追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第27話

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 ギルドへ向かう道すがら、ライトは歩きながら自分の身体の感覚を何度も確かめていた。

 筋肉が張っているわけでも、極端に疲れているわけでもない。だが、剣を振ったときの感触や踏み込みの安定感が、昨日までとは明らかに違っている。

(……慣れてきた、ってだけじゃないな)

 成長。

 その言葉が、頭の中で静かに形を持ち始めていた。

 肩に乗ったミリュウが、風に揺られながら小さく鳴く。

「ミリュ」

「分かってる。お前も感じてるんだろ」

 ミリュウは返事をするように「リュリュ」と喉を鳴らした。

 スラッグウルフとの戦いは短かった。それでも、剣を振るたびに身体が覚えていく感覚があった。無理に力を入れなくても、自然と正しい動きが選ばれる。

 それが、《成長》の効果なのだと、今ははっきり分かる。

(努力が、ちゃんと積み重なっていく)

 それは、ライトがずっと欲しかったものだった。

 才能ではなく、奇跡でもなく。

 積み重ねた分だけ、前に進めるという実感。

 ギルドの建物が見えてくると、自然と足取りが軽くなる。討伐証を提出し、報告を済ませるだけのはずなのに、胸の奥に小さな期待が生まれていた。

 扉を開けると、いつもの喧騒が迎えてくれる。

 ミィナはすぐにライトに気づき、笑顔で手を振った。

「ライトさん、おかえりなさい」

「ただいま戻りました。討伐、完了しています」

「早かったですね。何事もなく?」

「はい。問題ありませんでした」

 淡々と答えながら、ライトは討伐証を差し出す。

 ミィナは確認しながら、ふとミリュウに視線を向けた。

「ミリュウちゃん、今日も一緒だったんですね」

「はい。……邪魔にはなっていません」

「そんなことないですよ。むしろ、すごく落ち着いて見えます」

 その言葉に、ライトは一瞬だけ言葉に詰まった。

 落ち着いて見える。

 以前なら、そんな評価を受けることはなかった。

「ありがとうございます」

 短く答えると、ミィナは少しだけ声を落とした。

「実は……ギルドマスターが、戻ったら声をかけるようにと」

「グランさんが?」

「はい。急ぎではないそうですが」

「分かりました。今、行きます」

 ギルドマスター室の前で、ライトは一度だけ深呼吸をした。

 ノックをすると、すぐに返事が返ってくる。

「入れ」

 中に入ると、グランは書類から顔を上げ、ライトを一瞥したあと、ミリュウに目を向けた。

「……なるほど。落ち着いているな」

「分かるんですか?」

「魔力の流れが安定している。昨日より、さらにだ」

 グランは椅子から立ち上がり、ライトの前に立つ。

「今日、戦ったな」

「はい。軽い討伐を一件」

「感触はどうだった?」

 少し考えてから、ライトは正直に答えた。

「……自分でも、驚くくらい動きやすかったです。無理をしている感じがありませんでした」

 グランは静かにうなずく。

「それが《成長》だ。即効性のある力じゃないが、積み上げたものを裏切らない」

 ライトは拳を軽く握った。

「俺は……まだ強くなれますか」

「なれるかどうかじゃない。すでに、なっている」

 その言葉は、重くもあり、温かくもあった。

「ただし」

 グランの声が少し低くなる。

「目立ち始めるということでもある。お前の戦い方、魔力の質、そして……その竜」

 ミリュウが「ミュー」と小さく鳴く。

「狙う者は必ず出てくる」

「……はい」

「だからこそ、無茶はするな。力に振り回されるな。成長とは、制御でもある」

「分かりました」

 グランはそれ以上何も言わず、書類に視線を戻した。

「今日はそれだけだ。下がれ」

「ありがとうございました」

 部屋を出た瞬間、張りつめていたものがふっと緩む。

 廊下を歩きながら、ライトは小さく息を吐いた。

(認められた、って思っていいのかな)

 自惚れではない。

 だが、確実に前に進んでいる。

 ギルドを出ると、夕方の光が街を包んでいた。

 宿へ向かう途中、ミリュウが急に肩から飛び降り、地面に着地する。

「どうした?」

 ミリュウはくるりと振り返り、ライトを見上げた。

「ミリュ!」

 まるで、ついてこいと言っているようだった。

 少し迷ってから、ライトは後を追う。

 街外れの空き地。

 人の気配はなく、風だけが草を揺らしている。

 ミリュウは中央に立ち、小さく翼を広げた。

「練習、か?」

「リュリュ」

 ライトは剣を抜かず、ただ構えだけを取る。

「じゃあ……軽くだ」

 ミリュウが小さな火花のような魔力を放つ。

 その瞬間、ライトの身体が自然と反応した。

 避ける。踏み込む。距離を詰める。

 剣を振らなくても、動きが整っている。

(これが……積み重なった結果)

 ミリュウは満足そうに頷き、ライトの肩へ戻る。

「ありがとう」

「ミュー」

 短いやり取り。

 だが、そこには確かな信頼があった。

 宿に戻り、ベッドに腰を下ろす。

 ミリュウは丸くなり、ライトの膝の上で目を閉じた。

(守るものができた)

 それは重荷ではない。

 前に進む理由だ。

 ライトは静かに目を閉じる。

 明日も、きっと強くなれる。

 そう確信しながら、夜の静けさに身を委ねた。
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