追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第56話

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 夜明け前の森は、音が少なかった。
 風が止まり、葉擦れもない。ただ、湿った土の匂いだけが濃く残っている。

 焚き火はすでに落とし、四人は静かに移動していた。
 ライトを先頭に、アリア、リオナ、フィーナが距離を取って続く。ミリュウはライトの肩で周囲を警戒していた。

 昨夜の襲撃から、気配は一度も完全には消えていない。
 だが近づいてもこない。
 まるで、行き先を誘導しているかのようだった。

「……あからさまだな」

 ライトが小さく呟く。

 アリアが低く笑った。

「逃げ道を作ってる。囲う前提だな」

「森の奥に引き込みたいんでしょうね」
 リオナは周囲の木々を見回す。「街道からは離れてる」

 フィーナは何も言わず、足元の草に指先を滑らせていた。

「……ここ、踏み荒らされてる」

 ライトは足を止める。
 確かに、獣のものとは違う足跡が混じっている。しかも数が多い。

「待ち伏せだ」

 言い終わる前に、空気が動いた。

 左右の木々の間から、影が躍り出る。
 四人、いや五人。全員が軽装だが、動きに無駄がない。

 正面の一人が、地面に何かを投げた。

 次の瞬間、土が盛り上がり、足元が崩れる。

 落とし穴。

「散開!」

 ライトは即座に跳び、前へ出る。

「《身体強化Lv1》」

 踏み込みが深くなり、体勢が安定する。
 崩れかけた地面を蹴り、間合いを一気に詰めた。

 敵が短剣を振るう。
 ライトは剣を横に走らせる。

「《斬撃強化(中)》」

 刃が弾き、火花が散る。
 そのまま踏み込み、相手の手首を打ち払った。

 だが、背後から別の影が迫る。

「ライト!」

 リオナの声と同時に、空気が冷えた。

「アイスカッター」

 氷の刃が地面を裂き、敵の足を止める。
 転倒したところへ、アリアが踏み込んだ。

「遅い!」

 一閃。
 相手は動かなくなる。

 だが、敵は引かない。
 今度は前方の二人が同時に手をかざした。

 水が地面を走る。
 ぬかるみが広がり、足を取る狙いだ。

 ライトは剣を下げ、片手を前に出す。

「《ウォーターLv1》」

 放たれた水が、地面の流れを変える。
 ぬかるみが一方向に偏り、敵の足元だけが崩れた。

「なっ……!」

 体勢を崩した敵へ、アリアが踏み込む。

 残る一人が距離を取り、火花を散らす魔導具を起動させた。

 炎が弾丸のように飛ぶ。

 ライトは避けず、半身で受け流す。

「《ファイアLv1》」

 炎と炎がぶつかり、相殺される。
 熱が弾け、視界が一瞬白くなる。

 その隙に、フィーナが初めて前へ出た。

 地面に手を触れ、低く囁く。

 草が伸び、敵の足首に絡みつく。

「……動かないで」

 自然の力が締め上げる。
 逃げ場はない。

 数秒で、森に静けさが戻った。

 生きている者はいない。
 だが、重苦しい感触だけが残る。

「……様子見じゃないな」
 リオナが息を吐く。「最初から、削りに来てる」

「ああ」
 ライトは剣を収める。「でも、無理はしてない。引き際も計算通りだ」

 アリアが肩を鳴らす。

「面倒だが、悪くない。相手が強くなってきた」

 ミリュウが小さく鳴いた。

「ミリュ」

 ライトは肩に手を添える。

「大丈夫だ。まだ余裕はある」

 身体に残る感覚は、確かだった。
 踏み込み、剣の重さ、魔法の通り。どれも、少しずつ噛み合ってきている。

 フィーナが立ち上がる。

「……この先、川がある。人の手が入った場所」

 ライトは頷いた。

「そこが拠点だろう」

 追う。
 だが焦らない。

 敵は数を揃え、こちらの動きを測っている。
 ならば――こちらも、次は違う手を切る。

 朝の光が、森の奥をわずかに照らし始めていた。

 四人と一体は、足音を抑え、川の気配がする方角へと進み始める。

 次は、逃がさない。
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