追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第18話

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 柔らかな朝の光が宿の窓を透かし、部屋の空気をゆっくりと明るく染めていく。
 ライトはまばたきをしながら目を覚まし、しばらく天井を見つめていた。

 昨日、ギルドで新しい依頼をこなし、わずかではあっても自信につながった一日だった。
 けれど、まだ足りない。もっと強くならなければという思いは、勇者パーティに置き去りにされたあの日からずっと胸の奥で静かに燃え続けている。

 身支度を整えて宿を出ると、朝の街は澄んだ空気に包まれていた。
 焼きたてのパンの香りが通りをくすぐり、働き始めた人々の声が徐々に増えていく。

 ライトは早足になりすぎないよう意識しながら、ギルドへと向かった。
 急ぎたい気持ちは確かにあるのに、それを表に出すのはどこか照れくさい。

 ギルドの扉を押すと、受付台の向こうでミィナが書類を整理していた。
 気配に気づいたミィナが顔を上げ、ぱっと表情を明るくする。

「ライトさん、おはようございます」

「おはようございます。今日も早いですね」

「はい。あ……ギルドマスターがライトさんをお呼びしてましたよ」

 ミィナは声を少し落として伝えた。慎重に選んだような口調で、どこかライトを気遣う響きがあった。

「俺を……ですか?」

「はい。ギルドマスター室でお待ちだと思います」

 ライトがうなずくと、ミィナは安心したように呼吸を整えた。

「行ってらっしゃいませ。終わったら、また戻ってきてくださいね」

「はい。ありがとうございます」

 ライトは穏やかに笑い返し、ギルドマスター室の扉をノックした。

「入っていいぞ」

 落ち着いた声が返ってきて、ライトは扉を開ける。机いっぱいに広げられた地図。
 その前で腕を組むグランは険しい表情をしていたが、内にある冷静さはいつもと変わらない。

「来てくれて助かる。実は北の森で異変が起きている」

「森の……異変、ですか?」

「ああ。昨日、何人かの冒険者が報告に来てな。魔獣の動きが変だとか、体に黒い線のようなものが浮いていたとか。どれも曖昧だが、複数人が同じことを言う以上、放置はできん」

 ライトは自然と姿勢を正した。森の異変について聞くのはこれが初めてだったが、グランの声音から事態の重さが伝わってくる。

「討伐というより、まずは調査依頼だ。状況さえつかめれば、いくつか対策も立てられる」

 グランは地図から視線を外し、ライトをまっすぐ見つめた。

「ライト。お前の《超記録》は、ただ戦うだけの冒険者よりも多くの情報を持ち帰れる。今回の調査、任せたい」

 胸の奥がじんと熱くなる。自分の力を必要としてくれる人がいる。
 それだけで心が震えた。

「……はい。行ってきます」

「無理はするな。あくまで調査だ。それを忘れなければ大丈夫だ」

 ライトは深くうなずき、部屋をあとにした。

 受付に戻ると、ミィナが小さな袋を両手で抱えて待っていた。

「ライトさん、これ……森に行かれるって聞いたので。簡単なものばかりですけど、役に立つかもしれません」

「こんなに……本当にありがとうございます。助かります」

「いえ……どうか気をつけてくださいね」

 ミィナの目には、冒険者としてのライトへの信頼と、ひとりの友人としての心配が同時に宿っていた。
 ライトはその思いを受け取るように、柔らかく笑った。

「行ってきます。必ず無事に戻ります」

「はい。待ってます」

 ライトは北門へ向かい、街をあとにした。

 にぎやかな生活音が遠ざかっていくにつれ、森へ続く道は静寂に包まれる。
 鳥の鳴き声と、風に揺れる草の音だけが小さく響いていた。

 森の入口に着くと、ライトは深く呼吸を整えた。

「調査とはいえ……気を抜かないようにしないと」

 一歩踏み入れた瞬間、空気が変わった。温度がわずかに下がり、風も吹かず、葉のざわめきもない。
 静けさが不自然なほど濃く漂っている。

 数歩進むと、地面に深い爪痕が刻まれているのを見つけた。
 土が抉れ、荒れた足跡が周囲に散っている。

《痕跡を記録しました》

 視界の端に淡い文字が浮かぶ。

(最近つけられた跡だ……)

 ライトがそう判断したとき、茂みが大きく揺れた。

 ライトは即座に剣を抜き、身構える。

 飛び出してきたのは、体に黒い筋をまとった狼型の魔獣。
 赤く濁った目から、正常な状態ではないことが一目で分かる。

《敵性魔獣を記録しました》

 魔獣が勢いよく飛びかかってくる。ライトは素早く後退しながら地面を滑り、剣の角度を整える。

(スピードが速い……)

 だが、動きが分かる。《超記録》が魔獣の癖を捉えていた。

《攻撃パターンを記録しました》

 牙を剥いて突進してくる魔獣。ライトは横に跳び、回避しながら斬撃を叩き込む。

「斬撃強化……!」

 まだ弱いスキルだが、軌道を理解すれば威力は確かになる。
 《超記録》のおかげで敵の動きが読みやすく、身体も戦いに馴染んでいく。

 魔獣が反転し、再び飛びかかってくる。ライトは地面を蹴って低く踏み込み、剣を深く閃かせた。

 大きな衝撃とともに、魔獣の胸に深い傷が走る。
 黒い靄が吹き出し、魔獣は崩れ落ちた。

「ふぅ……なんとかなった……」

 ライトは息を整え、剣を納めた。体にはまだ緊張の名残がわずかに残っている。

 森の奥へ進むと、空気が再び変わった。冷たさが薄れ、柔らかな気配が漂い始める。

「……ここだけ、違う……?」

 大木が二本、門のように立つ空間。その中心には巨大な爪跡が深く刻まれていた。
 先ほどの魔獣では到底つけられない大きさだった。

 ライトは跪き、指先でそっと触れた。

「温かい……?」

 つい最近、この場所に何かがいた。荒々しいだけではなく、どこか守るような気配を残して。

《未知の高位魔力を検知》

 視界に淡い文字が揺れた。不安と期待が胸の奥で同時にふくらむ。

「ここで何が……」

 その答えが、森のさらに奥に眠っていることを、ライトはまだ知らなかった。
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