追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第20話

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 森の出口が近づくにつれ、ライトは胸に抱えた卵の温度をそっと確かめた。
 布越しでも分かるほど温かく、微かに脈動している。
 まるで生き物がそこに眠っていることを確かめるように。

(これだけ温かいってことは……やっぱり、ただの魔獣じゃないんだよな)

 森の冷えた空気から、街へ続く柔らかい風へと変わっていくにつれ、抱えているものの重みが現実として心に迫ってくる。

(ギルドマスターに見てもらわないと。……俺が判断できることじゃない)

 そう分かってはいるのに、卵を両腕に抱えたまま歩く自分の姿が少し不思議だった。
 ほんの少し前までは魔獣の巣に迷い込むことすら怖かったはずなのに、今は守るように抱えている。

 街の門が見えたころ、門番の男がライトに気づき、目を軽く丸くした。

「おお、無事に戻ったか。……って、その荷物は?」

「少し、森で見つけたものです。ギルドマスターに渡すものなので」

「そうか。なら、急いで持っていったほうがいいな。森の異変の件で、ギルドも慌ただしく動いていたぞ」

「分かりました。ありがとうございます」

 短く挨拶をして、ライトはそのままギルドへ向かった。

 夕暮れに近い光が街を照らし始めていた。通りを歩く人たちのざわめきも柔らかく、旅商人が荷台の整理を始める姿も見える。
 そんな日常的な光景の中で、ライトは胸の奥が少しだけ落ち着いていくのを感じた。

 ギルドの扉を押し開けると、中の喧騒が一瞬だけ静まり、すぐにいつもの賑やかさが戻ってきた。

 しかし、ミィナだけがライトを見るやいなや目を見開き、慌てたようにカウンターから身を乗り出した。

「ライトさん……! 無事だったんですね。本当に良かった……!」

「ただいま戻りました。ちゃんと調査もしてきました」

「その……胸に抱えてるものは?」

 ライトは小さくうなずき、布に包まれた卵を軽く持ち上げる。

「森の奥にあったんです。赤く光っていて……魔獣たちが異常に反応していました」

「赤く……光る、卵……?」

 ミィナの表情が一瞬強張る。だがすぐに立ち直り、ライトを手招きした。

「ギルドマスターにすぐ渡したほうがいいです。今、奥の部屋にいますから」

「ありがとうございます。行ってきます」

 ライトは卵を抱えたままギルドマスター室へ向かった。
 扉の前でノックすると、中から落ち着いた声が返ってくる。

「入れ」

 ライトが扉を開けると、グランは机に地図を広げ、真剣な表情で何かを書き込んでいた。
 ライトの姿を見ると手を止め、視線を向ける。

「戻ったか。無事で何よりだ。……その胸に抱えているものは?」

「森の奥で見つけました。異常な魔獣たちが……まるでこれを狙っていたように見えました」

「狙っていた、か」

 グランは椅子から立ち上がり、ライトの目の前まで歩み寄る。

「見せてもらえるか?」

「はい」

 ライトは布を少しだけ開く。赤い光が淡く溢れ、部屋の空気が一瞬静まった。

 グランの眉がわずかに動く。

「……魔力を帯びた卵か。だがこれは、普通の魔獣のものではないな」

 ライトは息を飲む。

「分かるんですか?」

「この脈動……魔力の質……。おそらく高位種族のものだ。竜種か、それに近い存在の可能性がある」

「竜……?」

 その一言だけで、胸の奥が大きく揺れた。森で卵を持ったとき感じた不思議な温かさ。
 それがただの気のせいではなかったのだと理解する。

 グランはしばらく卵を観察したあと、静かに息をついた。

「ライト、お前がこれを見つけたことに意味があるかどうかは、今は分からん。ただ一つ言えるのは……この卵は、誰かに守られていた可能性が高い」

「守られて……ですか?」

「森の奥、魔力が濃い地点だったんだろう。竜種や高位存在が安息の地として選ぶような場所だ。おそらく、この卵の親が……何かを感じ取って卵を残したのかもしれん」

 ライトは布越しに卵を見つめた。

 赤い光は穏やかで、傷ついた小さな命が息をしているように見える。

「この卵を……どうすればいいでしょうか?」

「ギルドで預かるのが本来だ。だが……」

 グランは卵とライトの顔を交互に見た。

「お前が抱えているとき、この卵は安定しているように見える」

「え……っと?」

「魔力の波が穏やかになっている。おそらく、お前の《超記録》の特性が何かしら影響しているのかもしれん」

 ライトは思い返す。森で卵を持った瞬間、どこか安心したように光が弱まった気がした。

(……偶然じゃなかったんだ)

 胸が熱くなる。

 グランは静かに続けた。

「提案だ。この卵、お前がしばらく預かれ。もちろん危険が伴う可能性もある。嫌ならギルドで保管する」

「……俺が預かっていいんでしょうか?」

「卵が選ぶか、お前が選ぶかは分からん。ただ、あの光を見た限り……お前に預けるのが最も自然だと思った」

 ライトはしばらく黙って卵を見つめた。

 その間にも赤い光がゆっくりと脈打ち、手の中で静かに息づいている。

(森に置いていくのは違う。ギルドに預けるのも……なんだか落ち着かない)

 この卵はなぜか、ライトの手の中で穏やかに光り続けている。
 初めて抱えたときと同じ感覚だった。

 答えは自然と口をついて出た。

「……俺が、預かります」

 グランは深くうなずいた。

「その覚悟があるなら、それでいい。無理はするな。何か異変があれば必ず報告しろ」

「はい」

「この先、その卵を巡って何が起きても、お前が悪いわけではない。自分を責めるなよ」

 ライトは驚いて顔を上げる。

「どうして……そのようなことを?」

「真面目な奴ほど、責任を全部抱え込む。お前は特にそうだろう」

 その言葉に胸が少しだけ痛くなる。心を見透かされたようで、しかし不思議と嫌ではなかった。

「ありがとうございます。気をつけます」

「よし。今日はもう帰れ。明日、卵に変化がないか報告に来い」

 ライトは深く頭を下げ、部屋を出た。

 ギルドのホールに戻ると、ミィナが心配そうに顔をのぞかせてくる。

「どうでしたか……?」

「預かることになりました。しばらく俺が様子を見ることになりました」

「ライトさんが……ですか?」

「はい。でも、大丈夫です。危険は感じませんし、俺が持っていると落ち着くみたいなんです」

 ミィナはしばらくライトと卵を見比べたあと、小さく笑った。

「……なんだか似合っています。ライトさん」

「似合っているって……卵ですよ?」

「ふふっ。でも、守っている感じがします。すごく優しい顔になっていますよ?」

「そ、そうでしょうか……?」

 頬が少し熱くなる。ミィナはその反応に安心したのか、穏やかにうなずいた。

「気をつけて帰ってくださいね。明日、また状況を聞かせてください」

「ありがとうございます。行ってきます」

 ギルドを出て宿へ向かう途中、空には柔らかい夜色が広がり始めていた。

 卵は静かに光り、その赤は夕暮れよりも温かかった。

(……きっと、何かが始まっている)

 そう感じながら、ライトはゆっくりと歩き出した。
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