追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第25話

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 朝の光が宿の窓を照らし、部屋の中を少しずつ温めていく。
 ライトは目を開ける前に、胸の上に感じる柔らかな重みに気づいた。

「……ミリュウ?」

 ゆっくり身体を起こすと、ミリュウが丸くなったまま、ライトの胸の上で寝息を立てていた。

「ミュー……」

 その声がやけに可愛くて、自然と表情が緩む。

「おはよう。重くないよ」

 そっと抱き上げると、ミリュウは薄く目を開け、金色の瞳できょろきょろと部屋を見渡す。
 まだ生まれたばかりだが、光や気配に敏感らしく、朝の空気に触れて嬉しそうに尻尾を揺らした。

「ミリュ!」

「うん、外に出たいって顔してるな」

 卵から孵って一晩。
 ミリュウはまだ翼もまともに動かせないほど幼いが、ライトの後ろをちょこちょこついてくるようになった。

(今日は軽い依頼にしよう。ミリュウも外の空気に慣れないと)

 支度を済ませ、ミリュウを胸に抱えてギルドへ向かう。
 ミリュウを抱えて歩く姿は目立つはずだが、不思議と街の人々は警戒するよりも興味深く見ている。ミリュウが危険な気配を持たないからだろう。

 ギルドに入ると、ミィナがすぐに気づいて笑顔を向けてきた。

「ライトさん、おはようございます! 今日は……わっ、ミリュウちゃんも一緒なんですね!」

「はい。今日は軽めの依頼をお願いしようと思って」

「もちろんです! ミリュウちゃん、今日もかわいい……」

 ミィナがそっと指を伸ばすと、ミリュウは不思議そうに匂いを嗅ぎ、「リュリュ」と小さく鳴いた。
 危険を感じていない証拠だ。

「今日は、街道沿いに出る弱い魔獣の討伐なら、負担にならないはずですよ。ライトさんならすぐに終わりますし」

「ありがとうございます。ちょうどいいです」

「気をつけてくださいね。ミリュウちゃんも」

「ミリュ!」

 元気よく鳴いたミリュウに、ミィナがくすっと笑う。
 ライトは依頼書を受け取り、ギルドをあとにした。

 街外れまで歩くと、ミリュウは興味津々で周囲を見回していた。
 草の匂い、風の音、陽光の温度。
 どれも初めて触れる世界なのだろう。

「ミリュ、ミュー……!」

「そんなに楽しそうにするなよ。気が散るだろ」

 口ではそう言いながらも、その表情を見るだけで胸が温かくなる。

(守らないとな……)

 街道沿いの林へ入ると、弱い魔獣――イノバットと呼ばれる牙の鋭い猪型の魔獣が姿を見せた。
 ミリュウはライトの服を軽く掴んで、ちょこんと顔を出す。

「怖くないよ。見てるだけでいいからな」

「ミリュ……」

 ライトは前へ出て剣を構える。
 イノバットが威嚇して突進してきた瞬間、視界の端に淡い文字が揺れた。

《敵性魔獣の軌道記録を開始》

(早いけど、昨日の異常個体と比べれば……)

 踏み込み、横へ跳ぶ。
 避け切れるはずの動作だったが、その瞬間、ライトの身体が自分でも驚くほど軽く動いた。

(……ん?)

 一歩の踏み出しが明らかに鋭い。
 視界の解像度が上がったように、魔獣の動きが滑らかに見える。

 イノバットが振り向くより先に、ライトの剣が届いた。

「はっ!」

 鋭い斬撃が魔獣の肩口をとらえ、そのまま倒れ込む。

「……今の、俺?」

 いつもより身体が反応していた。
 自分の動きが、ほんの少しだけ噛み合っている感覚。

 その直後、視界にまた文字が浮かぶ。

《経験を解析しています》

《新スキルを習得しました》

《成長》

「……スキル?」

 驚いていると、胸元のミリュウが「ミュ?」と首を傾げた。
 ライトは苦笑しながら頭を撫でる。

「いや、大丈夫。ちょっと……新しい力を手に入れたみたいだ」

 《成長》の説明が続く。

《戦闘・行動によって得た経験値が即座に身体能力へ還元されます》

《効果は微弱ですが、条件が整うほど成長速度が上昇します》

(……つまり、戦った分だけ確実に強くなるってことか)

 誰に言われたわけでもない。
 ただ、戦いを通じて積み上がっていく力。

(なんていうか……俺に合ってるな)

「ミリュ!」

 ミリュウが嬉しそうに尻尾を振る。
 ライトの魔力が少し変わったことに気づいたのかもしれない。

「ありがとな。お前のおかげで踏ん切りついた感じもあるし」

「ミュー!」

 ミリュウは得意げに鳴く。
 するとその瞬間、小さな口の前で微かな火花が散った。

「……え? 今の、火?」

「ミリュ?」

 本人はまったく自覚していない様子で首を傾げている。

(これ……初めて魔力を外に出したんじゃ……)

 まだ危険なほどの威力ではなく、ライターより弱い火花程度。
 だが確かな成長だ。

「すごいじゃないか。お前も頑張ってるんだな」

「リュリュ!」

 全身で喜びを表現するミリュウに、ライトはつい笑ってしまった。

 その後、軽い依頼をいくつかこなしたが、ライトの身体は戦うたびにわずかに馴染んでいくようだった。
 動きが遅れない。剣がぶれない。息が上がりにくい。

(これが……《成長》の力)

 ギルドへ戻るころには夕日が街を照らしていた。

 中へ入ると、ミィナがすぐ駆け寄ってくる。

「ライトさん、お帰りなさい! ミリュウちゃんも……あれ、なんだか元気そうですね?」

「はい。今日は色々ありまして……俺も、少し強くなれたみたいです」

「ライトさんが……?」
「はい。新しいスキルを一つ、手に入れました」

 ミィナは胸に手を当て、ぱっと表情を明るくする。

「すごいです! ライトさん、どんどん強くなってますね!」

「……ありがとうございます」

 褒められることに慣れていないライトは、少しだけ目を逸らした。

「後でグランさんにも報告してくださいね。きっと喜びます」

「ええ、報告します」

 ミリュウがミィナの指先をくんくん嗅ぎ、「ミュー」と鳴くと、ミィナはたまらず笑っていた。

「本当に……かわいいですね。癒やされます」

「リュリュ!」

「おい、調子に乗るなよ」

 そう言いながら、ライトも笑っていた。

(……こうして少しずつ強くなって、ミリュウも育っていくんだな)

 胸の奥で、小さな決意が固まる。

(今度こそ、誰にも置いていかれない)

 その想いが静かに灯るように、ミリュウが胸元で「ミュー」と鳴いた。

 ライトはその頭を優しく撫でた。
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