最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.

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第三章:「クラスメイトとの再会」

第33話:敗北の勇者

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 夜が明けきらぬうちに、灰色の雲が王都アルゼリアを覆っていた。
 聖堂の崩壊から三日。勇者隊の残党が散り散りになった報告は、城中を駆け巡っている。

 だが――誰も、勇者・神崎悠真の行方を知らない。

 兵たちは噂した。
 「女神に見放された」「魔王に堕ちた」「廃都の異端者に殺された」……。
 真実を知る者は、ほんの一握りだ。
 その中に、玲奈もいた。

 彼女は今、王都の北門を離れていた。
 メルディナから戻って以来、ずっと胸に残るざらついた痛み。
 蓮が悠真を殺さなかった――その意味が、頭から離れない。

 (あの人は、まだ悠真くんを“人間”だと思ってる。
  でも……悠真くん自身は、自分をもう“勇者”としてしか見てない)

 風が吹くたび、胸の奥で誰かの声が反響する。
 「篠原蓮に負けた時、彼の中で何かが終わった――けど、同時に始まったんだ」
 玲奈は思う。もしあのとき、自分が間に入れていたら、何か違っていただろうか。

――

 その頃、王都から少し離れた廃村の片隅。
 崩れた教会跡で、悠真は目を覚ました。
 石畳の上に横たわっていた体は冷え切っており、指先を動かすたびに痛みが走る。
 頭の中には、途切れ途切れの声が残っていた。

 ――『異端を廃棄しなさい』
 ――『お前は私の剣』
 ――『勇者とは、正しき秩序の道具』

 「……うるさい……もう、やめろ……!」

 悠真は耳を押さえ、膝を抱えた。
 女神の声が消えない。どれだけ叫んでも、どれだけ祈っても。
 剣を振っても届かない声。
 それが、篠原蓮の声ではなく、女神の命令であることが、何よりも苦しかった。

 「俺は……勇者だ。なのに、どうして……何も救えないんだ……。」

 拳を地に叩きつける。
 乾いた音とともに、血が滲んだ。
 だが痛みすら、もはや現実感がない。
 自分が“生きている”という確信が、ひどく薄れていた。

――

 同じころ、メルディナでは。
 蓮が工房で作業をしていた。
 壊れた魔導機のコアを取り出し、手のひらで淡く光らせる。
 それを再び形へ戻す――ただの作業、ただの再生。
 だが、頭のどこかでずっとあの戦いが残っていた。

 「“壊さない”って言ったけど……あれで良かったのか?」

 呟きが漏れる。
 リアが後ろから顔を出し、尻尾を揺らす。
 「また考えてんのか?」
 「……ああ」
 「別に間違っちゃいねぇよ。あいつはまだ、“自分で決める”前に止まっただけだ」
 リアは腕を組んで言う。「放っとけ。あんたは“直す側”だ。壊れた奴の代わりに泣いてやる必要なんかねぇ」

 「でも、放っておけないんだ。悠真は――昔、俺に“共に戦おう”って言ってくれた唯一のやつだった。」
 「今のあいつがその言葉を覚えてると思うか?」
 「覚えてなくてもいい。覚え直せばいい。」

 リアは小さく舌打ちし、でも笑った。
 「ほんっとお人好し。……そういうとこ、嫌いじゃねぇけどな。」

――

 一方その頃、玲奈は王都の裏路地で悠真を探していた。
 情報を得て向かったのは、郊外の廃村。
 かつて教会の庇護下にあった場所。今は、信徒たちの墓標だけが残る。

 彼女が扉を押し開けると、埃っぽい空気と血の匂いがした。
 そして――。
 「……悠真くん。」

 瓦礫の間に、うずくまる影。
 かつての仲間、かつての勇者。
 だが今は、髪も乱れ、鎧も割れ、目の光は失われていた。

 「来るな。」
 低く、擦れた声。
 「俺は……もう勇者じゃない。お前の知ってる俺じゃないんだ。」
 玲奈は一歩も退かず、静かに首を振った。
 「知ってる。……でも、それでも来たの。あなたが“勇者”をやめたなら、今度は“人間”として話したい。」

 悠真は顔を上げた。
 涙に似た光が、瞳の奥でかすかに滲んでいた。
 「俺は……女神に選ばれた。だから、強くなきゃいけなかった。
  でも、あいつ――蓮に負けて、わかったんだ。
  “選ばれた”って言葉に、俺は縛られてただけだったんだ。」

 玲奈はそっと腰を下ろし、距離を詰めた。
 「じゃあ、もう縛られないで。
  蓮くんは“誰も捨てない”って言ってた。
  あれは綺麗事じゃない。あの人、本気でそう生きてる。
  だから、あなたも“自分を捨てないで”。」

 悠真はしばらく黙っていた。
 けれど、唇の端にかすかな笑みが浮かんだ。
 「……あいつ、相変わらずだな。そういうところ、昔からムカつく。」
 「そういうところが、昔から好きだったくせに。」
 玲奈の言葉に、悠真は苦笑した。
 その笑顔は、ほんの一瞬だった。

 次の瞬間、空気が変わった。
 教会の奥、祭壇の方角から黒い光が立ち上がる。
 悠真が顔を歪め、頭を押さえた。
 「――やめろ! やめろ、俺はもう……!」
 玲奈が叫ぶ。「悠真くん!」
 だが、その声は届かない。

 女神の声が、再び脳を貫く。
 『勇者は破壊の証。役目を終えた道具に、意志は不要。』

 悠真の身体が震え、祝印が腕に再び浮かび上がる。
 玲奈はその光を見て悟った。
 (――女神が、まだ操ってる!)

 彼女は迷わず、蓮のもとへと走り出した。
 「蓮くん……! 悠真くんが――まだ、戦ってる!」

――

 夜。
 メルディナの外壁で報告を受けた蓮は、わずかに目を閉じた。
 「……やっぱり、放っておけないな。」
 セリナが小さく頷く。「今度こそ、彼を救う時です。破壊ではなく再生で。」
 リアが歯を鳴らす。「また厄介なのを背負い込むな、あんたは。」
 「俺のスキルは《リサイクル》だ。壊れたものを直すのが仕事だからな。」

 風が吹いた。
 夜空に浮かぶ星が、どこか寂しく瞬く。
 蓮は剣を握り、静かに呟いた。
 「――待ってろ、悠真。お前の“勇者”は、もう終わっていい。」

 彼の瞳には、決して憐れみではない光。
 それは“再生者”の覚悟だった。
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