追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

文字の大きさ
16 / 69

第16話

しおりを挟む
 陽の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の空気をゆっくりと暖めていた。
 ライトはゆっくりと目を覚まし、天井をぼんやりと眺めた。

(よく眠れたな……)

 昨日の疲れはほとんど残っておらず、身体が軽かった。
 目をこすりながら起き上がり、深く伸びをする。
 背中の筋肉が心地よく伸び、その感覚に自然と息が漏れた。

 窓を開けると、朝のひんやりした空気が頬を撫で、鳥のさえずりが耳に届いた。
 街はもう動き始めており、遠くから市場の喧騒がかすかに聞こえる。

(今日も……ちゃんとやろう)

 そんな言葉が自然に胸に浮かぶ。
 一日前の自分とは確かに違う。
 少しずつ積み重ねているという実感が、ライトの心をしっかりと支えていた。

 身支度を済ませ、ライトは宿の食堂へ向かった。
 扉を開けた瞬間、ミィナがぱっと顔を上げ、笑顔を見せた。

「ライトさん、おはようございます!」

「おはようございます、ミィナさん」

「ちょうど朝食ができたところです。席にどうぞ!」

 ミィナが持ってきてくれたのは、温かいスープと焼き上がったばかりのパン。
 湯気の立つ料理に、胃が優しく刺激される。

「昨日の依頼、お疲れさまでした。ガルドさんたち、すごく褒めてましたよ」

「えっ……そうなんですか?」

「はい。ライトさんは慎重で、報告も丁寧だって。それに……ちゃんと帰ってきてくれたのが一番嬉しいです」

 ミィナがそう言うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。
 誰かが自分の無事を願ってくれていることが、こんなにも心を満たすとは思わなかった。

「今日は、どんな依頼に挑むんですか?」

「まだ決めていませんが……昨日より、少しだけ難しいものに挑んでみようかと思います」

「その気持ち……すごく素敵だと思います。ライトさんならきっと大丈夫です」

 ミィナの言葉は、静かにライトの背中を押してくれた。

 朝食を終え、ギルドへ向かう。
 街の空気は活気に満ちていて、朝日が石畳を明るく照らしている。

 ギルドの扉を押し開けると、いつもの喧騒が耳に広がった。
 冒険者たちの声、武器の金属音、依頼書をめくる音。

「おっ、ライト!」

 ガルドが大きく手を振って呼んだ。
 セインも隣で軽く手を挙げる。

「昨日のスライム討伐、聞いたぞ。二体も倒して巣まで見つけたんだって?」

「報告書、すごく丁寧だったよ。さすがライトだな」

「いえ……そんなにすごいことじゃ」

「すげえことだっての。新人が一人で巣の場所まで特定するなんて滅多にないぞ」

 ガルドの言葉は力強く、セインの声は穏やかで温和だった。
 その両方がライトの胸を静かに温める。

(俺……褒められてるんだ)

 不思議と心が軽くなる。

「今日はどれに挑むんだ?」
 ガルドが依頼板を指さしながら尋ねてくる。

「まだ……これから見ます」

「なら、一緒に選ぼう。ライトなら、このあたりがちょうどいいかもな」

 ガルドは初心者向けより少しだけ難度が高い依頼をいくつか示した。

「このあたりはどうだ?
 ・小型魔獣の討伐
 ・薬草採取の護衛
 ・廃小屋の調査依頼」

「……廃小屋の調査?」

「ああ。ちょっと前から気配があるらしくてな。魔物が住み着いたか、誰かが勝手に使ってるかもしれないって話だ」

「危険はどのくらいですか?」

「低いほうだな。せいぜい小型魔物がいるくらいだと思う」

「ライトならいけるよ」

 ライトはしばらく考えた。
 少し不安もあるが、挑戦したい気持ちが胸の奥でふつふつと湧いている。

(昨日より……少しだけ難しい依頼。それなら)

「……廃小屋の調査、受けてみます」

 ガルドが嬉しそうに笑った。

「よし! そうこなくちゃな!」

 セインも微笑む。

「ライトは慎重だから、きっと大丈夫だよ。危ないと感じたらすぐ戻るんだよ?」

「はい」

 ライトが依頼書を持って受付へ行くと、ミィナはぱっと目を輝かせた。

「廃小屋の調査ですか……気をつけてくださいね」

「はい。何か注意点はありますか?」

「廃小屋周辺には獣の痕跡があるって報告があって……もしかしたら、魔獣が住みついているかもしれません」

「気を引き締めて行きます」

「ライトさんならできます。……無事に帰ってきてくださいね」

 ミィナの声は真剣で、心の奥にすっと染み込んだ。

(心配してくれる人がいるって……こんなに心強いんだな)

 ギルドを出て、街外れへ向かう。
 昨日と違い、今日は少し風が強く、木の葉がざわざわと揺れていた。

 ライトは剣の柄を握り直し、気持ちを整える。

(廃小屋の調査……何があるか分からない。でも、やるしかない)

 足を進めながら、ライトは昨日の戦いの感触を思い返す。

 スライムの跳躍。
 毒液。
 戦いの緊張。

(記録した攻撃パターン……まだ完全ではないけど、役に立つはず)

 視界の端で小さく光った《記録適応》の補正が、ほんのわずかでも自分を助けてくれる気がしていた。

 森の道を外れ、獣道のような細い道をたどっていくと、目的の廃小屋が見えてきた。

 木造の屋根は沈み、壁は半分崩れかけていて、少しでも風が強ければ倒れてしまいそうだった。
 しかしその周囲には、確かに何かが歩いたような痕跡が残っていた。

(これは……)

 足跡はバラバラで、人間のものではない。
 大きさからして小型の魔獣か、野生の獣の類かもしれない。

 ライトは剣にそっと手を添える。

(慎重にいこう)

 小屋へと近づき、耳を澄ませる。
 中からは何も聞こえない。

 ライトはゆっくりと扉に手を伸ばし、きしむ音を立てながら開けた。

 薄暗い室内。
 床には古びた道具や木片が散乱している。
 埃の匂いが鼻をつき、足元の板がわずかにたわむ。

(気配は……?)

 目を細めて奥を見ようとしたそのとき。

 小さな影が、ライトの目の前を横切った。

「……!」

 反射的に身体が動き、剣を構える。

 影は床を走り、窓の割れた隙間から外へ跳ねていった。

(魔獣……?)

 一瞬の姿では判別できなかったが、素早さからしてただの野生の動物ではない。

(追うべきか……でも、無闇に追って罠にかかるのは危険だ)

 ライトはすぐに判断し、小屋の中を先に調べることにした。

 散乱した木片の間に、何かが落ちているのが目に入る。
 ライトはしゃがみ込み、それを拾い上げた。

「……毛?」

 短くて固い黒い毛だった。
 筋の入り方から、魔獣の毛だと分かる。

(何かが住みついていたのは間違いない)

 依頼の内容としては十分な情報だ。
 魔獣の種類までは判別できないが、痕跡があるだけでもギルドにとって重要な手がかりになる。

(……戻ろう)

 その瞬間だった。

 屋根の上から、かすかな気配が落ちてきた。

「……!」

 ライトが反射的に身をひねった直後、屋根の隙間から灰色の影が飛び降りてきた。
 獣のような赤い瞳が鋭く光り、牙をむき出しにしている。

(魔獣……!)

 影は小型の狼のような姿をしていた。
 だが普通の狼よりも筋肉質で、動きが鋭い。
 魔物の気配をまとっている。

 狼型魔獣は低く唸り、ライトの足元へ飛びかかった。

 ライトは剣を横に振り払う。
 刃が魔獣の肩をかすめ、獣が痛みに短く吠えた。

 その瞬間、視界の端で光が揺れる。

《攻撃を記録しました:魔獣(灰狼種)》

(動きが……見える)

 魔獣は攻撃を受けたことで慎重になり、小さく周囲を回りながら隙をうかがっている。
 ライトは呼吸を整え、相手の足運びを記録した感覚を使って読み取る。

(次は右から……)

 魔獣が飛び込んでくる瞬間、ライトは剣を振り上げ、斜めに切り下ろした。
 魔獣は避けようと身をずらすが、記録した軌道によってライトは動きを読み切っている。

 刃が魔獣の胴に深く入った。

 魔獣は短い声を上げ、そのまま床に崩れ落ちた。

「……ふぅ……」

 胸の鼓動がまだ早い。
 手のひらに汗がにじみ、剣を握る力がわずかに緩んだ。

(危なかった……でも)

 ライトは倒れた魔獣を見下ろし、小さく息をついた。

(ちゃんと、勝てた)

 昨日と今日で、確かな前進を感じていた。

 小屋の外に出ると、風が強く吹き抜けた。
 汗ばんだ首筋に冷たい風が当たり、心地よい感覚が広がる。

(報告しよう)

 ライトはギルドへと向けて歩き始めた。
 足取りは揺らがず、胸の奥には静かな確信が灯っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

スキル【ファミレス】を使っていたら伝説になりました。

キンモクセイ
ファンタジー
スキル「ファミレス」を手にした。 ハズレスキルかと思い、主人公の思うがまま行動している。 そんな時に1人の少女と出会い、運命が変わる。

【完結】料理人は冒険者ギルドの裏で無双します

vllam40591
ファンタジー
東京の超一流レストランで命を削り、ついには過労死してしまった天才料理人・椎名栄作(29歳)。目を開けば、そこは魔法と魔物が存在する異世界「アストラル大陸」だった。 偶然にも毒蜘蛛に噛まれた少年を救ったことで、栄作は自分に特殊能力「味覚分析」が宿っていることを知る。触れるだけで食材の全てを理解し、その潜在能力を引き出せるこの力は、異世界の食材にも通用した。 石造りの町アーケイディアで冒険者ギルドの料理人として雇われた栄作は、やがて「料理魔法師」という稀有な存在だと判明する。「魔物肉」や「魔法植物」を調理することで冒険者たちの能力を飛躍的に高める彼の料理は評判となり、ギルドの裏で静かに"伝説"が生まれ始めていた。 「この料理、何か体が熱くなる…力が溢れてくる!」 「あのシェフのおかげで、SS級の討伐クエストを達成できたんだ」 戦うことなく、ただ料理の力だけで冒険者たちを支える栄作。 しかし古き予言の主人公「料理で世界を救う者」として、彼は「死食のカルト」という邪悪な組織と対峙することになる。 鍋と包丁を武器に、料理精霊を味方につけた栄作は、最高の一皿で世界の危機に立ち向かう。 現代で認められなかった料理人が、異世界で真価を発揮し「グランドシェフ」として成長していく姿を描いた、笑いと感動と食欲をそそる異世界美食ファンタジー。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

兄が【剣聖】、妹は【聖女】になった双子の転生者はのんびり冒険者やってます♪

雪奈 水無月
ファンタジー
「兄は剣聖、妹は聖女──でも、転生理由は女神の“うっかり”でした。」 平凡な放課後が、空に走る黒い亀裂で終わりを告げる。 与えられたのは最強の力と、新しい世界イングレイスでの第二の人生。 しかし、転生直後に待っていたのは──濃い霧と、不気味な視線。 手を離したら、もう二度と会えない。 これは、剣と癒しで道を切り拓く兄妹の冒険の始まり。

異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです

青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。 混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。 もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。 「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」 思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。 その時、見知らぬ声が響く。 「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」 これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
*読者のみなさま  この作品をお読みいただきありがとうございました。こちらの作品は1月10日12時をもって非公開とさせていただきます。 『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

処理中です...