追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

文字の大きさ
19 / 69

第19話

しおりを挟む
 森の奥へ進むほど、空気が変わっていくのが分かった。
 ひんやりとした冷たさが薄れ、代わりに静かな温もりのようなものが風に混じる。
 先ほど感じた異常な魔獣の凶暴さとはまるで違い、胸の奥に触れるような柔らかい気配だった。

 さっき巨大な爪跡を見つけた場所を離れてしばらく歩くと、周囲の木々が自然と道を開くように並んでいることに気づく。
 まるで何かに導かれているように、視線の先がゆっくりと明るくなっていった。

(この先に……何があるんだ)

 ライトは息を整えて進んだ。剣は手にしたまま、いつでも動ける体勢を崩さないようにする。

 ふと気づけば、鳥の声も虫の音も消えていた。
 風が揺らす枝葉のざわめきだけが、遠くに小さく響いている。

 やがて、木々の切れ間から柔らかい光がこぼれた。陽光というより、魔力の揺らめきに近い。

「……これは」

 目の前に広がっていたのは、小さな泉だった。
 澄んだ水面が淡く輝き、中心には石でできた円形の台座がある。
 台座の上には、赤い光が脈打つ小さな何かが置かれていた。

 ライトは思わず近づく。

(卵……?)

 それは卵の形をしていた。人の手にやっと乗るほどの大きさで、殻の内部から灯りのような赤い光がゆっくりと鼓動している。
 危険な気配はなく、むしろ静かに助けを求めているような、そんな印象だった。

 視界の端に淡い文字が揺れた。

《高位魔力反応を記録しました》

 ライトは小さく息をのむ。

(まさか……魔獣の卵? それとも……)

 近づいても敵意は感じられない。むしろ、この卵はずっとひとりで森に残され、誰かを待っているように見えた。

 手を伸ばして触れるか迷っていたその時、泉の近くで枯れ枝が折れる音がした。

 ライトはすぐに剣を構える。

 茂みの陰から、黒い筋の走った狼型の魔獣が三体、ゆっくりと姿を見せた。
 先ほど倒した魔獣と同じ異常性を持ちながら、さらに凶暴性を増している。

(まだいたのか……!)

 三体が同時に低く唸り声を上げる。赤い目がライトだけを狙っていた。

 いや、違う。

(……この卵を狙っている?)

 視線の向きと、じりじりとした接近の仕方で分かった。
 彼らはライトではなく、台座の上の卵に狙いを定めている。

 それを理解した瞬間、身体が先に動いていた。

「ここは通さない!」

 地面を蹴り、ライトは前へ躍り出る。狼たちが一斉に飛びかかってくる。

《敵性魔獣の連携パターンを記録》

 視界が鮮明になり、三体の動きが立体的に理解できた。一体は正面から、もう一体は右側から跳びかかり、三体目は低く潜って足元を狙う。
 初見で避けられる攻撃ではない。

 だが、ライトの頭の中では、三体の軌道が重なるように見えていた。

(右に一歩……左に半歩……!)

 身体が自然と動き、最小限の足さばきで三方向の攻撃をかわしていく。
 風が頬をかすめるたびに、紙一重の距離を抜けているのが分かった。

 右から飛びかかってきた個体に、ライトは低い姿勢で踏み込み、そのまま斬撃を叩き込んだ。

「斬撃強化!」

 鋭い線を描くような斬撃が狼の脇腹を割き、黒い靄が噴き出すように散った。

 一体が崩れ落ちると、残りの二体が怒りに満ちた声を上げて距離を詰めてくる。
 素早く死角を奪おうと位置を変えていく。

《連携パターン更新》

 ライトの視界には、二体の動きが交差する瞬間がゆっくりと浮かび上がった。
 ほんの一瞬だけ互いに死角を作る。その隙に踏み込めば一気に決められる。

(いける……!)

 ライトは一歩踏み込み、さらに二歩目で距離を縮めた。
 地面が跳ねる感触が足裏に伝わる。二体が同時に飛びかかってくる瞬間、ライトはあえて片方の影に身体を滑り込ませた。

 横から襲いくる牙が頬をかすめる。だが避けられる。

「そこだっ!」

 ライトの剣がまっすぐ突き込まれ、二体目の胸元を深く貫いた。

 残った一体が怯んだように後退する。赤い目に浮かぶのは怒りではなく、何かから逃げようとする恐怖のようにも見えた。

「……卵を、怖がっている?」

 魔獣は一歩だけ後ずさり、だが諦めきれない様子で再び姿勢を低くした。
 まるで「あれは危険だ」と本能が訴えているかのようだった。

 ライトは剣を構え直す。

「来るなら来い……俺も引く気はない」

 魔獣が走り出す。地面が震え、風が裂ける。

 ライトはまっすぐ前へ踏み込んだ。互いの影が重なる一瞬、視界の端に淡い文字が浮かぶ。

《攻撃予測補助》

 ライトの身体が自然と最適な軌道を描いた。

「はぁっ!」

 振り抜いた斬撃が魔獣の巨体を断ち切る。黒い靄が森に散り、魔獣はそのまま崩れ落ちた。

 すべてが静かになった。風がわずかに吹き、草がそよぐ音が耳に戻ってくる。

 ライトはゆっくり呼吸を整え、剣を収めた。

「……守りたかったのか。それとも、壊したかったのか」

 倒れた魔獣たちを見つめながらつぶやく。彼らの行動は矛盾していた。卵を狙うようでいて、同時に怯えていた。

(この卵には……何が眠っているんだ)

 ライトは台座へ向き直り、赤く光る卵をそっと両手で包み込むように持ち上げた。
 温かい。まるで心臓の鼓動のようなリズムが手に伝わってくる。

「……大丈夫だ。一緒に帰ろう」

 森の奥で卵はひとりで待っていた。その理由はまだ分からない。だが、ここに置いたままにしていいとは思えなかった。

 ライトは卵を大切に布で包み、胸元に抱え込む。

 帰り道、泉のほとりを振り返る。静けさは戻っているが、何かが確かに変わっていた。

(調査依頼だったけど……これは報告しないといけないな)

 胸に抱く卵が、ほのかに光った。

 それはまるで、ライトに応えるようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

スキル【ファミレス】を使っていたら伝説になりました。

キンモクセイ
ファンタジー
スキル「ファミレス」を手にした。 ハズレスキルかと思い、主人公の思うがまま行動している。 そんな時に1人の少女と出会い、運命が変わる。

【完結】料理人は冒険者ギルドの裏で無双します

vllam40591
ファンタジー
東京の超一流レストランで命を削り、ついには過労死してしまった天才料理人・椎名栄作(29歳)。目を開けば、そこは魔法と魔物が存在する異世界「アストラル大陸」だった。 偶然にも毒蜘蛛に噛まれた少年を救ったことで、栄作は自分に特殊能力「味覚分析」が宿っていることを知る。触れるだけで食材の全てを理解し、その潜在能力を引き出せるこの力は、異世界の食材にも通用した。 石造りの町アーケイディアで冒険者ギルドの料理人として雇われた栄作は、やがて「料理魔法師」という稀有な存在だと判明する。「魔物肉」や「魔法植物」を調理することで冒険者たちの能力を飛躍的に高める彼の料理は評判となり、ギルドの裏で静かに"伝説"が生まれ始めていた。 「この料理、何か体が熱くなる…力が溢れてくる!」 「あのシェフのおかげで、SS級の討伐クエストを達成できたんだ」 戦うことなく、ただ料理の力だけで冒険者たちを支える栄作。 しかし古き予言の主人公「料理で世界を救う者」として、彼は「死食のカルト」という邪悪な組織と対峙することになる。 鍋と包丁を武器に、料理精霊を味方につけた栄作は、最高の一皿で世界の危機に立ち向かう。 現代で認められなかった料理人が、異世界で真価を発揮し「グランドシェフ」として成長していく姿を描いた、笑いと感動と食欲をそそる異世界美食ファンタジー。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

兄が【剣聖】、妹は【聖女】になった双子の転生者はのんびり冒険者やってます♪

雪奈 水無月
ファンタジー
「兄は剣聖、妹は聖女──でも、転生理由は女神の“うっかり”でした。」 平凡な放課後が、空に走る黒い亀裂で終わりを告げる。 与えられたのは最強の力と、新しい世界イングレイスでの第二の人生。 しかし、転生直後に待っていたのは──濃い霧と、不気味な視線。 手を離したら、もう二度と会えない。 これは、剣と癒しで道を切り拓く兄妹の冒険の始まり。

異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです

青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。 混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。 もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。 「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」 思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。 その時、見知らぬ声が響く。 「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」 これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
*読者のみなさま  この作品をお読みいただきありがとうございました。こちらの作品は1月10日12時をもって非公開とさせていただきます。 『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

処理中です...