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第4話:秘密を知ってる人
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朝。
出社してすぐ、真由は自分の席に腰を下ろした。
心臓はまだ、昨夜の通知の余韻で落ち着かない。
《@WORK_LIFE_BALANCE:明日、話せるだろう。いつもの場所で。》
“いつもの場所”――会社。
あれは偶然? それとも本当に……?
(もし本当に、あのアカウントが課長だったら……)
(いや、落ち着け真由。ただの偶然だって)
深呼吸。
隣の席の成田が、コーヒー片手に覗き込む。
「なぁ真由、昨日なんか顔赤くなかった?」
「へ? そ、そんなことないよ!」
「また夜更かししてたろ~。スマホ見すぎ」
「うっ……」
図星。
「もしかして“理想の上司”チェックしてた?」
「ち、違うっ!」
「お前、最近あのアカウントのリプ欄で常連だもんな~」
「ちょっ、なんでそれ知って──」
「……気づく人は気づくもんだよ、藤原」
背後から静かな声。
柊が立っていた。
「か、課長……!」
「SNSの話題、社内で広げるな。公私混同だ」
「す、すみません!」
「……ただし、君の文章は悪くない」
(……え?)
その一言だけ残して去っていく背中。
まるで“リプ欄を読んでます”と言わんばかりのタイミング。
⸻
昼。
エレベーターホールで、広報の美咲が声をかけてきた。
「ねえ真由ちゃん、最近柊課長と仲良くない?」
「えっ、そ、そんなことないです!」
「ふ~ん? 課長が人を褒めるなんて珍しいから、ちょっと気になって」
「えっ、褒め……ました?」
「この前のプレゼンの時よ。“彼女の提案には温度がある”って」
「(まさか、その“温度”って……)」
美咲はにやっと笑う。
「ま、あの人、昔からちょっと変わってるからね。優しすぎるの、裏で損するタイプ」
「優しすぎる……」
「そう、匿名とかで発散してそうなくらい」
その言葉に、真由の心臓が跳ねた。
(“匿名で発散”……まさにあのアカウント)
⸻
午後。
会議室の外。
ドアの向こうから、柊と部長の声が聞こえてくる。
「柊、お前、例のSNSの件……本当に関係ないんだな?」
「……もちろんです」
「最近“理想の上司”とかいうアカウント、社内の情報を連想させる投稿がある。
一部じゃお前じゃないかって噂になってるんだ」
「噂、ですか」
「まぁ、信じてるけどな。柊がそんな時間あるわけないし」
真由は思わず身を固くした。
(やっぱり……課長なの?)
柊が小さく息を吐く音がした。
「俺があのアカウントなら、もっとマシな文章を書きますよ」
その一言に、真由の胸がずきんと痛む。
(……否定した。けど、言い方が“完全否定”じゃない)
⸻
夕方。
帰り支度をしていた真由のもとに、柊が近づいてきた。
「藤原、少し話がある」
「……はい」
連れて行かれたのは、オフィスの外。
社屋の裏にある、小さな喫煙スペース。
風が少し冷たい。
「ここ、静かで落ち着くんですか?」
「まぁな。考えごとをするにはちょうどいい」
柊はポケットに手を入れたまま、空を見上げる。
沈黙。
その間がやけに長く感じる。
「……藤原」
「はい」
「君、“WORK_LIFE_BALANCE”ってアカウントを知っているか?」
――心臓が止まりかけた。
「えっ……?」
「最近、社内で噂になっている。俺の耳にも入った」
「そ、そうなんですか……」
「もし知っていたら、妙な投稿に反応したり、社内で話題にしたりしないように」
「は、はい……」
その言葉は、注意に聞こえたけれど、
その目は、何かを探っているようでもあった。
「……課長は、そのアカウントの人だと思いますか?」
一瞬の沈黙。
「さぁな。ただ……あの言葉は、よく見ている」
風が吹く。
その一言が、まるで告白みたいに胸に刺さった。
⸻
夜。
帰宅後、真由は机に突っ伏していた。
心臓の音がまだ止まらない。
(“よく見ている”って……どういう意味?)
(やっぱり、私があのアカウントの“彼女”なの?)
スマホを開く。
通知が一件。
《@WORK_LIFE_BALANCE:今日の空はきれいだった。
伝えられない気持ちは、風に預けよう。》
その投稿には、一枚の写真。
ビルの屋上から見た、今日と同じ空。
柊と話した、あの時間の空だ。
(……確定、じゃない?)
画面を見つめる真由の頬が、熱く染まる。
そして、もうひとつ通知。
《@mayu_worklifeさんがタグ付けされました》
「えっ!?」
投稿を見ると、
“理想の上司に救われた一人です”という誰かのまとめポスト。
そこに、自分のリプと、
そして“WORK_LIFE_BALANCE”のコメントが並んでいた。
(……もう隠せない)
スマホを握りしめる。
“彼の正体”を知る人が、増えていく。
出社してすぐ、真由は自分の席に腰を下ろした。
心臓はまだ、昨夜の通知の余韻で落ち着かない。
《@WORK_LIFE_BALANCE:明日、話せるだろう。いつもの場所で。》
“いつもの場所”――会社。
あれは偶然? それとも本当に……?
(もし本当に、あのアカウントが課長だったら……)
(いや、落ち着け真由。ただの偶然だって)
深呼吸。
隣の席の成田が、コーヒー片手に覗き込む。
「なぁ真由、昨日なんか顔赤くなかった?」
「へ? そ、そんなことないよ!」
「また夜更かししてたろ~。スマホ見すぎ」
「うっ……」
図星。
「もしかして“理想の上司”チェックしてた?」
「ち、違うっ!」
「お前、最近あのアカウントのリプ欄で常連だもんな~」
「ちょっ、なんでそれ知って──」
「……気づく人は気づくもんだよ、藤原」
背後から静かな声。
柊が立っていた。
「か、課長……!」
「SNSの話題、社内で広げるな。公私混同だ」
「す、すみません!」
「……ただし、君の文章は悪くない」
(……え?)
その一言だけ残して去っていく背中。
まるで“リプ欄を読んでます”と言わんばかりのタイミング。
⸻
昼。
エレベーターホールで、広報の美咲が声をかけてきた。
「ねえ真由ちゃん、最近柊課長と仲良くない?」
「えっ、そ、そんなことないです!」
「ふ~ん? 課長が人を褒めるなんて珍しいから、ちょっと気になって」
「えっ、褒め……ました?」
「この前のプレゼンの時よ。“彼女の提案には温度がある”って」
「(まさか、その“温度”って……)」
美咲はにやっと笑う。
「ま、あの人、昔からちょっと変わってるからね。優しすぎるの、裏で損するタイプ」
「優しすぎる……」
「そう、匿名とかで発散してそうなくらい」
その言葉に、真由の心臓が跳ねた。
(“匿名で発散”……まさにあのアカウント)
⸻
午後。
会議室の外。
ドアの向こうから、柊と部長の声が聞こえてくる。
「柊、お前、例のSNSの件……本当に関係ないんだな?」
「……もちろんです」
「最近“理想の上司”とかいうアカウント、社内の情報を連想させる投稿がある。
一部じゃお前じゃないかって噂になってるんだ」
「噂、ですか」
「まぁ、信じてるけどな。柊がそんな時間あるわけないし」
真由は思わず身を固くした。
(やっぱり……課長なの?)
柊が小さく息を吐く音がした。
「俺があのアカウントなら、もっとマシな文章を書きますよ」
その一言に、真由の胸がずきんと痛む。
(……否定した。けど、言い方が“完全否定”じゃない)
⸻
夕方。
帰り支度をしていた真由のもとに、柊が近づいてきた。
「藤原、少し話がある」
「……はい」
連れて行かれたのは、オフィスの外。
社屋の裏にある、小さな喫煙スペース。
風が少し冷たい。
「ここ、静かで落ち着くんですか?」
「まぁな。考えごとをするにはちょうどいい」
柊はポケットに手を入れたまま、空を見上げる。
沈黙。
その間がやけに長く感じる。
「……藤原」
「はい」
「君、“WORK_LIFE_BALANCE”ってアカウントを知っているか?」
――心臓が止まりかけた。
「えっ……?」
「最近、社内で噂になっている。俺の耳にも入った」
「そ、そうなんですか……」
「もし知っていたら、妙な投稿に反応したり、社内で話題にしたりしないように」
「は、はい……」
その言葉は、注意に聞こえたけれど、
その目は、何かを探っているようでもあった。
「……課長は、そのアカウントの人だと思いますか?」
一瞬の沈黙。
「さぁな。ただ……あの言葉は、よく見ている」
風が吹く。
その一言が、まるで告白みたいに胸に刺さった。
⸻
夜。
帰宅後、真由は机に突っ伏していた。
心臓の音がまだ止まらない。
(“よく見ている”って……どういう意味?)
(やっぱり、私があのアカウントの“彼女”なの?)
スマホを開く。
通知が一件。
《@WORK_LIFE_BALANCE:今日の空はきれいだった。
伝えられない気持ちは、風に預けよう。》
その投稿には、一枚の写真。
ビルの屋上から見た、今日と同じ空。
柊と話した、あの時間の空だ。
(……確定、じゃない?)
画面を見つめる真由の頬が、熱く染まる。
そして、もうひとつ通知。
《@mayu_worklifeさんがタグ付けされました》
「えっ!?」
投稿を見ると、
“理想の上司に救われた一人です”という誰かのまとめポスト。
そこに、自分のリプと、
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(……もう隠せない)
スマホを握りしめる。
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