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第41話
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訓練場を離れてしばらく歩いても、背中に残る視線の感覚は消えなかった。振り返れば、そこにはいつもの街並みと朝の喧騒があるだけだ。それでも、洞窟で感じたものと同じ種類の気配が、確かに混じっている。
「……やっぱり、来てるな」
「ミリュ?」
ミリュウが小さく鳴き、首を傾げる。警戒というより、気配を探っているような様子だった。
「問題ない。まだ、手は出してこない」
理由は単純だ。人通りが多い。訓練場の周辺は冒険者も一般人も入り混じる場所だ。下手に動けば、すぐに騒ぎになる。洞窟のようにはいかない。
ライトは歩調を落とさず、ギルド方面へ向かった。勇者パーティとの接触を、ミィナやグランに伝えておく必要がある。隠す理由はないし、隠せる段階でもない。
ギルドの扉を押し開けると、昼前の時間帯らしく中は賑わっていた。依頼を確認する冒険者、酒を煽る者、受付に並ぶ者。その喧騒の中で、ミィナはすぐにライトに気づいた。
「ライトさん」
声はいつも通り穏やかだったが、視線は真剣だ。ミリュウを見るなり、ほんの少しだけ表情が和らぐ。
「さっき、訓練場で……」
「会いました」
ライトは短く答えた。
「勇者パーティです」
ミィナは一瞬、言葉を探すように唇を噛み、それから小さく頷いた。
「……やっぱり。ギルドマスターも、気づいていました」
「今、いますか」
「はい。奥に」
二人でギルドマスター室へ向かう途中、何人かの冒険者が視線を向けてくるのを感じた。ミリュウの存在もあるが、それだけじゃない。訓練場での一件は、思っている以上に広がっている。
ノックをすると、すぐに低い声が返った。
「入れ」
扉を開けると、グランは机に地図を広げていた。ライトの姿を見るなり、視線を上げる。
「会ったか」
「はい」
余計な説明はいらなかった。
「カイル、アルシア、リデルの三人でした。忠告だけして帰りました」
「忠告、な」
グランは鼻で短く息を吐いた。
「連中らしい。正面からは動かんが、水面下では確実に手を打つ」
「俺は、どう動くべきですか」
グランはしばらく黙り、地図の一部を指で叩いた。
「今日の午後、街道沿いの集落から依頼が入っている。魔獣被害だ」
「魔獣?」
「ああ。ただし、報告が妙だ。数が合わん。動きも不自然だ」
洞窟での違和感が、頭をよぎる。
「俺が行くべきですか」
「行け」
即答だった。
「だが、単独ではない」
グランは視線を扉の方へ向ける。
「入れ」
次の瞬間、扉が開き、一人の少女が顔を出した。
「失礼します」
赤茶色の髪を後ろで束ねた、人間の魔導士だった。立ち姿に無駄がなく、視線の動きも鋭い。
「紹介しよう。リオナだ」
「リオナです」
軽く頭を下げ、ミリュウを見る。
「……竜、ですね」
「ミリュ」
「噂通り」
グランが続ける。
「今回の依頼、ライトと組んでもらう。魔導士が必要だ」
「了解です」
街を出たのは正午過ぎだった。
集落に近づくにつれ、焦げた匂いが風に混じる。
「……火だ」
リオナが呟く。
草むらが揺れ、灰色の獣が飛び出した。
「来るぞ」
「斬撃強化(中)」
ライトの剣が横一文字に走り、魔獣を切り裂く。
リオナが杖を掲げる。
「フレイムボール」
火球が放たれ、別の個体を焼き払った。
「普通の魔獣じゃないわね」
「操られてる可能性が高い」
最後の一体を仕留め、静寂が戻る。
だが――
集落の奥から、重い足音と金属音が響いてきた。
「……本命は、こっちか」
ライトは剣を握り直し、ミリュウを肩に乗せる。
「行くぞ」
「ミリュ!」
戦いは、まだ始まったばかりだった。
「……やっぱり、来てるな」
「ミリュ?」
ミリュウが小さく鳴き、首を傾げる。警戒というより、気配を探っているような様子だった。
「問題ない。まだ、手は出してこない」
理由は単純だ。人通りが多い。訓練場の周辺は冒険者も一般人も入り混じる場所だ。下手に動けば、すぐに騒ぎになる。洞窟のようにはいかない。
ライトは歩調を落とさず、ギルド方面へ向かった。勇者パーティとの接触を、ミィナやグランに伝えておく必要がある。隠す理由はないし、隠せる段階でもない。
ギルドの扉を押し開けると、昼前の時間帯らしく中は賑わっていた。依頼を確認する冒険者、酒を煽る者、受付に並ぶ者。その喧騒の中で、ミィナはすぐにライトに気づいた。
「ライトさん」
声はいつも通り穏やかだったが、視線は真剣だ。ミリュウを見るなり、ほんの少しだけ表情が和らぐ。
「さっき、訓練場で……」
「会いました」
ライトは短く答えた。
「勇者パーティです」
ミィナは一瞬、言葉を探すように唇を噛み、それから小さく頷いた。
「……やっぱり。ギルドマスターも、気づいていました」
「今、いますか」
「はい。奥に」
二人でギルドマスター室へ向かう途中、何人かの冒険者が視線を向けてくるのを感じた。ミリュウの存在もあるが、それだけじゃない。訓練場での一件は、思っている以上に広がっている。
ノックをすると、すぐに低い声が返った。
「入れ」
扉を開けると、グランは机に地図を広げていた。ライトの姿を見るなり、視線を上げる。
「会ったか」
「はい」
余計な説明はいらなかった。
「カイル、アルシア、リデルの三人でした。忠告だけして帰りました」
「忠告、な」
グランは鼻で短く息を吐いた。
「連中らしい。正面からは動かんが、水面下では確実に手を打つ」
「俺は、どう動くべきですか」
グランはしばらく黙り、地図の一部を指で叩いた。
「今日の午後、街道沿いの集落から依頼が入っている。魔獣被害だ」
「魔獣?」
「ああ。ただし、報告が妙だ。数が合わん。動きも不自然だ」
洞窟での違和感が、頭をよぎる。
「俺が行くべきですか」
「行け」
即答だった。
「だが、単独ではない」
グランは視線を扉の方へ向ける。
「入れ」
次の瞬間、扉が開き、一人の少女が顔を出した。
「失礼します」
赤茶色の髪を後ろで束ねた、人間の魔導士だった。立ち姿に無駄がなく、視線の動きも鋭い。
「紹介しよう。リオナだ」
「リオナです」
軽く頭を下げ、ミリュウを見る。
「……竜、ですね」
「ミリュ」
「噂通り」
グランが続ける。
「今回の依頼、ライトと組んでもらう。魔導士が必要だ」
「了解です」
街を出たのは正午過ぎだった。
集落に近づくにつれ、焦げた匂いが風に混じる。
「……火だ」
リオナが呟く。
草むらが揺れ、灰色の獣が飛び出した。
「来るぞ」
「斬撃強化(中)」
ライトの剣が横一文字に走り、魔獣を切り裂く。
リオナが杖を掲げる。
「フレイムボール」
火球が放たれ、別の個体を焼き払った。
「普通の魔獣じゃないわね」
「操られてる可能性が高い」
最後の一体を仕留め、静寂が戻る。
だが――
集落の奥から、重い足音と金属音が響いてきた。
「……本命は、こっちか」
ライトは剣を握り直し、ミリュウを肩に乗せる。
「行くぞ」
「ミリュ!」
戦いは、まだ始まったばかりだった。
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