32 / 100
第三章:「クラスメイトとの再会」
第32話:炎の決闘
しおりを挟む
夜の底が、赤く揺れた。
廃都メルディナの外縁――崩れた聖堂跡の方角で、火柱がいくつも咲く。魔力のうねりは風向きを変え、乾いた土と煤の匂いを街へ運んできた。
「来る」
蓮は外壁の上で短く言った。肩の留め具をきゅっと締め直すと、黒鉄の外套が音を立てて落ち着いた。
隣でリアが牙を見せる。「正面から、だな。あの勇者、変に回り道できる性格じゃない」
セリナは指先で淡光の輪を描き、街の上空にかすかな防膜を張る。「市街地には入れない。結界は私と管制塔で維持する。蓮、あなたは……」
「外で止める。ここは俺の街だ。瓦礫でも、ここで生き直してる人がいる」
見張り台に立つ兵の間を、玲奈が駆け抜けてきた。肩で息をしながら、蓮の背に声を投げる。
「危ないわ、やめて――って言っても、行くんだよね」
「行くよ」蓮は振り返らない。
「……わかった。じゃあ私もできることをする。避難誘導は任せて」
その言葉にだけ、蓮は小さく頷いた。
リアが目を細める。「戻ってこいよ、蓮。あんたがいないメルディナなんて、ただの墓場だ」
外門が開く音が低く鳴り、夜風が吹き込む。蓮はひとり歩を進め、闇の原へ降りていった。
――
崩れた聖堂跡に、赤黒い光が澱んでいた。
御影石の床にひびが走り、折れた祭壇の上に人影が立つ。聖剣を携え、黒い紋の火を掌で転がす、その姿――。
「篠原蓮」
名を吐く声に、かつての澄んだ響きはない。
蓮は足を止め、ただ短く答えた。
「……悠真」
勇者の瞳に、怒りと怯えが交互に点滅する。
「ここで終わりにしてやる。お前みたいな異端がいるから、世界は壊れるんだ」
「世界を壊したのは“選ばれた自分しか認めない”心だよ」
「黙れ!」
聖剣が閃き、夜が裂けた。赤黒い斬光が地をえぐり、瓦礫が爆ぜる。蓮は身を沈めて踏み込み、腰の《リバース・ブレード》で受け流した。
火花は赤く散ったが、その赤はすぐに青へ転じて宙に吸い込まれる。
悠真が目を剥く。「なにをした!」
「お前の魔力の流れを“組み直した”。怒りで乱れた循環は、放っておくと自分を焼く」
「ふざけるなぁぁっ!」
斬撃が連なり、輪のような炎が襲い来る。蓮は後退しつつ足先で瓦礫を弾き、崩れた梁の金具を掴むと、掌でほどけた魔力線を撚り直す。ぼろ布のようだった古鉄が、一瞬だけ“道具”の姿を取り戻す。
投げた。
金具は炎輪の節にぴたりと噛み、暴走する力を地面へと落とした。地が唸り、爆ぜた熱が夜気に散る。
高台の陰から、玲奈が息を呑む音がした。リアは遠巻きに状況を見切り、低く呟く。「あいつ、完全に“勇者”を捨てきれてねぇ。神にしがみついたまま、足場だけ無理に動かしてる」
セリナは結界の縁で指を動かし、演算式を重ねる。「蓮の調整が間に合えば、街への被害はゼロにできる。……彼、あの場で“直しながら戦ってる”」
――
「終わりだ!」
悠真が上段から叩き落とす。黒い祝印が掌で脈打ち、聖剣の刃が異様な伸びを見せた。
蓮は――退かない。
刃を斜めに滑らせ、聖剣の腰をやわらかく抱くように受ける。そのまま、柄の芯で“回す”。
きぃん。
乾いた音のあと、聖剣の光が一瞬だけ途切れた。
そこで蓮は左手を柄に添え、囁くようにスキルを滑らせる。
「《リサイクル:拘束解除》」
からん――と、床に何かが落ちた。
聖剣の鞘に隠れていた微細な制御環。女神の祝印に反応して“本来の柄”を乗っ取る細工だ。
悠真の顔から血の気が引く。「いつ……外した!」
「最初に構えを見た時にわかった。握りが“剣”じゃなく“鍵”の持ち方だったから」
「っ、うるさい!」
怒りは勢いになる。だが、正確さは奪う。
悠真は力任せに踏み込み、連続の突きを叩き込む。
蓮は一歩も退かず、点で受けて線で逃がし、余剰の魔力だけを吸って再編する。受けた火は青く淡く、夜露のように地へ落ちて消えた。
「やめろ……やめろよ、蓮!」
「やめない。お前が“自分で止まる”まで、俺は壊さない」
「俺を哀れむなぁぁっ!」
悠真は跳躍し、天から降るような斬を振り下ろす。
蓮は地を小さく蹴り、斜めに滑り込んだ。
刀身と刀身が交わる刹那、蓮は聖剣の鍔の根元――疲労のたまった一点だけを、爪先ほどの角度で叩く。
ぱき、と微細な亀裂が走った。
そこへ彼は、ごく短い呟きを落とす。
「《リサイクル:用途変更》」
聖剣は“剣”をやめた。
炎は止まり、刃はただの導線に戻る。
悠真の手から力が抜け、金属が床に跳ねた音が夜に広がった。
静寂。
悠真は、目の前の現実を理解できていない顔で立ち尽くす。
蓮はゆっくりと息を吐いた。
「……まだ、間に合う」
「何が、だ」
「お前が“自分の足で立つ”なら、それを再生の材料にできる」
「ふざけるな」
悠真の声が、今度は低く、湿っていた。
「お前はいつも上からだ。手を伸ばして、哀れんで、正しさぶって……俺は、俺は――!」
彼は拳を握り、黒い祝印に最後の魔力を叩きつける。
掌が焼ける匂い。
祝印は不気味に光り、断たれた聖剣に代わる“仮の刃”を形づくった。
セリナが息を呑む。「無理やり自身の命脈を“刃”に変えてる……!」
リアの喉が鳴る。「やべぇ。自分ごと燃やす気だ」
蓮は一歩、前へ。
右手をひらき、左の胸元へあてる。深く吸って、吐く。
「《リサイクル:譲渡》」
彼の体から抜けた青白い光が、薄い膜となって悠真の周りを包む。
悠真が振り下ろす。
黒い刃は膜に触れ――“別の形”にほどけた。
怒りと焦燥で荒れ狂っていた魔力は、光の欠片に分解され、地面のひびへ吸い込まれていく。
ひびはやがて、草の芽のような淡緑の光をふっと灯した。
凍った空気が、解けたような気がした。
「やめろ……返せ、俺の力を返せ!」
「返したよ」蓮は言う。
「本来の循環へ」
悠真の膝が落ちた。肩で荒い息を吐き、俯く。
夜風が、汗と煤の匂いを攫っていく。
蓮は剣を納め、しばらく黙って彼を見下ろしていた。
高台から見守る玲奈の喉が熱くなる。唇を噛み、両手を胸に当てる。
(止めて、なんて言わない。これは二人の戦い。――でも、どうか、殺さないで)
彼女の掌に伝わる鼓動は早いのに、不思議と恐怖だけではなかった。どこか、救いに似た痛みがある。
――
「立てるか」
蓮の声は低い。
悠真は顔を上げない。「……立てって言うのか。俺に、今さら」
「立つかどうかはお前が決める。俺は“壊さない”。ただ、それだけだ」
「お前は本当に、憎たらしい。昔からそうだ。何も持ってないくせに、核心だけ掴む」
「何も持ってないから、拾うしかないだけだよ」
言葉が続かない。
悠真は拳を握り、地面を殴った。痛みが遅れてやってくる。
「……勝てない。どれだけ“勇者”にしがみついても、お前には勝てない」
「勇者だから勝てないんじゃない。お前が“勇者しかやらない”から、負けるんだ」
悠真が顔を上げた。
黒い涙のような煤が頬に筋を作っている。
「篠原蓮……」
その呼び方に、かつての軽蔑は混ざっていなかった。ただ、空洞の響き。
蓮は言葉を返さない。踵を返し、聖堂の影から外へ歩き出す。
「待て!」
立ち上がろうとして、悠真は崩れた。力が抜ける。
代わりに、別の力が耳の奥で囁いた。
――『まだ終わっていない。お前は私の剣。異端を廃棄しなさい』
冷たい女の声。機械を透かすような、感情のない旋律。
悠真の視界に、白い紗がかかる。
蓮は一瞬だけ振り返り、その空を睨んだ。
声は聞こえない。けれど、確かに“操作”の気配はあった。
「……やめろ」
空に言う。誰に届くとも知れない言葉。
「こいつは人間だ」
応えはない。
蓮はそれ以上追わなかった。追えば、彼の“自力で立つ機会”を奪う。
背後で悠真が荒い息を吐き、両手で顔を覆う音だけが、夜に残った。
――
夜明け前、蓮は城門に戻った。
結界の縁で待っていたリアが、彼の胸を拳で小突く。「遅ぇ」
「ごめん」
「謝るな。……で?」
「生きてる。まだ折れてない。――だから、終わってない」
セリナが袖を摘む。「市街地の被害、ゼロ。あなたの“譲渡”は、結界の維持効率まで上げた。……まったく、規格外」
蓮は苦笑した。「直しただけだ」
見張り台の上で、玲奈がそっと安堵の息を吐いた。
泣かない。ここで泣くのは違う。
彼女はマントの裾を握り、門の下で戻ってくる背中へ深く頭を下げた。
(ありがとう。――でも、まだ言わない。言葉で済ませない)
東の稜線が白む。
闇の端が薄れていくとともに、崩れた聖堂跡から人の気配は消えていた。
悠真はきっと、またどこかで立とうとする。
それが“神の声”に引かれる足か、自分の意志か――次は、そこで決まる。
蓮は門上から見える街を見下ろした。
瓦礫の間に灯る小さな灯り。昨夜よりも、わずかに増えている。
「……戻ろう。やることが山ほどある」
リアが尻尾を揺らす。「飯」
セリナが肩をすくめる。「風呂」
蓮は笑った。「仕事」
三人の笑いが、夜明け前の冷えた空気に、ほんの少しだけ温度を足した。
廃都メルディナの外縁――崩れた聖堂跡の方角で、火柱がいくつも咲く。魔力のうねりは風向きを変え、乾いた土と煤の匂いを街へ運んできた。
「来る」
蓮は外壁の上で短く言った。肩の留め具をきゅっと締め直すと、黒鉄の外套が音を立てて落ち着いた。
隣でリアが牙を見せる。「正面から、だな。あの勇者、変に回り道できる性格じゃない」
セリナは指先で淡光の輪を描き、街の上空にかすかな防膜を張る。「市街地には入れない。結界は私と管制塔で維持する。蓮、あなたは……」
「外で止める。ここは俺の街だ。瓦礫でも、ここで生き直してる人がいる」
見張り台に立つ兵の間を、玲奈が駆け抜けてきた。肩で息をしながら、蓮の背に声を投げる。
「危ないわ、やめて――って言っても、行くんだよね」
「行くよ」蓮は振り返らない。
「……わかった。じゃあ私もできることをする。避難誘導は任せて」
その言葉にだけ、蓮は小さく頷いた。
リアが目を細める。「戻ってこいよ、蓮。あんたがいないメルディナなんて、ただの墓場だ」
外門が開く音が低く鳴り、夜風が吹き込む。蓮はひとり歩を進め、闇の原へ降りていった。
――
崩れた聖堂跡に、赤黒い光が澱んでいた。
御影石の床にひびが走り、折れた祭壇の上に人影が立つ。聖剣を携え、黒い紋の火を掌で転がす、その姿――。
「篠原蓮」
名を吐く声に、かつての澄んだ響きはない。
蓮は足を止め、ただ短く答えた。
「……悠真」
勇者の瞳に、怒りと怯えが交互に点滅する。
「ここで終わりにしてやる。お前みたいな異端がいるから、世界は壊れるんだ」
「世界を壊したのは“選ばれた自分しか認めない”心だよ」
「黙れ!」
聖剣が閃き、夜が裂けた。赤黒い斬光が地をえぐり、瓦礫が爆ぜる。蓮は身を沈めて踏み込み、腰の《リバース・ブレード》で受け流した。
火花は赤く散ったが、その赤はすぐに青へ転じて宙に吸い込まれる。
悠真が目を剥く。「なにをした!」
「お前の魔力の流れを“組み直した”。怒りで乱れた循環は、放っておくと自分を焼く」
「ふざけるなぁぁっ!」
斬撃が連なり、輪のような炎が襲い来る。蓮は後退しつつ足先で瓦礫を弾き、崩れた梁の金具を掴むと、掌でほどけた魔力線を撚り直す。ぼろ布のようだった古鉄が、一瞬だけ“道具”の姿を取り戻す。
投げた。
金具は炎輪の節にぴたりと噛み、暴走する力を地面へと落とした。地が唸り、爆ぜた熱が夜気に散る。
高台の陰から、玲奈が息を呑む音がした。リアは遠巻きに状況を見切り、低く呟く。「あいつ、完全に“勇者”を捨てきれてねぇ。神にしがみついたまま、足場だけ無理に動かしてる」
セリナは結界の縁で指を動かし、演算式を重ねる。「蓮の調整が間に合えば、街への被害はゼロにできる。……彼、あの場で“直しながら戦ってる”」
――
「終わりだ!」
悠真が上段から叩き落とす。黒い祝印が掌で脈打ち、聖剣の刃が異様な伸びを見せた。
蓮は――退かない。
刃を斜めに滑らせ、聖剣の腰をやわらかく抱くように受ける。そのまま、柄の芯で“回す”。
きぃん。
乾いた音のあと、聖剣の光が一瞬だけ途切れた。
そこで蓮は左手を柄に添え、囁くようにスキルを滑らせる。
「《リサイクル:拘束解除》」
からん――と、床に何かが落ちた。
聖剣の鞘に隠れていた微細な制御環。女神の祝印に反応して“本来の柄”を乗っ取る細工だ。
悠真の顔から血の気が引く。「いつ……外した!」
「最初に構えを見た時にわかった。握りが“剣”じゃなく“鍵”の持ち方だったから」
「っ、うるさい!」
怒りは勢いになる。だが、正確さは奪う。
悠真は力任せに踏み込み、連続の突きを叩き込む。
蓮は一歩も退かず、点で受けて線で逃がし、余剰の魔力だけを吸って再編する。受けた火は青く淡く、夜露のように地へ落ちて消えた。
「やめろ……やめろよ、蓮!」
「やめない。お前が“自分で止まる”まで、俺は壊さない」
「俺を哀れむなぁぁっ!」
悠真は跳躍し、天から降るような斬を振り下ろす。
蓮は地を小さく蹴り、斜めに滑り込んだ。
刀身と刀身が交わる刹那、蓮は聖剣の鍔の根元――疲労のたまった一点だけを、爪先ほどの角度で叩く。
ぱき、と微細な亀裂が走った。
そこへ彼は、ごく短い呟きを落とす。
「《リサイクル:用途変更》」
聖剣は“剣”をやめた。
炎は止まり、刃はただの導線に戻る。
悠真の手から力が抜け、金属が床に跳ねた音が夜に広がった。
静寂。
悠真は、目の前の現実を理解できていない顔で立ち尽くす。
蓮はゆっくりと息を吐いた。
「……まだ、間に合う」
「何が、だ」
「お前が“自分の足で立つ”なら、それを再生の材料にできる」
「ふざけるな」
悠真の声が、今度は低く、湿っていた。
「お前はいつも上からだ。手を伸ばして、哀れんで、正しさぶって……俺は、俺は――!」
彼は拳を握り、黒い祝印に最後の魔力を叩きつける。
掌が焼ける匂い。
祝印は不気味に光り、断たれた聖剣に代わる“仮の刃”を形づくった。
セリナが息を呑む。「無理やり自身の命脈を“刃”に変えてる……!」
リアの喉が鳴る。「やべぇ。自分ごと燃やす気だ」
蓮は一歩、前へ。
右手をひらき、左の胸元へあてる。深く吸って、吐く。
「《リサイクル:譲渡》」
彼の体から抜けた青白い光が、薄い膜となって悠真の周りを包む。
悠真が振り下ろす。
黒い刃は膜に触れ――“別の形”にほどけた。
怒りと焦燥で荒れ狂っていた魔力は、光の欠片に分解され、地面のひびへ吸い込まれていく。
ひびはやがて、草の芽のような淡緑の光をふっと灯した。
凍った空気が、解けたような気がした。
「やめろ……返せ、俺の力を返せ!」
「返したよ」蓮は言う。
「本来の循環へ」
悠真の膝が落ちた。肩で荒い息を吐き、俯く。
夜風が、汗と煤の匂いを攫っていく。
蓮は剣を納め、しばらく黙って彼を見下ろしていた。
高台から見守る玲奈の喉が熱くなる。唇を噛み、両手を胸に当てる。
(止めて、なんて言わない。これは二人の戦い。――でも、どうか、殺さないで)
彼女の掌に伝わる鼓動は早いのに、不思議と恐怖だけではなかった。どこか、救いに似た痛みがある。
――
「立てるか」
蓮の声は低い。
悠真は顔を上げない。「……立てって言うのか。俺に、今さら」
「立つかどうかはお前が決める。俺は“壊さない”。ただ、それだけだ」
「お前は本当に、憎たらしい。昔からそうだ。何も持ってないくせに、核心だけ掴む」
「何も持ってないから、拾うしかないだけだよ」
言葉が続かない。
悠真は拳を握り、地面を殴った。痛みが遅れてやってくる。
「……勝てない。どれだけ“勇者”にしがみついても、お前には勝てない」
「勇者だから勝てないんじゃない。お前が“勇者しかやらない”から、負けるんだ」
悠真が顔を上げた。
黒い涙のような煤が頬に筋を作っている。
「篠原蓮……」
その呼び方に、かつての軽蔑は混ざっていなかった。ただ、空洞の響き。
蓮は言葉を返さない。踵を返し、聖堂の影から外へ歩き出す。
「待て!」
立ち上がろうとして、悠真は崩れた。力が抜ける。
代わりに、別の力が耳の奥で囁いた。
――『まだ終わっていない。お前は私の剣。異端を廃棄しなさい』
冷たい女の声。機械を透かすような、感情のない旋律。
悠真の視界に、白い紗がかかる。
蓮は一瞬だけ振り返り、その空を睨んだ。
声は聞こえない。けれど、確かに“操作”の気配はあった。
「……やめろ」
空に言う。誰に届くとも知れない言葉。
「こいつは人間だ」
応えはない。
蓮はそれ以上追わなかった。追えば、彼の“自力で立つ機会”を奪う。
背後で悠真が荒い息を吐き、両手で顔を覆う音だけが、夜に残った。
――
夜明け前、蓮は城門に戻った。
結界の縁で待っていたリアが、彼の胸を拳で小突く。「遅ぇ」
「ごめん」
「謝るな。……で?」
「生きてる。まだ折れてない。――だから、終わってない」
セリナが袖を摘む。「市街地の被害、ゼロ。あなたの“譲渡”は、結界の維持効率まで上げた。……まったく、規格外」
蓮は苦笑した。「直しただけだ」
見張り台の上で、玲奈がそっと安堵の息を吐いた。
泣かない。ここで泣くのは違う。
彼女はマントの裾を握り、門の下で戻ってくる背中へ深く頭を下げた。
(ありがとう。――でも、まだ言わない。言葉で済ませない)
東の稜線が白む。
闇の端が薄れていくとともに、崩れた聖堂跡から人の気配は消えていた。
悠真はきっと、またどこかで立とうとする。
それが“神の声”に引かれる足か、自分の意志か――次は、そこで決まる。
蓮は門上から見える街を見下ろした。
瓦礫の間に灯る小さな灯り。昨夜よりも、わずかに増えている。
「……戻ろう。やることが山ほどある」
リアが尻尾を揺らす。「飯」
セリナが肩をすくめる。「風呂」
蓮は笑った。「仕事」
三人の笑いが、夜明け前の冷えた空気に、ほんの少しだけ温度を足した。
43
あなたにおすすめの小説
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件
fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。
チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。
しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。
気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。
笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
最弱と蔑まれた魔導士、実は千の神に好かれていた件~追放されたけど本人だけ無自覚に世界最強でした~
えりぽん
ファンタジー
王国最弱の魔導士と呼ばれ、勇者一行を追放された青年リオン。だがその身体には「千の神々の祝福」が宿っていた。にもかかわらず本人は全く自覚なし──。放浪の果てに助けた村娘は神の血を引く末裔、戦場で出会った剣姫は過去の罪を背負う元勇者。いつの間にか、リオンの周りには世界を動かす存在ばかりが集まり始める。
無自覚に世界を救っていく男が、気づかぬうちに覇王と呼ばれるまでの軌跡。
『農業スキルはいらない』と追放されたが、魔境の開拓ライフが勝手に世界配信されていた件。聖女や竜が集まり、元仲間は完全に詰みました
たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ。魔王討伐に『農業』スキルなんて役に立たないからな」
幼馴染の勇者からそう告げられ、俺、アレンはパーティを追放された。
あてがわれたのは、人が住めないと言われるS級危険地帯『死の荒野』。
しかし、彼らは知らなかった。俺の農業スキルが、レベルアップによって神の領域(ギフト)に達していたことを。
俺が耕せば荒野は豊潤な大地に変わり、植えた野菜はステータスを爆上げする神話級の食材になり、手にしたクワは聖剣すら凌駕する最強武器になる!
「ここなら誰にも邪魔されず、最高の野菜が作れそうだ」
俺は荒野で拾ったフェンリル(美少女化)や、野菜の匂いにつられた聖女様、逃げてきたエルフの姫君たちと、にぎやかで楽しいスローライフを送ることにした。
その一方で、俺の生活が、荒野に落ちていた古代のアーティファクトによって、勝手に世界中に『生配信』されていることには全く気づいていなかった。
「え、この野菜食べただけで瀕死の重傷が治った!?」
「主様、強すぎます! ドラゴンを大根で叩き落とすなんて!」
『コメント:なんだこの配信……神か?』
『コメント:勇者パーティが苦戦してるダンジョン、この人の家の庭じゃね?』
これは、無自覚に最強の農園を作り上げた男が、世界中から崇拝され、一方で彼を追放した勇者パーティが没落していく様子を、リスナーと共にほのぼのと見守る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる