追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第64話

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 夜明け前の空は、まだ色を決めかねているようだった。東の端がわずかに白み、星が一つ、また一つと消えていく。

 ライトは川沿いの小道を歩いていた。足元の砂利を踏む音が、やけに大きく聞こえる。眠っている街を起こさないよう、歩幅は一定、無駄な動きは一切ない。

 少し後ろを、リオナ、アリア、フィーナが続く。

「……気配、増えてる」

 アリアが低く言った。

 獣人特有の感覚だ。ライトも同意する。視界には何も映らないが、空気が澱んでいる。水辺特有の冷えとは違う、張りつくような違和感。

「川上だな」

「水路を押さえに来てる可能性が高いわね」

 リオナは杖を持つ手を少しだけ上げた。詠唱の準備ではない。いつでも動ける、という合図だ。

 フィーナは無言で周囲の草木に触れている。小さな精霊たちが、彼女の周囲に集まっては散っていった。

 次の瞬間だった。

 水面が、盛り上がる。

 爆ぜるように跳ね上がった水が、無数の針となって飛んできた。

「散れ!」

 ライトが前に出る。

「《斬撃強化(中)》」

 一閃。

 剣が空気を裂き、水針の半分以上を弾き飛ばす。残りが腕や脚を掠めるが、致命にはならない。

 同時に、足が自然と前へ出ていた。

 踏み込みが深い。砂利の上でも滑らない。

 水面から人影が現れる。軽装の男が二人、少し離れてもう一人。魔導具は見えない。生身だ。

「来たわね」

 リオナが間合いを取る。

「フレイムボール」

 火球が低く飛び、水辺を照らす。逃げ場を塞ぐための牽制だ。

 男の一人が腕を振る。水が盾のように盛り上がり、火球を受け止めた。

 その動きを、ライトは見逃さない。

 踏み込む。

 距離が一気に縮む。

 剣を振るう直前、足にかかる力が明らかに違った。

 重さを地面に逃がし、前へ変える。

 刃が男の肩口を裂いた。

「ぐっ……!」

 浅いが、確実だ。

 背後から風が来る。

 鋭い。刃の形をした圧力。

 ライトは振り向かず、半身になる。

「《ウィンドLv2》」

 放った風が、正面からぶつかるのではなく、斜めに流れを変える。切っ先が逸れ、肩をかすめるだけで終わった。

 アリアがその隙を逃さない。

「はあっ!」

 一撃。

 重い音。男が地面に叩きつけられる。

 残る二人が距離を取ろうとする。

 リオナが一歩前へ。

「アイスカッター」

 氷刃が地面を走り、足元を抉る。転倒した瞬間、フィーナが手を伸ばした。

 地面から伸びた蔦が、男の脚を絡め取る。

「……拘束」

 静かな声だった。

 最後の一人が逃げようと背を向ける。

 ライトは追う。

 踏み込みが速い。

 自分でも驚くほど、身体が軽い。

 剣を振る。

「《斬撃強化(中)》」

 刃が、確実に届いた。

 男は前のめりに倒れ、そのまま動かなくなる。

 水面に、静けさが戻った。

 ライトは剣を下ろし、呼吸を整える。

 息は乱れていない。

 腕の重さも、ほとんどない。

 リオナが近づいてくる。

「……さっきより、踏み込み深くなってない?」

「かもな」

 事実だった。

 意識していない。だが、剣を振るうたび、足を出すたび、動きが噛み合っていく感覚がある。

 フィーナが拘束した男を見下ろす。

「この人たち……前より、対応が早い」

「慣れてきてる」

 アリアが唸る。

「でも、こっちもな」

 ライトは川の上流を見る。

 朝の光が、水面を照らし始めていた。

「戻ろう。報告が必要だ」

 全員が頷く。

 追いかける必要はない。

 今の一戦で、十分だった。

 剣を鞘に収めたとき、ライトははっきりと感じていた。

 刃の通り。

 踏み込みの深さ。

 受けた衝撃の軽さ。

 すべてが、昨日とは違う。

 静かに、だが確実に。

 前へ進んでいる。

 朝の光の中、四人は街へ戻っていった。
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