18 / 50
第18話:対談という名の告白
しおりを挟む
翌週。
社内イベント「SNSと働き方の未来」当日。
ステージ中央のスクリーンには、
白い文字でこう表示されていた。
『特別対談:発信する人×受け取る人』
柊 誠 × 藤原 真由
(……ついに、この日が来ちゃった)
観客席には、社内外の人たち。
広報、営業、経営陣まで勢ぞろい。
そのざわめきが心臓の鼓動と重なっていく。
⸻
ステージ袖。
マイクをつけられながら、真由が深呼吸していると、
隣から落ち着いた声。
「緊張してる?」
「そりゃしますよ……! 社内の人全員見てるんですよ!?」
「大丈夫。君は言葉が強い」
「……またそういう言い方して」
「事実だ」
「そういう“事実”が一番ずるいんです」
柊は少し笑って、マイクを確認した。
「……行こうか」
「はい」
⸻
ステージ中央。
拍手に包まれながら、二人が並んで座る。
司会が軽いトーンで話し始める。
「本日は特別対談ということで、“理想の上司”としても話題になった
柊さん、そして“発信を支えた社員”の藤原さんにお越しいただきました!」
「理想の上司」
その言葉に、会場がどっと沸く。
真由の心臓が跳ねた。
(わぁ……思いっきり言っちゃった)
柊は落ち着いた声でマイクを持つ。
「“理想の上司”という言葉は、僕にとって重い言葉です。
完璧な人間なんていない。
でも、誰かを想って動くことは、誰にでもできる――
そう信じています。」
拍手。
けれど、彼の視線は真由に向いたまま。
(……今、完全に私を見て言いましたよね)
司会が続ける。
「では、藤原さん。
“受け取る側”として、柊さんの言葉に何を感じましたか?」
真由のマイクが震える。
けれど、もう逃げなかった。
「……柊さんの言葉には、ちゃんと“人”がいると思いました。
誰かを否定するためじゃなくて、
“誰かを見つめてる言葉”だって感じます。」
会場が静まり返る。
柊が、ゆっくり頷く。
「ありがとうございます」
(あ、やばい……“課長モード”じゃなくて“誠さんモード”だ)
⸻
司会「では、少し踏み込んだ質問を。
“お二人の間には、どんな“距離”がありますか?”」
(ど、距離!?)
会場がざわつく。
美咲が後ろでニヤニヤしているのが見えた。
柊は少しだけ笑ってから言った。
「距離……難しい質問ですね。
でも、僕たちは“隣にいるけど、ちゃんと敬意がある距離”を大切にしてます」
「隣にいるけど……」
その言葉に、真由の喉が詰まる。
(“隣”って……そんな)
司会「藤原さんは?」
「えっ、あ、えっと……」
観客の視線が一斉に集まる。
「私は……たぶん、“近すぎず、遠すぎない”距離がいいと思ってます。
でも――」
少し息を吸う。
柊の横顔を見た。
「“想い”だけは、ちゃんと同じ場所にあるって信じてます」
会場の空気が変わった。
ほんの一瞬、時間が止まったような静けさ。
柊がゆっくりと笑う。
「……それが一番、理想の距離だな」
(あ、今……完全に“告白”した)
⸻
イベント終了後。
控室。
「……すごかったな」
「ど、どうでした!? 変なこと言ってませんでした!?」
「いや、完璧だった」
「ほんとに!?」
「“想いが同じ場所にある”――あれは、反則だ」
「っ……言わないでください!」
柊が少し笑いながら、資料を鞄にしまう。
「“対談という名の告白”、って言われてるぞ」
「だ、誰がそんなことを!?」
「美咲」
「あの人~~~!」
笑い合う声が、控室の静けさに溶けていく。
「……藤原」
「はい?」
「ありがとう」
「え?」
「君が隣にいてくれるおかげで、
俺は“発信する勇気”を取り戻せた」
「……課長」
「もう、“課長”じゃなくてもいいだろ」
「……じゃあ、“誠さん”」
彼の目がやわらかく細められる。
「その呼び方、好きだ」
「ずるい」
「また言われたな」
(何回でも言います。
ずるいくらい、この人が好きだから)
⸻
夜。
スマホの通知。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“想い”は伝えるためにある。
それを隠す言葉なんて、いらない。」
《@mayu_worklife》
「じゃあ、今日の言葉は全部“本音”ってことで。」
リプライが並ぶ。
そして、誰もが微笑んで“いいね”を押した。
社内イベント「SNSと働き方の未来」当日。
ステージ中央のスクリーンには、
白い文字でこう表示されていた。
『特別対談:発信する人×受け取る人』
柊 誠 × 藤原 真由
(……ついに、この日が来ちゃった)
観客席には、社内外の人たち。
広報、営業、経営陣まで勢ぞろい。
そのざわめきが心臓の鼓動と重なっていく。
⸻
ステージ袖。
マイクをつけられながら、真由が深呼吸していると、
隣から落ち着いた声。
「緊張してる?」
「そりゃしますよ……! 社内の人全員見てるんですよ!?」
「大丈夫。君は言葉が強い」
「……またそういう言い方して」
「事実だ」
「そういう“事実”が一番ずるいんです」
柊は少し笑って、マイクを確認した。
「……行こうか」
「はい」
⸻
ステージ中央。
拍手に包まれながら、二人が並んで座る。
司会が軽いトーンで話し始める。
「本日は特別対談ということで、“理想の上司”としても話題になった
柊さん、そして“発信を支えた社員”の藤原さんにお越しいただきました!」
「理想の上司」
その言葉に、会場がどっと沸く。
真由の心臓が跳ねた。
(わぁ……思いっきり言っちゃった)
柊は落ち着いた声でマイクを持つ。
「“理想の上司”という言葉は、僕にとって重い言葉です。
完璧な人間なんていない。
でも、誰かを想って動くことは、誰にでもできる――
そう信じています。」
拍手。
けれど、彼の視線は真由に向いたまま。
(……今、完全に私を見て言いましたよね)
司会が続ける。
「では、藤原さん。
“受け取る側”として、柊さんの言葉に何を感じましたか?」
真由のマイクが震える。
けれど、もう逃げなかった。
「……柊さんの言葉には、ちゃんと“人”がいると思いました。
誰かを否定するためじゃなくて、
“誰かを見つめてる言葉”だって感じます。」
会場が静まり返る。
柊が、ゆっくり頷く。
「ありがとうございます」
(あ、やばい……“課長モード”じゃなくて“誠さんモード”だ)
⸻
司会「では、少し踏み込んだ質問を。
“お二人の間には、どんな“距離”がありますか?”」
(ど、距離!?)
会場がざわつく。
美咲が後ろでニヤニヤしているのが見えた。
柊は少しだけ笑ってから言った。
「距離……難しい質問ですね。
でも、僕たちは“隣にいるけど、ちゃんと敬意がある距離”を大切にしてます」
「隣にいるけど……」
その言葉に、真由の喉が詰まる。
(“隣”って……そんな)
司会「藤原さんは?」
「えっ、あ、えっと……」
観客の視線が一斉に集まる。
「私は……たぶん、“近すぎず、遠すぎない”距離がいいと思ってます。
でも――」
少し息を吸う。
柊の横顔を見た。
「“想い”だけは、ちゃんと同じ場所にあるって信じてます」
会場の空気が変わった。
ほんの一瞬、時間が止まったような静けさ。
柊がゆっくりと笑う。
「……それが一番、理想の距離だな」
(あ、今……完全に“告白”した)
⸻
イベント終了後。
控室。
「……すごかったな」
「ど、どうでした!? 変なこと言ってませんでした!?」
「いや、完璧だった」
「ほんとに!?」
「“想いが同じ場所にある”――あれは、反則だ」
「っ……言わないでください!」
柊が少し笑いながら、資料を鞄にしまう。
「“対談という名の告白”、って言われてるぞ」
「だ、誰がそんなことを!?」
「美咲」
「あの人~~~!」
笑い合う声が、控室の静けさに溶けていく。
「……藤原」
「はい?」
「ありがとう」
「え?」
「君が隣にいてくれるおかげで、
俺は“発信する勇気”を取り戻せた」
「……課長」
「もう、“課長”じゃなくてもいいだろ」
「……じゃあ、“誠さん”」
彼の目がやわらかく細められる。
「その呼び方、好きだ」
「ずるい」
「また言われたな」
(何回でも言います。
ずるいくらい、この人が好きだから)
⸻
夜。
スマホの通知。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“想い”は伝えるためにある。
それを隠す言葉なんて、いらない。」
《@mayu_worklife》
「じゃあ、今日の言葉は全部“本音”ってことで。」
リプライが並ぶ。
そして、誰もが微笑んで“いいね”を押した。
12
あなたにおすすめの小説
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
可愛い女性の作られ方
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。
起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。
なんだかわからないまま看病され。
「優里。
おやすみなさい」
額に落ちた唇。
いったいどういうコトデスカー!?
篠崎優里
32歳
独身
3人編成の小さな班の班長さん
周囲から中身がおっさん、といわれる人
自分も女を捨てている
×
加久田貴尋
25歳
篠崎さんの部下
有能
仕事、できる
もしかして、ハンター……?
7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!?
******
2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。
いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
10 sweet wedding
國樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる