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第17話:距離の講演
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昼下がりのオフィス。
いつもより少しざわついた空気。
「ねぇ、“柊さんの講演”って社内全員参加なの?」
「うん、みたい。『SNSと人の距離』ってタイトルだって!」
「まじか~。あの人、炎上したのに今度は講演とか、メンタル強すぎ!」
(……炎上、じゃなくて。あの人なりの“答え”なんだよ)
真由は胸の奥でつぶやいた。
画面には、社内告知メール。
【講演:柊 誠】
日時:金曜15:00~
場所:大会議室
テーマ:「SNSと人の距離」
(“距離”か……)
まるで、自分たちのことみたい。
⸻
金曜。
午後三時。
大会議室は満席だった。
前方のスクリーンに映るタイトルスライド。
「SNSと人の距離」
壇上には柊。
マイクを持ち、ゆっくりと話し始める。
「SNSは、便利なツールです。
人と人をつなぐ反面――“距離”を曖昧にするものでもある。」
その声はいつもより低く、落ち着いていた。
「僕は、言葉を通して誰かを励ましたいと思っていました。
けれど、その“距離”を見誤ると、
相手を傷つけることもある。」
会場が静まり返る。
真由は胸の奥がぎゅっと痛んだ。
(……私のこと、言ってる)
柊は一瞬、客席を見渡す。
真由の視線と、ふっと交わった。
「でも――
“距離”を怖がることと、“人を避ける”ことは違う。
どんなに誤解されても、
本気で誰かを想った気持ちは、嘘じゃない。」
小さなざわめきが起きた。
誰もが“あの事件”を思い出している。
「僕が伝えたかったのは、完璧な言葉じゃない。
ただ、“誰かを想う”ことの価値です。」
(……やっぱり、課長だ)
(あの人の言葉には、いつも“人”がいる)
⸻
講演終了後。
拍手が鳴り響く中、真由は立ち上がれなかった。
「……すごいな」
隣の成田がぽつりと呟く。
「まるで恋愛スピーチみたいだったぞ、今の」
「そ、そんなこと……!」
「いや、俺、ちょっと泣きそうだった」
(……だよね。
あれ、きっと“誰か”に向けて話してた)
⸻
講演後。
会場を出ようとしたところで、
背後から声。
「藤原」
振り向くと、そこに彼が立っていた。
マイクを外したばかりのスーツ姿。
いつもより少しラフな笑顔。
「お疲れ様です……すごく、良かったです」
「ありがとう」
「でも……ちょっと、心臓に悪いです」
「そうか」
「“誰かを想った気持ちは嘘じゃない”って、
あれ、まるで――」
「……君に向けて言ったみたいだった?」
「えっ……!」
「そのままだよ」
一瞬、息が止まった。
「でも課長……社内でそんなこと言ったら、また――」
「構わない」
「っ……」
「もう、“距離”で隠すのはやめた」
その言葉に、真由の目が潤む。
「……課長、ずるいです」
「三度目だな、それ」
「ほんとにずるいんです」
柊が小さく笑って、
ポケットから何かを取り出した。
名刺サイズのカード。
「SNS講演担当:柊誠 × 藤原真由」
「来週、対談企画がある。君と一緒に出てほしい」
「えっ!?」
「“発信する側”と“受け取る側”、両方の視点で語る。
君しかいないと思った」
「で、でも……私が出たら、また噂が――」
「噂を恐れて本音を隠すのは、もう終わりにしよう」
静かな声。
その一言で、何かがほどけた。
「……わかりました」
「ありがとう」
(この人はいつも、真面目すぎるほど真っ直ぐで)
(でも、だからこそ――惹かれる)
⸻
夜。
帰り道。
スマホが震える。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“距離”は言い訳じゃない。
想いを伝えるための時間だ。」
(……もう、これは完全に)
画面を見つめながら、
真由の頬がゆっくり赤く染まる。
いつもより少しざわついた空気。
「ねぇ、“柊さんの講演”って社内全員参加なの?」
「うん、みたい。『SNSと人の距離』ってタイトルだって!」
「まじか~。あの人、炎上したのに今度は講演とか、メンタル強すぎ!」
(……炎上、じゃなくて。あの人なりの“答え”なんだよ)
真由は胸の奥でつぶやいた。
画面には、社内告知メール。
【講演:柊 誠】
日時:金曜15:00~
場所:大会議室
テーマ:「SNSと人の距離」
(“距離”か……)
まるで、自分たちのことみたい。
⸻
金曜。
午後三時。
大会議室は満席だった。
前方のスクリーンに映るタイトルスライド。
「SNSと人の距離」
壇上には柊。
マイクを持ち、ゆっくりと話し始める。
「SNSは、便利なツールです。
人と人をつなぐ反面――“距離”を曖昧にするものでもある。」
その声はいつもより低く、落ち着いていた。
「僕は、言葉を通して誰かを励ましたいと思っていました。
けれど、その“距離”を見誤ると、
相手を傷つけることもある。」
会場が静まり返る。
真由は胸の奥がぎゅっと痛んだ。
(……私のこと、言ってる)
柊は一瞬、客席を見渡す。
真由の視線と、ふっと交わった。
「でも――
“距離”を怖がることと、“人を避ける”ことは違う。
どんなに誤解されても、
本気で誰かを想った気持ちは、嘘じゃない。」
小さなざわめきが起きた。
誰もが“あの事件”を思い出している。
「僕が伝えたかったのは、完璧な言葉じゃない。
ただ、“誰かを想う”ことの価値です。」
(……やっぱり、課長だ)
(あの人の言葉には、いつも“人”がいる)
⸻
講演終了後。
拍手が鳴り響く中、真由は立ち上がれなかった。
「……すごいな」
隣の成田がぽつりと呟く。
「まるで恋愛スピーチみたいだったぞ、今の」
「そ、そんなこと……!」
「いや、俺、ちょっと泣きそうだった」
(……だよね。
あれ、きっと“誰か”に向けて話してた)
⸻
講演後。
会場を出ようとしたところで、
背後から声。
「藤原」
振り向くと、そこに彼が立っていた。
マイクを外したばかりのスーツ姿。
いつもより少しラフな笑顔。
「お疲れ様です……すごく、良かったです」
「ありがとう」
「でも……ちょっと、心臓に悪いです」
「そうか」
「“誰かを想った気持ちは嘘じゃない”って、
あれ、まるで――」
「……君に向けて言ったみたいだった?」
「えっ……!」
「そのままだよ」
一瞬、息が止まった。
「でも課長……社内でそんなこと言ったら、また――」
「構わない」
「っ……」
「もう、“距離”で隠すのはやめた」
その言葉に、真由の目が潤む。
「……課長、ずるいです」
「三度目だな、それ」
「ほんとにずるいんです」
柊が小さく笑って、
ポケットから何かを取り出した。
名刺サイズのカード。
「SNS講演担当:柊誠 × 藤原真由」
「来週、対談企画がある。君と一緒に出てほしい」
「えっ!?」
「“発信する側”と“受け取る側”、両方の視点で語る。
君しかいないと思った」
「で、でも……私が出たら、また噂が――」
「噂を恐れて本音を隠すのは、もう終わりにしよう」
静かな声。
その一言で、何かがほどけた。
「……わかりました」
「ありがとう」
(この人はいつも、真面目すぎるほど真っ直ぐで)
(でも、だからこそ――惹かれる)
⸻
夜。
帰り道。
スマホが震える。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“距離”は言い訳じゃない。
想いを伝えるための時間だ。」
(……もう、これは完全に)
画面を見つめながら、
真由の頬がゆっくり赤く染まる。
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