追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第58話

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 川を越えた先は、明らかに人の手が入っていた。

 踏み固められた獣道。ところどころに積まれた石。朽ちかけた杭が、等間隔で地面に打ち込まれている。古いが、放置された自然の痕跡じゃない。

「……施設跡だな」
 アリアが低く言った。

「川沿いに作られてる。水を扱う前提の配置だ」
 リオナも周囲を見回す。

 フィーナは立ち止まり、目を閉じた。

「ここ、息が詰まる。自然じゃない流れが、ずっと残ってる」

 ライトは剣を抜かず、歩調を落とした。

「見張りがいる」

 言い終わるより早く、上から音がした。

 岩を蹴る音。
 次の瞬間、影が落ちてくる。

 ライトは即座に前へ出た。

「《斬撃強化(中)》」

 剣が弧を描き、空中の影を弾く。着地と同時に、相手は後転して距離を取った。

 二人。

 いや、三人。

 左右の木陰から、さらに動きがある。

「散開!」
 ライトが短く叫ぶ。

 アリアが横へ跳び、リオナは後方へ下がる。フィーナは岩陰へ。

 敵は即座に動いた。

 正面の一人が、地面に杖を突き立てる。

 水が集まる。

 だが、今度は刃にならない。

 重い。
 粘りつくような圧。

「……重水か」
 リオナが歯を食いしばる。

 ライトは踏み込む。

「《身体強化Lv1》」

 脚に力を通し、圧を押し切る。足元が沈むが、止まらない。

 横から、別の敵が斬り込んでくる。

 ライトは剣を下げ、身体を捻った。

「《ウィンドLv1》」

 風で弾く。
 切るためじゃない。軌道をずらすためだ。

 刃が逸れ、空を切る。

 そこへアリアが入った。

「遅い!」

 一閃。
 敵の腕が弾かれ、武器が落ちる。

 だが、敵は退かない。

 後方から、低い詠唱。

 空気が震える。

「……来る!」
 リオナが叫ぶ。

 次の瞬間、地面が砕けた。

 水と土が混じり、塊となって突き上がる。

 ライトは咄嗟に跳ぶ。

 完全には避けられない。

 衝撃が背中を打ち、視界が揺れた。

 だが、着地は崩れない。

 身体が応えた。

 リオナが杖を振る。

「フレイムランス!」

 一直線の火が走り、地面の塊を穿つ。蒸気が上がり、敵の視界が遮られる。

 フィーナが岩陰から一歩出た。

 地面に手をつく。

 草が伸び、敵の足首に絡みつく。

 逃げ場が削られる。

 ライトは前へ出た。

「《ウォーターLv1》」

 水を叩きつける。
 刃じゃない。重さで押す。

 敵の体勢が崩れた。

 そこへ、剣。

「《斬撃強化(中)》」

 刃が防具の隙間を捉え、敵は膝をつく。

 残りの二人は、迷わず後退した。

 合図はない。
 だが、動きは揃っている。

「撤退……?」
 アリアが眉をひそめる。

「違う」
 ライトは剣を下げなかった。「試してる」

 敵は森の奥へ消えた。

 追わない。

 ここは相手の場所だ。

 静寂が戻る。

 だが、空気は張りつめたままだった。

 リオナが息を整える。

「……さっきの、土混じりの水。魔導具じゃない」

「使い手の質が上がってる」
 アリアが言う。「集落の連中より、明らかに」

 フィーナが周囲を見回す。

「奥に、もっと大きい気配。人の数も……多い」

 ライトは頷いた。

「ここは前線だ。本拠じゃない」

 ミリュウが肩で小さく鳴いた。

「ミリュ」

「分かってる」

 ライトは剣を鞘に収めた。

 敵は、ただ襲ってきているわけじゃない。
 力を見て、編成を変え、位置をずらしている。

 組織的だ。

 しかも――こちらを、戦力として計算に入れ始めている。

「戻るか」
 アリアが言う。

「ああ。一度、情報をまとめる」

 リオナが軽く笑った。

「面倒なのに絡まれたわね」

「今さらだ」

 ライトは歩き出す。

 川沿いの施設跡を背に、森を戻る。

 次に来る相手は、さらに厄介だろう。

 だが、逃げる理由はなかった。

 すでに、こちらは一人じゃない。

 それだけで、十分だった。
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