富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
365 / 3,215

羽田空港:思い出

しおりを挟む
 月曜日。
 顕さんの検査の結果が出た。
 何の異常もない。
 非常に良い経過だった。
 顕さんの病室に行き、そのことを伝えた。

 「そうか。全部石神くんのお陰だ。ありがとう」
 「そんなことありませんよ。顕さんには奈津江がついてるんです。そりゃ順調に行くに決まってますよ」
 「そうか。そうだったな。うん、そうだった」
 顕さんが嬉しそうに笑った。
 
 「こないだ、奈津江の墓参りに行ってきました」
 「そうか! ありがとうな」
 「それでですねぇ。事情があってフェラーリは手放しまして。代わりに新しい車になったんですよ。奈津江にはその報告もあって」
 「そうなのか」

 「顕さん、ちょっとだけドライブに行きましょうよ」
 「え、いいのか?」
 「はい。これだけ順調なんですから。遠くには行けませんが」
 「そりゃ嬉しいけど」
 「顕さんに新しい車を見てもらいたいんですよ、それが本音です」
 「ありがとう。じゃあ宜しく頼む」

 その夜。
 俺は一旦家に帰り、アヴェンタドールで病院に戻った。
 顕さんは寝間着を着替えて病室で待っていた。

 「じゃあ行きましょうか」
 駐車場に行くと、丁度シフトを交代するナースたちが俺の車を囲んで騒いでいた。

 「おい、お前ら!」
 「石神せんせー!」
 みんなが振り向く。

 「何やってんだよ」
 「私たち、紺野さんファンクラブですから。お待ちしてました」
 「なんだとー! おいみんな集まれ、写真を一緒に撮ろう!」
 『はーい!』

 写真を撮り終わり、みんな離れろと言った。
 顕さんを乗せ、出発する。
 シザードアを開けると、嬌声が沸いた。

 「あれは石神くんのファンだろ?」
 「それはどうだか。でも、顕さんの名前を出されたらサービスしますよ」
 「なんだかなぁ」
 顕さんは笑った。



 羽田空港へ向かった。

 「本当に近くてすみません」
 「いや、そんなことはないよ。僕なんかを連れ出してくれてありがたいよ」
 「もっと連れ出したいんですけどね。どうしても数値で出ないと出来ないもんで」
 「そりゃそうだろう」
 俺は仕事の具合を尋ねた。

 「うん、なかなかいいよ。インターネットがこんなに発達したお陰で、職場に行かなくてもできることが多くなった」
 「そうですね。顕さんみたいなホワイトカラーは、これからどんどんそうなっていくかもしれませんね」
 「君だってそうだろう」
 「いや、俺なんかは建築現場の人間と同じですよ。その場にいないと何もできない。まあ俺は現場が大好きですけどね」
 「そうだよな。実際に何かが出来ていくのを見るのはいいもんだ」

 顕さんは話しながら、窓の外をずっと見ていた。
 特に夜景は久しぶりだろう。




 羽田空港の第一ターミナルに向かった。
 エレベーターで展望デッキに上がる。
 顕さんをベンチに腰掛けさせ、コーヒーを買って来た。

 「綺麗だなぁ」
 「俺の一番好きな場所です」
 しばらく二人で眺めた。

 「ここは、奈津江と最初に来たんです」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 四月の、桜が散り終わった頃だったと思う。

 「ねぇ、どこか連れてってよ」
 学食で食べながら、奈津江が言った。
 二人で行きたいのはもちろんだが、レポートが大変で、おまけに金がなかった。
 金はあるのだが、毎月使う金額を決めていた。
 大きな出費は奈津江との京都旅行だ。
 見栄を張っていい旅館に泊まったので、数か月先にまで小遣いに響いていた。

 奈津江が半分出すと言ったのだが、勝手にあんな宿を取ったのは俺だ。
 任せろ、と言ってしまった。

 「白山神社に行こうか?」
 「ダメ彼氏!」

 根本的にもっと大きな原因は、俺がデートをよく知らない、ということだった。
 他の人間であれば、金が無いなりに上手いこと彼女を楽しませるのだろう。
 遊ぶことを知らな過ぎた。
 それと、俺が奈津江と一緒にいるだけで満足してしまっていたのが、一番いけなかった。
 本当に愛おしかった。

 御堂に相談した。

 「そうだね。僕もあまり知らないけど」
 「いや、俺の百倍マシだ!」
 御堂は笑った。

 「そういえば、前に北海道の親戚の家に行く時にね、羽田空港に夜に行ったんだ。遅い便しかなくてね」
 「おう!」
 「綺麗だったんだよ。発着ロビーからもそうだったけど、展望台に上ったんだ。あそこは確か自由に出入りでき」
 「やっぱりお前は親友だぁ!」

 俺は御堂の手を握り、感謝した。
 御堂はまた笑ってくれた。

 翌日、すぐに空港に電話し、利用時間や店舗などを聞いた。
 非常に丁寧に教えてもらった。

 「彼女がいるんですが、俺に金がないんです!」
 電話で教えてくれた人が笑っていた。
 その人も、夜の空港が綺麗で好きだと言っていた。
 何度も礼を言い、電話を切った。

 一応山中にも聞いてみた。

 「なんでモテモテのお前にそんなこと教えなきゃいけないんだよ!」
 山中は先週、また学食で女の子に邪魔だと殴られた。
 目の周りがまだ青かった。
 俺が大丈夫かと触ると、「いてぇ!」と言った。


 
 奈津江とJRで浜松町に行き、そこからモノレールに乗り換えた。
 夕方だった。
 モノレールに乗ると、奈津江が興奮してきた。

 「ね、これスゴイよね!」
 「おう、そうだよな!」

 懸架式の電車は、二人とも初めてだった。
 空港に着き、俺たちはまっすぐに第一ターミナルの展望台に向かった。
 ちょっと入り口が分からずに迷い、奈津江に怒られた。

 展望台に上った。

 夕暮れの景色が本当に美しかった。
 徐々にそれは薄暗くなり、空港全体が青く染まって行く。

 「綺麗……」
 奈津江がそう言ってくれ、俺は最高に嬉しかった。
 俺はここにいてくれと奈津江に言い、離れた。
 空港の人らしい方に、〇〇部の秋本さんの名前を告げた。

 奈津江とまた一緒に景色を眺めていると、小柄な女性がやってきた。

 「石神さんですか?」
 「はい! 秋本さんですね!」
 「?」

 俺は奈津江に説明した。
 電話で空港のことをいろいろと聞いている中で、日時を教えて欲しいと言われたのだ。
 少し案内をして下さると言ってくれた。

 「石神さんが、あまりにもあなたのことを思っていろいろ聞いて来るんで。あとあなたがどれだけ美人でカワイイかって。もう私まで楽しくなっちゃって、是非お会いしたかったんです」
 「いや、そんな」
 俺は照れたが、奈津江は嬉しそうだった。
 奈津江は自己紹介をし、わざわざ来て下さったことに礼を言った。

 「石神さん、お金あんまり無いんですよね? 私もあまりないけど、コーヒーくらいご馳走させてください」
 「ダメ彼氏! 恥ずかしいよ!」
 奈津江が俺の腕を叩く。
 俺と秋本さんは笑った。

 俺たちは恐縮しながらコーヒーをいただき、空港についていろいろ教えていただいた。
 その後で本当に施設を案内してもらい、普段は入れない整備の施設まで見せてもらう。
 最後に第一ターミナルの展望台に戻った。

 「じゃあ、記念に写真を撮りましょう!」
 「え、ほんとうですか!」
 奈津江が喜んだ。
 俺が写真をあまり好きでないので、これまで二人の写真はほとんどない。

 「あそこに二人で立って。はい、いいですよ。あ、石神さん、もっと彼女とくっついて!」
 二枚の写真を撮ってくださった。
 最後に空港のスタッフの人が、三人での写真を撮ってくれた。
 俺の住所を教え、後日写真を送ると言って、秋本さんは帰って行かれた。

 二人でベンチでまた景色を眺めていると、空港の方がソフトクリームを二つ持って来てくれた。
 秋本さんが、今日は本当に楽しかったから、と頼まれたそうだ。

 「なんかいろいろしてもらちゃって、申し訳ないな」
 「ダメ彼氏のダメっぷりを堪能したわ」
 「そう言うなよー」
 奈津江は微笑んで俺の頬にキスをしてくれた。

 「ウソウソ。今日は高虎のお陰で楽しかった。いろいろ私のために頑張ってくれたんでしょ?」
 「そんなことはないよ」
 「大好き」
 「うん、俺も」

 手を握り、またしばらく空港の美しい景色を眺めた。







 「そろそろ帰ろうか!」
 奈津江が幸せそうな顔をして言った。

 「ああ。じゃあそろそろ予約した銀座の寿司屋に行くかぁ!」
 「え、そうなの?」

 「今日は、そういう夢を見てください」
 「この、ダメ彼氏!」
 奈津江に蹴られた。

 俺たちは笑いながら帰った。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

Lucia(ルシア)変容者たち

おまつり
恋愛
 人は、ときに自分の中に「もう一人の自分」を抱えて生きている。  それがもし、感情の揺らぎや、誰かとの触れ合いによって、男女の姿を入れ替える存在だったとしたら――。  カフェ『リベラ』を営むリアと、雑誌編集者の蓮。  二人は、特定の感情を抱くと性別が変わる「性別変容者」だった。  誰にも明かせない秘密を抱えながら生きてきた彼らは、互いの存在に出会い、初めて“同類”として心を通わせていく。  愛が深まるほど、境界は曖昧になる。  身体と心の輪郭は揺らぎ、「自分とは何者なのか」という問いが、静かに迫ってくる。  一方、過去に囚われ、自分自身を強く否定し続けてきたウェディングプランナー・景子と、まっすぐすぎるほど不器用な看護学生・ユウ。  彼らもまた、変容者として「変わること」と「失うこと」の狭間で、避けられない選択を迫られていく。  これは、誰の記憶にも残らないかもしれない“もう一人の自分”と共に生きながら、 それでも確かに残る愛を探し続けた人々の、静かなヒューマンドラマ。 ※毎日20時に1章ずつ更新していく予定です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...