追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第39話

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 朝の光は、思ったよりも早く宿の部屋に差し込んできた。

 カーテン越しの淡い光に、ライトはゆっくりと目を開ける。
 一瞬、自分がどこにいるのかを確かめるように天井を見上げ、それから昨夜の出来事が順に頭の中へ戻ってきた。

 洞窟での襲撃。
 外套の集団。
 ギルドマスターの言葉。
 そして、勇者パーティという名前。

「……朝か」

 短く呟き、身体を起こす。
 疲労は残っているが、重くはない。むしろ、神経だけが妙に冴えていた。

 胸元が、わずかに動いた。

「ミリュ?」

 布の隙間から顔を出したミリュウが、小さく目を瞬かせる。

「ミリュ」

 いつもより少し、はっきりした鳴き声だった。

「起きてたのか」

 指を差し出すと、ミリュウは当然のようにその先へ頭を寄せてくる。
 その温もりに、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。

「……今日は、街の中だけにしておこう」

 昨夜、グランに言われた言葉を思い出す。
 単独行動を控えろ。街の外へ出るときはギルドを通せ。

 納得はしている。
 無謀に動く意味はない。

 だが同時に、じっとしているだけで済む状況でもないことも、分かっていた。

 身支度を整え、ミリュウを肩に乗せて部屋を出る。
 廊下には、すでに数人の宿泊客が行き交っていた。

 その視線が、ちらりとミリュウに向けられる。

 昨日よりも、確実に多い。

(……噂が、回るのは早いな)

 宿を出ると、朝の街はすでに動き出していた。
 露店の準備をする商人、依頼掲示板に集まる冒険者たち。
 一見すると、いつもと変わらない日常。

 だが、ライトには分かる。
 空気が、どこか張りつめている。

「おい、聞いたか」

「……洞窟の件だろ?」

 小声の会話が、すれ違いざまに耳に入る。

 昨夜の襲撃は、まだ表には出ていない。
 それでも、何かが起きているという感覚だけは、街全体に広がり始めていた。

 ギルドの建物に入ると、朝の時間帯にしては人が多い。
 掲示板の前には、普段よりも密集した人だかりができていた。

「ライトさん」

 すぐに、ミィナがこちらに気づいて声をかけてくる。

「おはようございます。昨夜は……大丈夫でしたか?」

「ええ。問題ありません」

 ミリュウを見ると、ミィナは小さく微笑んだ。

「ミリュウちゃんも、元気そうですね」

「ミリュ」

 名前を呼ばれたと分かったのか、ミリュウが小さく鳴く。
 その様子に、ミィナの表情がさらに柔らいだ。

「今日は、依頼を受けに?」

「いえ。話を聞きに来ただけです」

 ミィナは、少しだけ声を落とす。

「……実は、今朝になって新しい情報が入りまして」

「情報?」

「はい。昨夜、街道沿いで別の冒険者が襲われたそうです。命に別状はありませんが……相手は、やっぱり人だったと」

 胸の奥が、静かに冷える。

「特徴は?」

「黒い外套で、顔は見えなかったそうです。連携が取れていて、逃げ際が綺麗だった、と」

 間違いない。
 洞窟で遭遇した連中と同じ。

「ギルドマスターは?」

「今、対応中です。ですが……」

 ミィナは一瞬、言葉を選ぶように視線を伏せた。

「勇者パーティが、今日中にこの街へ来る予定だそうです」

 その一言で、周囲の音が遠のいた気がした。

「……もう、来るんですね」

「はい。正式な入城ではないそうですが、調査という名目で」

 調査。
 そして、排除。

 昨夜グランが口にした言葉が、頭をよぎる。

 ライトは、ゆっくりと息を吐いた。

「ありがとうございます。教えてくれて」

「いえ……。ライトさん、無理はしないでくださいね」

「分かっています」

 本心だった。
 だが、同時に決めてもいた。

 逃げない。
 隠れない。

 自分が狙われている理由を、はっきりさせる。

 ギルドを出ると、ミリュウが肩の上で小さく動いた。

「ミリュ……」

「大丈夫だ」

 視線を上げると、街の門の方角に、数人の騎士らしき影が見える。
 その中心にいる人物の輪郭が、妙に目についた。

 まだ顔は分からない。
 だが、その立ち姿には、覚えがあった。

(……カイル)

 確信ではない。
 それでも、胸の奥が静かにざわつく。

 勇者パーティが動く。
 自分を狙う者たちも、動いている。

 偶然が重なっているとは、もう思えなかった。

「ミリュウ」

「ミリュ?」

「しばらく、気を抜くな」

 ミリュウは、真剣な表情で小さく鳴いた。

 朝の街は、相変わらず賑やかだった。
 だがその裏で、確実に歯車が回り始めている。

 ライトはその流れの中に、はっきりと自分の居場所を感じていた。

 もう、巻き込まれる側ではない。

 踏み出す覚悟は、すでにできていた。
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