追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第29話

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 朝の空気は澄んでいて、少しだけ冷たかった。
 宿を出たライトは、肩に乗ったミリュウの様子を確かめるように、ゆっくりと歩き出す。

「ミリュ」

「大丈夫だ。今日は街の近くだし、無理はしない」

 ミリュウは安心したように小さく鳴き、ライトの肩に体を寄せた。
 ここ数日で、ミリュウはほんのわずかだが成長している。体つきも、鳴き声も、確かに変わり始めていた。

 それと同時に、ライト自身の感覚も変わっている。

(……昨日より、動きが軽い)

 剣を腰に下げて歩くだけで分かる。
 踏み込みの重心、呼吸の間、視界の捉え方。
 意識しなくても、身体が自然と最適な形を選んでいる。

 《成長》のスキルが、確実に働いている実感だった。

 ギルドに入ると、朝の喧騒が広がっていた。
 依頼を選ぶ冒険者、報告を終えた者、装備の相談をする声。
 いつもと変わらない光景だが、今日は少し空気が違う。

 ざわめきの中心に、妙な緊張が混じっている。

「……聞いたか?」

「本当らしいぞ。かなり大きな依頼だって」

 そんな囁きが、あちこちから漏れていた。

 ライトは受付に向かい、ミィナに軽く頭を下げる。

「おはようございます」

「ライトさん、おはようございます。今日も調子良さそうですね」

「はい。おかげさまで」

 ミィナはミリュウに視線を向け、柔らかく微笑んだ。

「ミリュウちゃんも元気そうですね」

「はい。」

 言葉を交わしていると、背後から大きな声が響いた。

「……道を開けろ」

 低く、迷いのない声だった。

 ギルドの入口付近が、わずかにざわつく。
 冒険者たちが無意識のうちに道を譲り、視線を向けていた。

 ライトは振り返らない。
 だが、空気の変化だけで分かってしまった。

(……ああ)

 胸の奥が、わずかに冷える。

 足音は複数。
 揃っていて、迷いがなく、慣れている。

 その一団が通り過ぎる瞬間、視界の端に映ったのは、見覚えのある背中だった。

 重い盾を背負った、大柄な男。
 弓を携え、無駄のない動きで周囲を見渡す女性。
 淡く光を纏う魔力の気配。

 そして、先頭を歩く青年。

(……変わってないな)

 ミィナが、少しだけ声を落とす。

「今の方たち……」

「有名な方たち、ですよね」

「はい。かなり大きな討伐依頼を受けたみたいです。危険度も高いって……」

 ライトは静かにうなずいた。

「そうですか」

 それ以上、何も言わなかった。
 言う必要がなかった。

 かつて、同じ場所に立っていたこと。
 同じ背中を見ていたこと。
 そして、あの場所に自分がいなかったこと。

 それらはもう、胸をかき乱すものではなかった。

 むしろ、はっきりと分かる。

(俺は、もうあそこには戻らない)

 ミリュウが、ライトの肩で小さく鳴いた。

「ミュー」

「……大丈夫だ」

 言葉は、自分自身に向けたものだった。

 ミィナが、少し心配そうに尋ねる。

「ライトさん……大丈夫ですか?」

「はい。問題ありません」

 本当だった。

 受付で依頼を受け取り、ライトはギルドを後にする。
 背後で、再びざわめきが広がっていく。

 誰がどんな依頼を受けたのか。
 どれほど危険なのか。
 そんな話題が、自然と盛り上がっていく。

 だが、ライトの歩みは止まらなかった。

 外に出ると、朝の光がまぶしく感じられる。
 ミリュウが翼を小さく震わせ、楽しそうに鳴いた。

「ミリュ」

「行こうか。俺たちは俺たちのやることをやる」

 街道へ向かいながら、ライトは剣の柄に手を添えた。
 その感触は、確かに自分のものになっている。

(比べる必要はない)

 かつて置き去りにされた場所は、もう遠い。
 今は前を向くだけでいい。

 《超記録》は静かに情報を刻み続け、
 《成長》は、努力を確実に力へ変えていく。

 ライトは知らない。
 この先、再び彼らと交わる運命が待っていることを。

 だが、その時にはもう、立つ場所は同じではない。

 小さな竜と共に歩く背中は、迷いなく前へ進んでいた。
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