57 / 93
第57話
しおりを挟む
川の音が、はっきりと聞こえるようになってきた。
森を抜けるにつれ、地面は湿り気を増し、靴底に重さが伝わる。水辺特有の匂いが鼻をついた。流れはそれほど速くないが、幅があり、対岸は低い崖になっている。
ライトは歩みを止め、指で合図を出した。
全員が足を止める。
アリアが周囲を見回し、小声で言った。
「……痕跡が多いな」
倒された草、踏み固められた土、そして不自然に折れた枝。隠す気はあるが、急いでいる痕跡だ。
「ここだな」
ライトは低く言った。
リオナが川上を指す。
「上流。岩陰が多い。人が潜むなら、あそこ」
フィーナは川辺に膝をつき、水面に指先を触れた。
「……水が乱れてる。生き物の動きじゃない」
ミリュウが肩で小さく鳴いた。
「ミリュ……」
「静かにな」
ライトは剣の柄に手を添え、足音を殺して進む。
岩場に差し掛かった瞬間だった。
水面が弾ける。
鋭い水の刃が、横薙ぎに飛んできた。
ライトは踏み込み、剣を振る。
「《斬撃強化(中)》」
刃が水刃を断ち、飛沫が散る。だが、同時に別方向から衝撃が来た。
足元。
地面が沈む。
「っ……!」
ライトは即座に腰を落とす。
「《身体強化Lv1》」
踏ん張りが利き、完全には沈まない。だが動きは鈍る。
左右の岩陰から、三人。
川向こうから、さらに二人。
数は五。
全員が距離を保ち、無駄に詰めてこない。
「囲い込みだな」
アリアが唸る。
「水場を選んでる」
リオナが言った。「流れを使う気」
正面の一人が杖を振る。
水が集まり、圧縮されて飛ぶ。
ライトは剣を下げ、手を前に出した。
「《ウォーターLv1》」
放たれた水が正面衝突する。威力は拮抗し、相殺された。
だが、次の瞬間。
横から、風が来た。
水を乗せた風。
重く、逃げにくい。
ライトは半歩退き、身体を捻る。
「《ウィンドLv1》」
流れを切る。
風は真正面から受けるものじゃない。角度を変えれば、刃は鈍る。
飛沫が霧となり、視界が白む。
「今だ!」
アリアが踏み込む。
獣人の脚力が一気に距離を詰め、岩陰の一人を叩き伏せる。
だが、敵は慌てない。
倒された仲間を切り捨てるように、残りが一斉に後退した。
川の中央に立つ男が、初めて口を開いた。
「……想定より、やるな」
声は落ち着いている。
焦りがない。
「目的は何だ」
ライトが問う。
男は答えない。
代わりに、足元の水が大きく波打つ。
次の瞬間、川の流れが変わった。
水位が一気に上がる。
「増水……!」
リオナが息を呑む。
人工的だ。
自然の変化じゃない。
ライトは即座に判断する。
「フィーナ、後ろ!」
フィーナが一歩退き、地面に手をつく。
植物が根を張り、足場を固定する。
だが、流れは止まらない。
ライトは剣を構え、前へ出た。
「俺が切る」
「無茶するな!」
アリアが叫ぶ。
「大丈夫だ」
ライトは踏み込む。
水圧が、身体に叩きつけられる。
「《斬撃強化(中)》」
剣を振る。
水を斬る。
完全には断てない。だが、流れが割れた。
その瞬間、身体の奥で確かな感触があった。
剣が軽い。
踏み込みが深い。
刃が、水の中心を捉える。
「……っ」
敵の男が、初めて顔を歪めた。
増水が弱まる。
流れが、元に戻り始める。
リオナが即座に詠唱する。
「フレイムボール!」
火球が飛び、男の足元で弾ける。
蒸気が上がり、視界が遮られる。
アリアが間合いに入った。
一撃。
男は後退し、川へ飛び込む。
残りの敵も、それに続いた。
数秒後、川には何も残っていなかった。
静けさが戻る。
水音だけが、いつも通りに流れている。
ライトは剣を下ろし、息を整えた。
腕が熱い。
だが、重さはない。
「……しつこいな」
アリアが吐き捨てる。
「でも、ただの追手じゃない」
リオナが言った。「明らかに役割分担してた」
フィーナが立ち上がる。
「……川沿いに、人工物の気配。古い施設」
ライトは頷いた。
「そこが本命だ」
ミリュウが小さく鳴いた。
「ミリュ」
「行くぞ」
川の流れは、すでに何事もなかったかのように穏やかだった。
だが、確信があった。
この先にいるのは、これまでの連中とは違う。
ただ追うだけの存在じゃない。
力を試し、奪い、選別する側。
ライトは一歩、川を越えた。
次の場所で、状況は確実に動く。
その予感だけは、はっきりとしていた。
森を抜けるにつれ、地面は湿り気を増し、靴底に重さが伝わる。水辺特有の匂いが鼻をついた。流れはそれほど速くないが、幅があり、対岸は低い崖になっている。
ライトは歩みを止め、指で合図を出した。
全員が足を止める。
アリアが周囲を見回し、小声で言った。
「……痕跡が多いな」
倒された草、踏み固められた土、そして不自然に折れた枝。隠す気はあるが、急いでいる痕跡だ。
「ここだな」
ライトは低く言った。
リオナが川上を指す。
「上流。岩陰が多い。人が潜むなら、あそこ」
フィーナは川辺に膝をつき、水面に指先を触れた。
「……水が乱れてる。生き物の動きじゃない」
ミリュウが肩で小さく鳴いた。
「ミリュ……」
「静かにな」
ライトは剣の柄に手を添え、足音を殺して進む。
岩場に差し掛かった瞬間だった。
水面が弾ける。
鋭い水の刃が、横薙ぎに飛んできた。
ライトは踏み込み、剣を振る。
「《斬撃強化(中)》」
刃が水刃を断ち、飛沫が散る。だが、同時に別方向から衝撃が来た。
足元。
地面が沈む。
「っ……!」
ライトは即座に腰を落とす。
「《身体強化Lv1》」
踏ん張りが利き、完全には沈まない。だが動きは鈍る。
左右の岩陰から、三人。
川向こうから、さらに二人。
数は五。
全員が距離を保ち、無駄に詰めてこない。
「囲い込みだな」
アリアが唸る。
「水場を選んでる」
リオナが言った。「流れを使う気」
正面の一人が杖を振る。
水が集まり、圧縮されて飛ぶ。
ライトは剣を下げ、手を前に出した。
「《ウォーターLv1》」
放たれた水が正面衝突する。威力は拮抗し、相殺された。
だが、次の瞬間。
横から、風が来た。
水を乗せた風。
重く、逃げにくい。
ライトは半歩退き、身体を捻る。
「《ウィンドLv1》」
流れを切る。
風は真正面から受けるものじゃない。角度を変えれば、刃は鈍る。
飛沫が霧となり、視界が白む。
「今だ!」
アリアが踏み込む。
獣人の脚力が一気に距離を詰め、岩陰の一人を叩き伏せる。
だが、敵は慌てない。
倒された仲間を切り捨てるように、残りが一斉に後退した。
川の中央に立つ男が、初めて口を開いた。
「……想定より、やるな」
声は落ち着いている。
焦りがない。
「目的は何だ」
ライトが問う。
男は答えない。
代わりに、足元の水が大きく波打つ。
次の瞬間、川の流れが変わった。
水位が一気に上がる。
「増水……!」
リオナが息を呑む。
人工的だ。
自然の変化じゃない。
ライトは即座に判断する。
「フィーナ、後ろ!」
フィーナが一歩退き、地面に手をつく。
植物が根を張り、足場を固定する。
だが、流れは止まらない。
ライトは剣を構え、前へ出た。
「俺が切る」
「無茶するな!」
アリアが叫ぶ。
「大丈夫だ」
ライトは踏み込む。
水圧が、身体に叩きつけられる。
「《斬撃強化(中)》」
剣を振る。
水を斬る。
完全には断てない。だが、流れが割れた。
その瞬間、身体の奥で確かな感触があった。
剣が軽い。
踏み込みが深い。
刃が、水の中心を捉える。
「……っ」
敵の男が、初めて顔を歪めた。
増水が弱まる。
流れが、元に戻り始める。
リオナが即座に詠唱する。
「フレイムボール!」
火球が飛び、男の足元で弾ける。
蒸気が上がり、視界が遮られる。
アリアが間合いに入った。
一撃。
男は後退し、川へ飛び込む。
残りの敵も、それに続いた。
数秒後、川には何も残っていなかった。
静けさが戻る。
水音だけが、いつも通りに流れている。
ライトは剣を下ろし、息を整えた。
腕が熱い。
だが、重さはない。
「……しつこいな」
アリアが吐き捨てる。
「でも、ただの追手じゃない」
リオナが言った。「明らかに役割分担してた」
フィーナが立ち上がる。
「……川沿いに、人工物の気配。古い施設」
ライトは頷いた。
「そこが本命だ」
ミリュウが小さく鳴いた。
「ミリュ」
「行くぞ」
川の流れは、すでに何事もなかったかのように穏やかだった。
だが、確信があった。
この先にいるのは、これまでの連中とは違う。
ただ追うだけの存在じゃない。
力を試し、奪い、選別する側。
ライトは一歩、川を越えた。
次の場所で、状況は確実に動く。
その予感だけは、はっきりとしていた。
45
あなたにおすすめの小説
最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました
チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。
完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。
【捕食】
それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。
ゴブリンを食べれば腕力を獲得。
魔物を食べれば新スキルを習得。
レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。
森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。
やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。
これは――
最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる