がる。

 ライトは剣を下段に構え、跳んでくるスライムの軌道を見極める。

(体重は軽い。落ちた瞬間を狙う!)

 スライムがライトの肩目がけて落下する直前、ライトは素早く横へ転がった。
 スライムは地面に叩きつけられ、ほんの一瞬だけ形が崩れる。

 その隙を見逃さず、ライトは剣を振り下ろした。
 スライムの身体が大きく揺れて、ようやく裂け目が広がる。

「……いける!」

 裂け目が完全に広がりきると、スライムの身体は崩れ、液体となって地面に吸い込まれるように消えていった。

(倒せた……!)

 小さく息を吐く。
 剣を握る手には汗が滲んでいたが、心の中の重さは少しだけ軽くなった。

 しかし、安心したのも束の間だった。

(……ん?)

 倒したスライムの残滓から、白く細長いものが地面に残っているのが見えた。
 ライトは警戒しながら近づき、それを拾い上げる。

「……魔石、か?」

 掌ほどの大きさしかない白い魔石だった。
 スライムに魔石があるとはあまり聞いたことがないが、個体差によっては稀に持つことがあるらしい。

(売れそうだな……ギルドに持っていこう)

 魔石を袋に仕舞い、ライトは気持ちを切り替えて森の奥へ進んだ。 

 スライムを倒したことで少し気持ちに余裕が生まれたのか、周囲の音がよく聞こえるようになった。
 鳥の羽ばたき、木の葉の擦れる音、風の流れ。

(こうやって……冷静に戦えるようになってきたのかな)

 胸の奥にふわりと温かさが満ちていく。

 すると、また視界の端で揺れる影があった。

(またスライムか……?)

 軽く剣を構えて近づく。
 だが、先ほどのスライムと少し違っていた。

 身体の色が紫がかっており、内部の動きも濁っているように見える。

「……毒持ちか」

 ガルドが言っていた、厄介なタイプのスライムだ。

 スライムはライトの姿を見つけると、身体を不自然なほど大きく膨らませた。
 粘液が表面からこぼれそうなほどに膨張し、内部がぐにゃぐにゃと渦巻いている。

(来る……!)

 スライムは勢いよく跳ね上がり、今度はライトの顔めがけて一直線に飛んできた。
 ライトは即座に身をかがめ、剣を横へ振り払う。

 刃がスライムを切り裂き、粘性の液体が飛び散る。

 地面に落ちた液体が草を溶かしていくのを見て、ライトの背筋がぞくりとした。

(やっぱり毒……!)

 視界の端で文字が光った。

《毒性粘液を記録しました:スライム(毒種)》

(そうか……毒自体を記録できるのか)

 驚きと同時に、少しだけ恐ろしさもこみ上げる。
 ただスキルだけでなく、敵の性質までも記録できる《超記録》。
 使い方次第ではとんでもない力になる。

(でも……今はそれより、このスライムを倒す)

 ライトは気持ちを引き締めると、毒スライムの動きに集中した。

 毒スライムは勢いを落とすことなく、身体をくねらせて再び跳び上がる。
 ライトは跳ぶ動きを見切り、落下の瞬間を狙って剣を振り下ろした。

 今度はしっかりと手応えがあった。
 スライムの身体が大きく裂け、そのまま崩れて地面に広がる。

 しばらくすると、粘液の残滓もゆっくりと薄くなり、完全に消えた。

「……倒した」

 肩で息をしながらも、ライトは小さく微笑んだ。

(俺、昨日より……成長してる)

 そんな実感が胸にこみ上げてくる。

 スライムを二体倒した後、ライトは森を慎重に探索した。
 すると、スライムの残滓がいくつもある場所を見つけた。

(ここが……スライムの巣か)

 依頼の内容は「出没地点の調査と討伐」だ。
 ここを見つけたというだけで、大きな成果になる。

(よし、帰ろう)

 スライムの巣を確認したことで、ライトは街へ戻ることにした。

(今日も……ちゃんとやり遂げた)

 その確信が胸に広がり、歩く足取りが少しだけ軽くなる。

 森を出たとき、昼の風がライトの頬を優しく撫でた。
 その風に、疲れがほんの少し持っていかれる。

(ギルドへ戻ったら……ミィナさん、喜んでくれるかな)

 ふとそんな想像が浮かび、胸の奥が温かくなる。
 昨日とは違う期待が、歩くたびに膨らんでいく。

(次は……もっと強い敵にも挑めるようになりたい)

 その願いを胸に、ライトは街へ向けて歩き出した。
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