追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第26話

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 ギルドを出たあと、ライトはしばらく街の石畳を歩き続けていた。
 日差しは穏やかで、街路には露店の呼び声が響いている。
 肩の上のミリュウは、揺れるたびに小さな翼をぱたぱたと動かし、気分良さそうに「ミリュ」と鳴いた。

 だが、ライトの意識は別のところにあった。

(本当に……俺、《成長》なんてスキルを扱いきれるのか?)

 初めて得た“成長を底上げする力”。

 嬉しさよりも、少しだけ胸がざわつく。

(《超記録》だけでも十分すぎる能力だったのに。これ以上の力が俺に必要かって言われたら……)

 視線を落とすと、ミリュウがライトの頬をつついてきた。

「リュリュ?」

「……心配してくれてるのか?」

 ミリュウはこくんと頷くように身体を揺らした。

 その仕草だけで、胸の奥の不安が少し薄くなった。

「……大丈夫だ。やってみるよ」

 ミリュウは満足げに「ミュー」と鳴く。

 ライトは息を整え、今日受ける予定の軽い依頼の確認をするため、改めてギルド前の掲示板へ向かった。

 そこには、初心者向けの依頼がいくつか並んでいる。

(今日は力を試すのが目的だし……無理はしないほうがいい)

 そう考えながら視線を走らせると、ひとつの依頼が目に留まった。

『街外れの草地に出没するスラッグウルフの討伐。
 危険度:低』

(スラッグウルフか……。動きは鈍いし、今の俺でも十分対処できる相手だ)

 それでいて、魔力の動きやスキルの成長速度を確認するにはちょうどいい。

 依頼書を剥がして受付へ向かうと、ミィナがすぐに気づいて顔を上げた。

「ライトさん、依頼決まりましたか?」

「はい。これをお願いします」

「確認しますね。……あ、スラッグウルフ討伐。これなら危険も少ないですし、ちょうどよさそうですね!」

「はい。今日はスキルの動作確認も兼ねてるので」

 ミィナは安心したように微笑んだ。

「よかった……。新しいスキルって、時々暴走したりすることもあるって聞きますし。ライトさんのスキルは大丈夫だと思いますけど、気をつけてくださいね」

「ありがとうございます。気をつけます」

 ミリュウがミィナに向かって「ミリュ!」と元気よく鳴くと、ミィナは両手を胸の前でぎゅっと握った。

「今日も元気ですね、ミリュウちゃん!」

 ライトは少し照れながらも頭を下げた。

「行ってきます」

「はい!戻ってきたらお話聞かせてくださいね!」

 ギルドを出て街道へ向かう道すがら、ライトは肩のミリュウをちらりと見る。

「ミリュウ。今日は一緒にやってみような」

「ミュー!」

 返事をするように、ミリュウは小さく翼を広げて風に揺れた。

 街を抜け、草地に差し掛かると、風の匂いが変わった。

 土と草の混じる香り。

 スラッグウルフがよくいると噂される場所だ。

(依頼内容には“二体ほど出没”と書いてあったな)

 草を踏み分けながら進んでいると──

「ミリュ!」

 ミリュウが急に鳴いて、草の上へ飛び降りた。

「どうした?」

 警戒するように低く身を構え、ライトは草をかき分ける。

 そのとき──

 黒い塊が勢いよく飛びかかってきた。

「来たか!」

 牙をむいたスラッグウルフ。粘つく体毛がまとわりつくように揺れ、重たい爪が迫ってくる。

 ライトは反射的に剣を抜いた。

「記録補助、頼む!」

《敵性魔獣の動きを記録済み。補助を開始します》

 視界が一瞬鮮明になり、スラッグウルフの動きが線のように見えた。

(来る……っ)

 ライトは足を半歩ずらし、そのまま横に流すように身体をひねり──

「はっ!」

 刃の軌道が自然と最適化されるように走った。

 手応えがある。

 スラッグウルフが大きく悲鳴をあげ、地面に転がった。

(……今の、早かったな)

 魔力の循環が明らかに違う。

 勢いが途切れないまま、もう一体が草の奥から飛び出してきた。

「ミリュ!」

 ミリュウがライトの横で翼を広げ、小さく火花のような光を散らす。

 ライトはその様子に気づき、わずかに驚く。

「ミリュウ……お前もやる気か?」

「リュリュ!」

 小さく前へ出たミリュウの身体が赤く光り──

(これ……魔力を渡してきてる?)

 身体が熱くなり、視界がさらに研ぎ澄まされる。

(これが……同期……?)

 迫りくるスラッグウルフの爪が見える。風を裂く音すら、ゆっくり聞こえるようだった。

 ライトは剣を構え──

「いける……!」

 足元から爆発的な加速。

 踏み込みは自然と最適化され、身体が勝手に理想の軌道を描く。

 斬撃が一閃し、スラッグウルフの動きが止まった。

 そのまま地面に倒れ伏す。

「……終わった、のか?」

「ミリュ!」

 ミリュウは満足げに鳴き、ライトの肩に戻ってくる。

 ライトは剣を納め、深く息を吐いた。

(《成長》と……ミリュウとの同期。これだけ違うものなのか)

 まるで、ずっと使ってきた剣が急に別物になったような感覚。

 筋力ではなく、魔力の流れが変わることで、こんなにも動きが変わるとは思っていなかった。

「……すごいな、ミリュウ」

「リュリュ!」

 自慢げに胸を張る姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。

 ふと視界に小さな文字が浮かんだ。

《スキル《斬撃強化》の熟練度が急上昇しています》
《スキルレベルが上がりました》

「えっ……もう?」

《《成長》が作用しています》

(こんなに早く……)

 あまりの速度に、胸が高鳴る。

(これなら……俺でも、やれるのかもしれない)

 力がほしい理由は昔からあった。
 誰かを守れるほど強くなりたいと思ったこともある。

 でも、現実はいつも遠かった。

 そんな自分が──
 初めて“前に進める気がする”。

「ありがとう、ミリュウ。お前と一緒なら……きっと強くなれる」

「ミュー!」

 ミリュウが嬉しそうに頬へすり寄る。

 ただそれだけの仕草で、胸が熱くなる。

(守らなきゃ……この子は俺が守るんだ)

 その瞬間、心にひとつの決意が生まれた。

 ライトはスラッグウルフの討伐証を回収し、街へ向かって歩き始めた。

 帰り道、肩のミリュウが静かに「リュリュ……」と鳴いた。

 それはまるで、

“まだまだ行けるよ”

 と言っているようだった。

(……ああ。まだ始まったばかりだ)

 ライトは小さく笑い、空を見上げた。

 青空は広く、未来のどこまでも続いているように見えた。
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