上司がSNSでバズってる件

KABU.

文字の大きさ
17 / 50

第17話:距離の講演

しおりを挟む
昼下がりのオフィス。
いつもより少しざわついた空気。

「ねぇ、“柊さんの講演”って社内全員参加なの?」
「うん、みたい。『SNSと人の距離』ってタイトルだって!」
「まじか~。あの人、炎上したのに今度は講演とか、メンタル強すぎ!」

(……炎上、じゃなくて。あの人なりの“答え”なんだよ)

真由は胸の奥でつぶやいた。
画面には、社内告知メール。

【講演:柊 誠】
日時:金曜15:00~
場所:大会議室
テーマ:「SNSと人の距離」

(“距離”か……)
まるで、自分たちのことみたい。



金曜。
午後三時。
大会議室は満席だった。

前方のスクリーンに映るタイトルスライド。
「SNSと人の距離」

壇上には柊。
マイクを持ち、ゆっくりと話し始める。

「SNSは、便利なツールです。
 人と人をつなぐ反面――“距離”を曖昧にするものでもある。」

その声はいつもより低く、落ち着いていた。

「僕は、言葉を通して誰かを励ましたいと思っていました。
 けれど、その“距離”を見誤ると、
 相手を傷つけることもある。」

会場が静まり返る。
真由は胸の奥がぎゅっと痛んだ。

(……私のこと、言ってる)

柊は一瞬、客席を見渡す。
真由の視線と、ふっと交わった。

「でも――
 “距離”を怖がることと、“人を避ける”ことは違う。
 どんなに誤解されても、
 本気で誰かを想った気持ちは、嘘じゃない。」

小さなざわめきが起きた。
誰もが“あの事件”を思い出している。

「僕が伝えたかったのは、完璧な言葉じゃない。
 ただ、“誰かを想う”ことの価値です。」

(……やっぱり、課長だ)
(あの人の言葉には、いつも“人”がいる)



講演終了後。
拍手が鳴り響く中、真由は立ち上がれなかった。

「……すごいな」
隣の成田がぽつりと呟く。
「まるで恋愛スピーチみたいだったぞ、今の」
「そ、そんなこと……!」
「いや、俺、ちょっと泣きそうだった」

(……だよね。
 あれ、きっと“誰か”に向けて話してた)



講演後。
会場を出ようとしたところで、
背後から声。

「藤原」

振り向くと、そこに彼が立っていた。
マイクを外したばかりのスーツ姿。
いつもより少しラフな笑顔。

「お疲れ様です……すごく、良かったです」
「ありがとう」
「でも……ちょっと、心臓に悪いです」
「そうか」
「“誰かを想った気持ちは嘘じゃない”って、
 あれ、まるで――」

「……君に向けて言ったみたいだった?」
「えっ……!」
「そのままだよ」

一瞬、息が止まった。

「でも課長……社内でそんなこと言ったら、また――」
「構わない」
「っ……」
「もう、“距離”で隠すのはやめた」

その言葉に、真由の目が潤む。

「……課長、ずるいです」
「三度目だな、それ」
「ほんとにずるいんです」

柊が小さく笑って、
ポケットから何かを取り出した。

名刺サイズのカード。
「SNS講演担当:柊誠 × 藤原真由」

「来週、対談企画がある。君と一緒に出てほしい」
「えっ!?」
「“発信する側”と“受け取る側”、両方の視点で語る。
 君しかいないと思った」

「で、でも……私が出たら、また噂が――」
「噂を恐れて本音を隠すのは、もう終わりにしよう」

静かな声。
その一言で、何かがほどけた。

「……わかりました」
「ありがとう」

(この人はいつも、真面目すぎるほど真っ直ぐで)
(でも、だからこそ――惹かれる)



夜。
帰り道。
スマホが震える。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“距離”は言い訳じゃない。
 想いを伝えるための時間だ。」

(……もう、これは完全に)

画面を見つめながら、
真由の頬がゆっくり赤く染まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

可愛い女性の作られ方

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。 起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。 なんだかわからないまま看病され。 「優里。 おやすみなさい」 額に落ちた唇。 いったいどういうコトデスカー!? 篠崎優里  32歳 独身 3人編成の小さな班の班長さん 周囲から中身がおっさん、といわれる人 自分も女を捨てている × 加久田貴尋 25歳 篠崎さんの部下 有能 仕事、できる もしかして、ハンター……? 7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!? ****** 2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。 いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

10 sweet wedding

國樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...