追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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鯛59話

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 街へ戻るまでの道は、妙に静かだった。

 夜明け前の時間帯。空はまだ群青色で、遠くの鳥の声も少ない。だが、静かな分だけ気配が際立つ。川沿いの湿った空気が、背中にまとわりつくように残っている。

 ライトは先頭を歩きながら、周囲の変化を逃さなかった。

 森の縁。
 街道に近づくにつれ、踏み跡が増える。人の往来がある証拠だが、今は誰もいない。

「……妙だな」
 アリアが低く言った。

「見張りがいない。引き際が早すぎる」

「向こうも、全部を晒す気はない」
 ライトは足を止めずに答える。「本命は、別だ」

 リオナが少し後ろで杖を担ぎ直す。

「施設跡は囮。私たちを動かすための前段階って感じね」

 フィーナは黙ったまま、周囲の草木に指先を触れていた。微細な揺れを拾い、違和感を探している。

 街の外壁が見え始めた、その時だった。

 空気が歪む。

 ほんの一瞬。
 だが、確実に。

 ライトは即座に剣に手をかけた。

「止まれ」

 全員が足を止める。

 次の瞬間、地面が弾けた。

 土と石が跳ね上がり、衝撃が足元から伝わる。

「下だ!」
 アリアが叫ぶ。

 ライトは跳ぶ。

「《身体強化Lv1》」

 着地の衝撃を殺し、即座に前へ。背後でリオナが距離を取る。

 地面から現れたのは、人影だった。

 一人、二人――四人。

 全員、軽装。
 だが、武器の持ち方が揃っている。

 訓練された動き。

「街の直前で来るか」
 ライトが吐き捨てる。

 敵は言葉を発さない。

 代わりに、同時に動いた。

 左右から二人が走り込み、残り二人は後方で魔導具を展開する。

 光が走る。

 圧縮された水が、地面を滑るように広がった。

 足場を奪う狙い。

 ライトは踏み込む。

「《ウォーターLv1》」

 水を叩きつける。

 地面の水が弾け、均衡が崩れる。

 その隙に、アリアが突っ込んだ。

「遅い!」

 獣人の脚力が炸裂する。
 一人の懐へ一気に入り、刃を叩き込む。

 相手は受け止めるが、体勢が浮いた。

 ライトが続く。

「《斬撃強化(中)》」

 剣が低く走り、相手の膝を払う。戦線を崩す。

 後方でリオナが詠唱を始める。

「フレイムランス」

 一直線の炎が走り、魔導具を構えていた一人を貫いた。防御が間に合わず、相手は転がる。

 残る二人が後退する。

 だが、撤退じゃない。

 空気が震えた。

 今度は風。

 鋭く、切り裂く流れ。

 ライトは身体を捻る。

「《ウィンドLv1》」

 斜めに流し、相手の刃を逸らす。

 衣服が裂けるが、致命傷はない。

 フィーナが一歩前へ出た。

 地面に手を当てる。

 草が伸び、敵の足を絡め取る。

 完全な拘束じゃない。だが、一瞬の遅れを作るには十分だ。

 ライトはその一瞬を逃さない。

「《斬撃強化(中)》」

 剣が走り、相手の武器を弾き飛ばす。

 残った一人は、即座に撤退を選んだ。

 煙玉。

 視界が白く染まる。

 だが、追わない。

 街が近い。深追いは危険だ。

 煙が晴れたとき、敵の姿は消えていた。

 静寂。

 街の門が、すぐそこにある。

 リオナが息を吐く。

「……完全に狙われてるわね」

「ああ」
 ライトは剣を収める。「しかも、街の外で仕掛けてきた。中で騒ぎを起こす気はない」

 アリアが鼻を鳴らした。

「慎重すぎる。厄介だ」

 フィーナが小さく言う。

「でも、怖がってる。強さを測ってる」

 ライトは門を見上げた。

 これ以上、ただ受けるだけじゃ終わらない。

 相手は手を変え、場所を変え、確実に詰めてきている。

 だからこそ――

 こちらも、次の段階へ進む必要がある。

「ギルドに戻る」
 ライトが言った。「情報を全部出す。次は、待たない」

 仲間たちは何も言わず、頷いた。

 夜明け前の門が、ゆっくりと近づいてくる。

 街はまだ眠っている。

 だが、水面下では、確実に歯車が回り始めていた。
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