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第18話:対談という名の告白
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翌週。
社内イベント「SNSと働き方の未来」当日。
ステージ中央のスクリーンには、
白い文字でこう表示されていた。
『特別対談:発信する人×受け取る人』
柊 誠 × 藤原 真由
(……ついに、この日が来ちゃった)
観客席には、社内外の人たち。
広報、営業、経営陣まで勢ぞろい。
そのざわめきが心臓の鼓動と重なっていく。
⸻
ステージ袖。
マイクをつけられながら、真由が深呼吸していると、
隣から落ち着いた声。
「緊張してる?」
「そりゃしますよ……! 社内の人全員見てるんですよ!?」
「大丈夫。君は言葉が強い」
「……またそういう言い方して」
「事実だ」
「そういう“事実”が一番ずるいんです」
柊は少し笑って、マイクを確認した。
「……行こうか」
「はい」
⸻
ステージ中央。
拍手に包まれながら、二人が並んで座る。
司会が軽いトーンで話し始める。
「本日は特別対談ということで、“理想の上司”としても話題になった
柊さん、そして“発信を支えた社員”の藤原さんにお越しいただきました!」
「理想の上司」
その言葉に、会場がどっと沸く。
真由の心臓が跳ねた。
(わぁ……思いっきり言っちゃった)
柊は落ち着いた声でマイクを持つ。
「“理想の上司”という言葉は、僕にとって重い言葉です。
完璧な人間なんていない。
でも、誰かを想って動くことは、誰にでもできる――
そう信じています。」
拍手。
けれど、彼の視線は真由に向いたまま。
(……今、完全に私を見て言いましたよね)
司会が続ける。
「では、藤原さん。
“受け取る側”として、柊さんの言葉に何を感じましたか?」
真由のマイクが震える。
けれど、もう逃げなかった。
「……柊さんの言葉には、ちゃんと“人”がいると思いました。
誰かを否定するためじゃなくて、
“誰かを見つめてる言葉”だって感じます。」
会場が静まり返る。
柊が、ゆっくり頷く。
「ありがとうございます」
(あ、やばい……“課長モード”じゃなくて“誠さんモード”だ)
⸻
司会「では、少し踏み込んだ質問を。
“お二人の間には、どんな“距離”がありますか?”」
(ど、距離!?)
会場がざわつく。
美咲が後ろでニヤニヤしているのが見えた。
柊は少しだけ笑ってから言った。
「距離……難しい質問ですね。
でも、僕たちは“隣にいるけど、ちゃんと敬意がある距離”を大切にしてます」
「隣にいるけど……」
その言葉に、真由の喉が詰まる。
(“隣”って……そんな)
司会「藤原さんは?」
「えっ、あ、えっと……」
観客の視線が一斉に集まる。
「私は……たぶん、“近すぎず、遠すぎない”距離がいいと思ってます。
でも――」
少し息を吸う。
柊の横顔を見た。
「“想い”だけは、ちゃんと同じ場所にあるって信じてます」
会場の空気が変わった。
ほんの一瞬、時間が止まったような静けさ。
柊がゆっくりと笑う。
「……それが一番、理想の距離だな」
(あ、今……完全に“告白”した)
⸻
イベント終了後。
控室。
「……すごかったな」
「ど、どうでした!? 変なこと言ってませんでした!?」
「いや、完璧だった」
「ほんとに!?」
「“想いが同じ場所にある”――あれは、反則だ」
「っ……言わないでください!」
柊が少し笑いながら、資料を鞄にしまう。
「“対談という名の告白”、って言われてるぞ」
「だ、誰がそんなことを!?」
「美咲」
「あの人~~~!」
笑い合う声が、控室の静けさに溶けていく。
「……藤原」
「はい?」
「ありがとう」
「え?」
「君が隣にいてくれるおかげで、
俺は“発信する勇気”を取り戻せた」
「……課長」
「もう、“課長”じゃなくてもいいだろ」
「……じゃあ、“誠さん”」
彼の目がやわらかく細められる。
「その呼び方、好きだ」
「ずるい」
「また言われたな」
(何回でも言います。
ずるいくらい、この人が好きだから)
⸻
夜。
スマホの通知。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“想い”は伝えるためにある。
それを隠す言葉なんて、いらない。」
《@mayu_worklife》
「じゃあ、今日の言葉は全部“本音”ってことで。」
リプライが並ぶ。
そして、誰もが微笑んで“いいね”を押した。
社内イベント「SNSと働き方の未来」当日。
ステージ中央のスクリーンには、
白い文字でこう表示されていた。
『特別対談:発信する人×受け取る人』
柊 誠 × 藤原 真由
(……ついに、この日が来ちゃった)
観客席には、社内外の人たち。
広報、営業、経営陣まで勢ぞろい。
そのざわめきが心臓の鼓動と重なっていく。
⸻
ステージ袖。
マイクをつけられながら、真由が深呼吸していると、
隣から落ち着いた声。
「緊張してる?」
「そりゃしますよ……! 社内の人全員見てるんですよ!?」
「大丈夫。君は言葉が強い」
「……またそういう言い方して」
「事実だ」
「そういう“事実”が一番ずるいんです」
柊は少し笑って、マイクを確認した。
「……行こうか」
「はい」
⸻
ステージ中央。
拍手に包まれながら、二人が並んで座る。
司会が軽いトーンで話し始める。
「本日は特別対談ということで、“理想の上司”としても話題になった
柊さん、そして“発信を支えた社員”の藤原さんにお越しいただきました!」
「理想の上司」
その言葉に、会場がどっと沸く。
真由の心臓が跳ねた。
(わぁ……思いっきり言っちゃった)
柊は落ち着いた声でマイクを持つ。
「“理想の上司”という言葉は、僕にとって重い言葉です。
完璧な人間なんていない。
でも、誰かを想って動くことは、誰にでもできる――
そう信じています。」
拍手。
けれど、彼の視線は真由に向いたまま。
(……今、完全に私を見て言いましたよね)
司会が続ける。
「では、藤原さん。
“受け取る側”として、柊さんの言葉に何を感じましたか?」
真由のマイクが震える。
けれど、もう逃げなかった。
「……柊さんの言葉には、ちゃんと“人”がいると思いました。
誰かを否定するためじゃなくて、
“誰かを見つめてる言葉”だって感じます。」
会場が静まり返る。
柊が、ゆっくり頷く。
「ありがとうございます」
(あ、やばい……“課長モード”じゃなくて“誠さんモード”だ)
⸻
司会「では、少し踏み込んだ質問を。
“お二人の間には、どんな“距離”がありますか?”」
(ど、距離!?)
会場がざわつく。
美咲が後ろでニヤニヤしているのが見えた。
柊は少しだけ笑ってから言った。
「距離……難しい質問ですね。
でも、僕たちは“隣にいるけど、ちゃんと敬意がある距離”を大切にしてます」
「隣にいるけど……」
その言葉に、真由の喉が詰まる。
(“隣”って……そんな)
司会「藤原さんは?」
「えっ、あ、えっと……」
観客の視線が一斉に集まる。
「私は……たぶん、“近すぎず、遠すぎない”距離がいいと思ってます。
でも――」
少し息を吸う。
柊の横顔を見た。
「“想い”だけは、ちゃんと同じ場所にあるって信じてます」
会場の空気が変わった。
ほんの一瞬、時間が止まったような静けさ。
柊がゆっくりと笑う。
「……それが一番、理想の距離だな」
(あ、今……完全に“告白”した)
⸻
イベント終了後。
控室。
「……すごかったな」
「ど、どうでした!? 変なこと言ってませんでした!?」
「いや、完璧だった」
「ほんとに!?」
「“想いが同じ場所にある”――あれは、反則だ」
「っ……言わないでください!」
柊が少し笑いながら、資料を鞄にしまう。
「“対談という名の告白”、って言われてるぞ」
「だ、誰がそんなことを!?」
「美咲」
「あの人~~~!」
笑い合う声が、控室の静けさに溶けていく。
「……藤原」
「はい?」
「ありがとう」
「え?」
「君が隣にいてくれるおかげで、
俺は“発信する勇気”を取り戻せた」
「……課長」
「もう、“課長”じゃなくてもいいだろ」
「……じゃあ、“誠さん”」
彼の目がやわらかく細められる。
「その呼び方、好きだ」
「ずるい」
「また言われたな」
(何回でも言います。
ずるいくらい、この人が好きだから)
⸻
夜。
スマホの通知。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“想い”は伝えるためにある。
それを隠す言葉なんて、いらない。」
《@mayu_worklife》
「じゃあ、今日の言葉は全部“本音”ってことで。」
リプライが並ぶ。
そして、誰もが微笑んで“いいね”を押した。
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