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第28話
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朝の空気は、前日までよりもわずかに張りつめて感じられた。
ライトは宿を出るとき、無意識に背筋を伸ばしていた。身体の内側に残る感覚が、昨日までとは確かに違う。剣を握ったときの安定感、足裏から地面を捉える感触。そのすべてが、ほんの少しずつだが確実に洗練されている。
(これが……《成長》か)
劇的な変化ではない。力が爆発的に増えたわけでも、世界が違って見えるわけでもない。
だが、確実に「昨日の自分」とは違う。
肩に乗ったミリュウが、朝の風を受けて小さく鳴いた。
「ミリュ」
「分かってる。今日も静かだな」
ミリュウは満足そうに喉を鳴らし、ライトの首元に体を寄せる。真紅の鱗は朝日を受けて柔らかく輝き、以前よりも体温が安定しているように感じられた。
ギルドへ向かう道すがら、周囲の気配に自然と意識が向く。通りを歩く人々、遠くの足音、空気の流れ。すべてが以前より少しだけ分かりやすい。
(見えてる……というより、拾えてる、か)
《超記録》が、意識せずとも情報を整理している感覚だった。
ギルドに入ると、朝の喧騒が一斉に耳に飛び込んでくる。依頼板の前では冒険者たちが集まり、酒場スペースでは早くも軽口が飛び交っていた。
受付に立つミィナがライトに気づき、すぐに姿勢を正す。
「ライトさん、おはようございます」
「おはようございます。昨日の件で、報告を」
「はい。ギルドマスターからも、後で声をかけるよう言われています」
「分かりました」
依頼の提出を終えると、ミィナは書類をまとめながら、ちらりとライトの肩を見る。
「……その子、落ち着いていますね」
「はい。今のところ、問題はなさそうです」
ミリュウが小さく首を動かし、
「ミュー」
と鳴くと、ミィナは思わず微笑んだ。
「本当に、不思議な存在ですね」
「そうですね」
言葉を選びながら答える。まだ説明できないことが多すぎる。それでも、隠す必要のある不安は、以前より少なくなっていた。
ギルドマスター室に呼ばれ、簡単な経過報告を済ませたあと、ライトは新しい依頼書を受け取った。
内容は単純だ。街道沿いに現れ始めた小型魔獣の調査と排除。だが、備考欄には短い一文が添えられていた。
行動が統一されすぎている。
(また、か)
森の異変といい、最近の魔獣たちはどこか不自然だ。個体差では説明できない、揃いすぎた動き。
街を出ると、空気が変わるのを肌で感じた。風がわずかに重く、地面の湿り気が増している。
ほどなくして、魔獣の気配を捉えた。
(来る)
ライトは剣を抜く。ミリュウは肩から跳び、地面に降りた。
「ここだ。離れるなよ」
「ミリュ」
現れたのは二体の魔獣。大きさも動きも平凡だが、間合いに入る動きが妙に揃っている。
最初の一体が跳びかかってきた瞬間、視界の端に情報が流れた。
《斬撃軌道を最適化》
意識するより早く、身体が動く。
剣を振り抜いた感触が、これまでとは違った。無駄がない。力を込めていないのに、刃が深く通る。
(……強くなってる)
もう一体が横から迫る。踏み込み、回避、反撃。すべてが滑らかにつながる。
短い戦闘だった。
息を整えながら、ライトは自分の手を見つめる。
(使った分だけ、積み上がっていく)
それが才能ではなく、積み重ねによるものだと分かるのが、何よりも嬉しかった。
ミリュウが近づき、尻尾を揺らす。
「リュリュ」
「大丈夫だ。問題ない」
そのとき、風向きが変わった。
遠くで、明らかに違う気配が動く。
(……これは)
魔獣とは違う。だが、人でもない。
《超記録》が警告を発する前に、その気配は引いていった。
嫌な予感だけが、胸の奥に残る。
(近いうちに……何か起きる)
ライトは剣を収め、街道を見据えた。
成長は始まったばかりだ。
だが、待ってはくれない。
世界のほうが、先に動き始めていた。
ライトは宿を出るとき、無意識に背筋を伸ばしていた。身体の内側に残る感覚が、昨日までとは確かに違う。剣を握ったときの安定感、足裏から地面を捉える感触。そのすべてが、ほんの少しずつだが確実に洗練されている。
(これが……《成長》か)
劇的な変化ではない。力が爆発的に増えたわけでも、世界が違って見えるわけでもない。
だが、確実に「昨日の自分」とは違う。
肩に乗ったミリュウが、朝の風を受けて小さく鳴いた。
「ミリュ」
「分かってる。今日も静かだな」
ミリュウは満足そうに喉を鳴らし、ライトの首元に体を寄せる。真紅の鱗は朝日を受けて柔らかく輝き、以前よりも体温が安定しているように感じられた。
ギルドへ向かう道すがら、周囲の気配に自然と意識が向く。通りを歩く人々、遠くの足音、空気の流れ。すべてが以前より少しだけ分かりやすい。
(見えてる……というより、拾えてる、か)
《超記録》が、意識せずとも情報を整理している感覚だった。
ギルドに入ると、朝の喧騒が一斉に耳に飛び込んでくる。依頼板の前では冒険者たちが集まり、酒場スペースでは早くも軽口が飛び交っていた。
受付に立つミィナがライトに気づき、すぐに姿勢を正す。
「ライトさん、おはようございます」
「おはようございます。昨日の件で、報告を」
「はい。ギルドマスターからも、後で声をかけるよう言われています」
「分かりました」
依頼の提出を終えると、ミィナは書類をまとめながら、ちらりとライトの肩を見る。
「……その子、落ち着いていますね」
「はい。今のところ、問題はなさそうです」
ミリュウが小さく首を動かし、
「ミュー」
と鳴くと、ミィナは思わず微笑んだ。
「本当に、不思議な存在ですね」
「そうですね」
言葉を選びながら答える。まだ説明できないことが多すぎる。それでも、隠す必要のある不安は、以前より少なくなっていた。
ギルドマスター室に呼ばれ、簡単な経過報告を済ませたあと、ライトは新しい依頼書を受け取った。
内容は単純だ。街道沿いに現れ始めた小型魔獣の調査と排除。だが、備考欄には短い一文が添えられていた。
行動が統一されすぎている。
(また、か)
森の異変といい、最近の魔獣たちはどこか不自然だ。個体差では説明できない、揃いすぎた動き。
街を出ると、空気が変わるのを肌で感じた。風がわずかに重く、地面の湿り気が増している。
ほどなくして、魔獣の気配を捉えた。
(来る)
ライトは剣を抜く。ミリュウは肩から跳び、地面に降りた。
「ここだ。離れるなよ」
「ミリュ」
現れたのは二体の魔獣。大きさも動きも平凡だが、間合いに入る動きが妙に揃っている。
最初の一体が跳びかかってきた瞬間、視界の端に情報が流れた。
《斬撃軌道を最適化》
意識するより早く、身体が動く。
剣を振り抜いた感触が、これまでとは違った。無駄がない。力を込めていないのに、刃が深く通る。
(……強くなってる)
もう一体が横から迫る。踏み込み、回避、反撃。すべてが滑らかにつながる。
短い戦闘だった。
息を整えながら、ライトは自分の手を見つめる。
(使った分だけ、積み上がっていく)
それが才能ではなく、積み重ねによるものだと分かるのが、何よりも嬉しかった。
ミリュウが近づき、尻尾を揺らす。
「リュリュ」
「大丈夫だ。問題ない」
そのとき、風向きが変わった。
遠くで、明らかに違う気配が動く。
(……これは)
魔獣とは違う。だが、人でもない。
《超記録》が警告を発する前に、その気配は引いていった。
嫌な予感だけが、胸の奥に残る。
(近いうちに……何か起きる)
ライトは剣を収め、街道を見据えた。
成長は始まったばかりだ。
だが、待ってはくれない。
世界のほうが、先に動き始めていた。
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