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第36話
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洞窟の空気が、わずかに変わった。
水滴の音に混じって、別の足音が重なる。ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる気配だった。
ライトは剣を下げないまま、周囲を見渡す。
正面の三人。
そして、奥から近づく新たな気配。
「……増援か」
黒い外套の男たちは、互いに視線を交わした。
「予定より早いな」
「構わん。囲め」
一人が短く指示を出す。
左右に散っていた二人が、じわじわと距離を詰めてくる。正面の男は動かない。ライトの動きを見極めている。
その足元で、ミリュウが小さく息を吸った。
「ミ……」
「まだだ」
ライトは低く言う。
剣の切っ先をわずかに下げ、重心を落とす。
先に動いたのは左だった。
低い姿勢から、一気に踏み込んでくる。刃は短いが、速さがある。
ライトは半歩引き、剣で受け流す。金属音が洞窟に響く。
その瞬間、右から投げナイフ。
かわしきれない。
判断は一瞬だった。
ライトは即座に左手を前へ突き出した。
「――ファイア」
掌から火が生まれ、短い炎となって一直線に放たれる。
《ファイアLv1》。
威力は高くない。だが、至近距離で放てば十分だった。
炎は投げナイフを包み込み、焼け落ちた刃が岩壁に弾かれて転がる。
ナイフは空中で弾かれ、岩壁に溶けるように落ちた。
「……っ!」
外套の男が、思わず足を止める。
火は大きくない。爆発もしない。ただ、確かに「通った」。
ライト自身も、内心で息をのんだ。
だが、驚いている暇はない。
正面の男が、低く舌打ちをした。
「魔法も使えるのか」
「聞いてないぞ」
「……いや、だからこそだ」
男の声が、少しだけ重くなる。
「こいつ、普通の冒険者じゃない」
ライトは踏み込んだ。
剣が、正面の男の懐へ入る。
相手は短剣で受けるが、衝撃で体勢が崩れた。
重い。
以前なら、押し返されていた。
だが今は違う。
踏ん張りが効く。刃がぶれない。
剣を弾き、すぐさま追撃。
外套の肩口が裂け、血がにじむ。
「ぐっ……!」
後方から、別の足音。
洞窟の奥から現れたのは、さらに二人。
装備は同じ。黒い外套。
だが、その一人が、ゆっくりと前に出た。
「ここまで、か」
落ち着いた声だった。
「噂以上だな。竜を連れて、単独でここまで来るとは」
ライトは剣を向ける。
「……お前たちは何者だ」
男は答えず、ミリュウを一瞥した。
「その竜……まだ幼体か。なるほど、狙われるわけだ」
ミリュウが、はっきりと唸る。
「ミリュ……!」
ライトは一歩、前に出てミリュウを背にかばった。
「近づくな」
男は、わずかに笑った。
「安心しろ。今ここで奪う気はない」
「……何?」
「力を測りに来ただけだ」
その言葉に、空気が張りつめる。
男は、部下たちに手を上げた。
「引くぞ」
「ですが――」
「十分だ」
黒い外套の男たちは、素早く後退する。
洞窟の闇に溶けるように、姿が消えていった。
残されたのは、荒い息と、焦げた岩の匂いだけ。
ライトはしばらく剣を下ろさなかった。
完全に気配が消えたのを確認してから、ようやく肩の力を抜く。
「……測る、だと」
ミリュウが、胸元で小さく鳴いた。
「ミュ……」
「大丈夫だ。怪我はない」
自分に言い聞かせるように、そう言った。
だが、胸の奥に残る感覚は消えない。
あいつらは、偶然ここにいたわけじゃない。
最初から、自分を追ってきた。
洞窟のさらに奥で、水音が大きくなった。
まだ、この先がある。
ライトは剣を握り直し、暗闇の先を見据える。
「……行こう。ここで止まるわけにはいかない」
ミリュウが、力強く鳴いた。
「ミリュ!」
二つの影は、再び洞窟の奥へと足を進めた。
水滴の音に混じって、別の足音が重なる。ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる気配だった。
ライトは剣を下げないまま、周囲を見渡す。
正面の三人。
そして、奥から近づく新たな気配。
「……増援か」
黒い外套の男たちは、互いに視線を交わした。
「予定より早いな」
「構わん。囲め」
一人が短く指示を出す。
左右に散っていた二人が、じわじわと距離を詰めてくる。正面の男は動かない。ライトの動きを見極めている。
その足元で、ミリュウが小さく息を吸った。
「ミ……」
「まだだ」
ライトは低く言う。
剣の切っ先をわずかに下げ、重心を落とす。
先に動いたのは左だった。
低い姿勢から、一気に踏み込んでくる。刃は短いが、速さがある。
ライトは半歩引き、剣で受け流す。金属音が洞窟に響く。
その瞬間、右から投げナイフ。
かわしきれない。
判断は一瞬だった。
ライトは即座に左手を前へ突き出した。
「――ファイア」
掌から火が生まれ、短い炎となって一直線に放たれる。
《ファイアLv1》。
威力は高くない。だが、至近距離で放てば十分だった。
炎は投げナイフを包み込み、焼け落ちた刃が岩壁に弾かれて転がる。
ナイフは空中で弾かれ、岩壁に溶けるように落ちた。
「……っ!」
外套の男が、思わず足を止める。
火は大きくない。爆発もしない。ただ、確かに「通った」。
ライト自身も、内心で息をのんだ。
だが、驚いている暇はない。
正面の男が、低く舌打ちをした。
「魔法も使えるのか」
「聞いてないぞ」
「……いや、だからこそだ」
男の声が、少しだけ重くなる。
「こいつ、普通の冒険者じゃない」
ライトは踏み込んだ。
剣が、正面の男の懐へ入る。
相手は短剣で受けるが、衝撃で体勢が崩れた。
重い。
以前なら、押し返されていた。
だが今は違う。
踏ん張りが効く。刃がぶれない。
剣を弾き、すぐさま追撃。
外套の肩口が裂け、血がにじむ。
「ぐっ……!」
後方から、別の足音。
洞窟の奥から現れたのは、さらに二人。
装備は同じ。黒い外套。
だが、その一人が、ゆっくりと前に出た。
「ここまで、か」
落ち着いた声だった。
「噂以上だな。竜を連れて、単独でここまで来るとは」
ライトは剣を向ける。
「……お前たちは何者だ」
男は答えず、ミリュウを一瞥した。
「その竜……まだ幼体か。なるほど、狙われるわけだ」
ミリュウが、はっきりと唸る。
「ミリュ……!」
ライトは一歩、前に出てミリュウを背にかばった。
「近づくな」
男は、わずかに笑った。
「安心しろ。今ここで奪う気はない」
「……何?」
「力を測りに来ただけだ」
その言葉に、空気が張りつめる。
男は、部下たちに手を上げた。
「引くぞ」
「ですが――」
「十分だ」
黒い外套の男たちは、素早く後退する。
洞窟の闇に溶けるように、姿が消えていった。
残されたのは、荒い息と、焦げた岩の匂いだけ。
ライトはしばらく剣を下ろさなかった。
完全に気配が消えたのを確認してから、ようやく肩の力を抜く。
「……測る、だと」
ミリュウが、胸元で小さく鳴いた。
「ミュ……」
「大丈夫だ。怪我はない」
自分に言い聞かせるように、そう言った。
だが、胸の奥に残る感覚は消えない。
あいつらは、偶然ここにいたわけじゃない。
最初から、自分を追ってきた。
洞窟のさらに奥で、水音が大きくなった。
まだ、この先がある。
ライトは剣を握り直し、暗闇の先を見据える。
「……行こう。ここで止まるわけにはいかない」
ミリュウが、力強く鳴いた。
「ミリュ!」
二つの影は、再び洞窟の奥へと足を進めた。
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