追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第60話

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 夜明け前の空気は冷たく、草に残った露が靴底を濡らした。焚き火の灰を踏み消し、ライトたちは野営地を離れる。森は静かだが、昨夜の余韻が完全に消えたわけではない。枝の擦れる音ひとつで、全員の視線が動く。

 アリアが前に出る。足取りは軽く、剣はまだ抜かない。フィーナは少し後ろで、森の流れに耳を澄ませている。リオナは杖を肩に担ぎ、周囲を見回す。ミリュウはライトの肩で、首を低く保った。

「痕跡がある」

 アリアが足を止め、地面を指す。踏み荒らされた草、濡れた土に残る靴跡。集落へ向かう道ではない。川沿いへ逸れている。

「昨夜の連中だな」

 ライトは剣の柄に触れ、進路を決める。追う。距離を詰めるが、急がない。森は罠を隠す。

 川音が近づいた。霧が低く流れ、視界が削られる。リオナが一歩前へ出る。

「足場が悪い。散らばらないで」

 次の瞬間、霧の奥で水が弾けた。飛沫が刃の形を取り、横から走る。

 ライトは半身で受ける。

「《斬撃強化(中)》」

 剣が水刃を裂き、飛沫が地面に散る。アリアが踏み込む。

「遅い!」

 低い位置からの斬り上げ。霧の中で影が跳ね、距離を取る。反対側でリオナが短く詠唱する。

「フレイムボール」

 火球が霧を押し退け、影の輪郭を浮かび上がらせた。外套ではない。軽装の斥候が二人、川辺の岩に身を寄せている。

 背後で空気が動いた。

 風が切り裂く。

 ライトは踏み替え、掌を返す。

「《ウィンドLv1》」

 風がぶつかり、霧の筋が歪む。斥候の一人が体勢を崩した。フィーナが前に出る。

 草が揺れ、根が絡む。斥候の足が止まり、視線が下がる。

 ライトは迷わない。

「《ウォーターLv1》」

 水が走り、岩の表面を濡らす。足元が滑る。アリアの剣が閃き、相手は転がった。

 残る一人が笛を吹く。短い合図。霧の奥で重い足音が応えた。

 鎧だ。

 川面が割れ、水が盛り上がる。巨体が姿を現した。肩に魔導具、腕に刃。人の形だが、動きが違う。

 リオナが杖を構える。

「近づけない」

 雷はまだ使わない。ライトは前に出る。

「《身体強化Lv1》」

 踏み込みが鋭くなる。水際を切り、間合いへ入る。鎧の腕が振り下ろされる。

 受けない。

 横へ流し、刃を入れる。

「《斬撃強化(中)》」

 金属が鳴る。継ぎ目に刃が噛み、鎧がずれる。フィーナが間合いに入る。

 地面が盛り上がり、足元を支える。ライトの踏み込みが止まらない。

 鎧が後退する。川から水が引き上げられ、背後で渦を作る。

 ライトは視線を切らない。

「《ウィンドLv1》」

 渦の縁が崩れ、勢いが散る。リオナが間合いを詰める。

「ファイアランス」

 炎が一直線に伸び、鎧の肩を貫いた。巨体が膝をつく。

 アリアが止めを刺す。

「終わりだ」

 斬撃が走り、鎧が倒れた。霧が薄れ、川音だけが残る。

 静寂。

 ライトは剣を収め、周囲を確認する。斥候の姿はない。撤退が早い。

 足元で、感覚が変わる。

《ウィンドLv2》を獲得。

 アリアが息を吐く。

「……厄介だが、手応えはある」

 リオナが肩を回す。

「水と風、混ぜてきた。次は違う手を出す」

 フィーナが川辺に膝をつく。

「森がざわついている。ここに長居はできない」

 ミリュウが小さく鳴いた。

「ミリュ」

 ライトは頷く。

「街へ戻る。報告して、次に備える」

 引き返す途中、遠くで笛が鳴った。短く、乾いた音。別の合図だ。

 ライトは振り返らない。

 足取りは速いが、乱れない。

 追われる側から、選ぶ側へ。

 森の出口で、朝日が差した。
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