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第40話
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街外れの訓練場は、朝から妙にざわついていた。
木製の標的が並ぶ簡易施設。普段は新人や軽い調整目的の冒険者しか使わない場所だが、今日は視線の集まり方が違う。
理由は分かりきっている。
ライトの肩に乗ったミリュウだった。
「……やっぱり目立つな」
「ミリュ?」
「いや、気にするな」
隠すつもりはなかった。
むしろ、どこまで知られているのかを確かめたかった。
木剣を手に取り、中央へ進む。
周囲の冒険者たちが、無言で距離を取る。
剣を構え、ゆっくり振る。
一振り。
二振り。
力は込めすぎない。だが、甘くもしない。
(……昨日より、動きが軽い)
意識していないのに、身体が自然と最適な動きを選んでいる。
軸がぶれず、踏み込みが安定しているのが自分でも分かった。
ミリュウが、じっと剣の動きを見つめていた。
「ミリュ……」
「大丈夫だ。落ち着いてろ」
その瞬間だった。
背後から、はっきりとした足音が近づいてくる。
複数。鎧の擦れる音。
ライトは剣を下ろし、振り返った。
そこに立っていたのは、見覚えのありすぎる顔だった。
先頭に立つ青年。
迷いのない足取りと、変わらない雰囲気。
勇者カイル。
その後ろに、アルシアとリデルが並んでいる。
グロウの姿だけが、ない。
カイルはライトを見て、短く息を吐いた。
「……生きてたか、ライト」
胸の奥が、わずかに冷えた。
「見ての通りだ」
淡々と答える。
アルシアが、ミリュウに視線を向けた。
「それが、噂の竜か」
「ミリュ」
ミリュウが短く鳴く。
威嚇ではないが、警戒は隠していない。
リデルが一歩前に出る。
「洞窟で騒ぎがあったって聞いた。お前が関わってるらしいな」
「襲われただけだ」
即答だった。
「仕掛けてきたのは人間だ」
空気が、わずかに張りつめる。
カイルは表情を変えずに言った。
「知ってる。だから来た」
「調査か?」
「ああ」
アルシアが肩をすくめる。
「この街の周辺、妙な動きが多いのよ。魔獣も、人も」
ライトは一歩も引かなかった。
「俺はここで暮らしてる」
「分かってる」
カイルの視線が、真っ直ぐに刺さる。
「だから忠告だ。余計なことに首を突っ込むな」
余計なこと。
その言葉に、胸の奥が静かに揺れた。
「それは俺が決める」
声は低く、落ち着いていた。
リデルが、ほんの少しだけ目を細める。
「前より、目が変わったな」
「そうかもな」
否定もしない。
カイルは数秒、黙ってから口を開いた。
「その竜は危険だ」
「危険なのは竜じゃない」
自然と、言葉が出た。
「狙ってる連中の方だ」
一瞬、カイルの目が鋭くなる。
「……いい目をしてる」
そう言って、踵を返した。
「忠告はした。あとはお前次第だ」
アルシアとリデルも、それに続く。
三人の背中が遠ざかる。
ミリュウが小さく鳴いた。
「ミリュ……」
「大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように呟く。
だが、確信していた。
勇者パーティは、もう動いている。
そして――自分も、無関係ではいられない。
訓練場の外で、視線を感じた。
建物の影。
誰かが、こちらを見ている。
振り返った瞬間、その気配は消えた。
(……監視されてる)
勇者だけじゃない。
洞窟の外套の連中とも、別の線が動いている。
ライトは剣を鞘に収め、ミリュウを肩に乗せ直した。
「行くぞ」
「ミリュ」
選ばされる前に、選ぶ。
その覚悟だけは、もう固まっていた。
木製の標的が並ぶ簡易施設。普段は新人や軽い調整目的の冒険者しか使わない場所だが、今日は視線の集まり方が違う。
理由は分かりきっている。
ライトの肩に乗ったミリュウだった。
「……やっぱり目立つな」
「ミリュ?」
「いや、気にするな」
隠すつもりはなかった。
むしろ、どこまで知られているのかを確かめたかった。
木剣を手に取り、中央へ進む。
周囲の冒険者たちが、無言で距離を取る。
剣を構え、ゆっくり振る。
一振り。
二振り。
力は込めすぎない。だが、甘くもしない。
(……昨日より、動きが軽い)
意識していないのに、身体が自然と最適な動きを選んでいる。
軸がぶれず、踏み込みが安定しているのが自分でも分かった。
ミリュウが、じっと剣の動きを見つめていた。
「ミリュ……」
「大丈夫だ。落ち着いてろ」
その瞬間だった。
背後から、はっきりとした足音が近づいてくる。
複数。鎧の擦れる音。
ライトは剣を下ろし、振り返った。
そこに立っていたのは、見覚えのありすぎる顔だった。
先頭に立つ青年。
迷いのない足取りと、変わらない雰囲気。
勇者カイル。
その後ろに、アルシアとリデルが並んでいる。
グロウの姿だけが、ない。
カイルはライトを見て、短く息を吐いた。
「……生きてたか、ライト」
胸の奥が、わずかに冷えた。
「見ての通りだ」
淡々と答える。
アルシアが、ミリュウに視線を向けた。
「それが、噂の竜か」
「ミリュ」
ミリュウが短く鳴く。
威嚇ではないが、警戒は隠していない。
リデルが一歩前に出る。
「洞窟で騒ぎがあったって聞いた。お前が関わってるらしいな」
「襲われただけだ」
即答だった。
「仕掛けてきたのは人間だ」
空気が、わずかに張りつめる。
カイルは表情を変えずに言った。
「知ってる。だから来た」
「調査か?」
「ああ」
アルシアが肩をすくめる。
「この街の周辺、妙な動きが多いのよ。魔獣も、人も」
ライトは一歩も引かなかった。
「俺はここで暮らしてる」
「分かってる」
カイルの視線が、真っ直ぐに刺さる。
「だから忠告だ。余計なことに首を突っ込むな」
余計なこと。
その言葉に、胸の奥が静かに揺れた。
「それは俺が決める」
声は低く、落ち着いていた。
リデルが、ほんの少しだけ目を細める。
「前より、目が変わったな」
「そうかもな」
否定もしない。
カイルは数秒、黙ってから口を開いた。
「その竜は危険だ」
「危険なのは竜じゃない」
自然と、言葉が出た。
「狙ってる連中の方だ」
一瞬、カイルの目が鋭くなる。
「……いい目をしてる」
そう言って、踵を返した。
「忠告はした。あとはお前次第だ」
アルシアとリデルも、それに続く。
三人の背中が遠ざかる。
ミリュウが小さく鳴いた。
「ミリュ……」
「大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように呟く。
だが、確信していた。
勇者パーティは、もう動いている。
そして――自分も、無関係ではいられない。
訓練場の外で、視線を感じた。
建物の影。
誰かが、こちらを見ている。
振り返った瞬間、その気配は消えた。
(……監視されてる)
勇者だけじゃない。
洞窟の外套の連中とも、別の線が動いている。
ライトは剣を鞘に収め、ミリュウを肩に乗せ直した。
「行くぞ」
「ミリュ」
選ばされる前に、選ぶ。
その覚悟だけは、もう固まっていた。
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