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相川氏
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月曜日。
いつも通りに一江の報告を聞いたのだが。
「ということで、先週も問題ない。今週は斎藤の有給休暇以外は特段のこともありません」
「あいつの休暇だって特段じゃねぇけどな」
「はい!」
「まったく一番若いくせに、真っ先に休暇をとりやがって」
「それはお盆の時期に先輩に休ませようという」
「おい、ちょっと説教するから斎藤を呼べ」
「勘弁してあげて下さい!」
「はぁー」
「あの部長」
「あんだよ」
「何か気に入らないことがありますか?」
「そうだな」
「宜しければ」
「あのなぁ!」
「はい!」
「なんなんだよ、化粧パンダぁ!」
「はい?」
「大森!」
「は、はい!」
大森が飛んでくる。
「お前、こいつに化粧のことをちゃんと教えてやれ!」
「はい!」
「いや、待て。ついでだ、お前ら一緒に六花に化粧のことを教わって来い!」
「「はい!」」
「あいつも忙しい身だ。絶対に地獄の飲み会なんかにするなよ!」
「「はい!」」
一江と大森は部屋を出た。
一江は目の周りを真っ黒に塗りたくっていた。
論文を幾つか読んでいると、内線がかかってきた。
「交換です。石神先生、お忙しいところをすいません」
「なにか?」
「相川様とおっしゃる方からお電話なのですが」
部長兼理事の俺の所には、電話を直接回さない。
俺に断ってから交換が繋ぐことになっている。
「分かった。繋いでくれ」
「はい」
誰だっけ?
「相川です。先日は皇紀くんにいろいろお話を伺って」
「いいえ、その節は大変お世話になりました」
思い出した。
皇紀の彼女の葵ちゃんの父親か。
「まだ別荘にいらっしゃるんじゃ」
「いえ、仕事があるもので。週末にまた迎えに行きます」
「大変ですね」
相川さんは用件を述べた。
俺に会いたいということだ。
なんでだ?
「いえ、ご迷惑なのは承知しているのですが、皇紀くんの話を聞いて、どうしてもお会いしてみたくなって」
「そうですか。皇紀が葵ちゃんに仲良くしていただいているようですし、私の方もいろいろお聞きできればと思います」
俺たちは今日の夜に会うことにした。
銀座の喫茶店を指定した。
正直言って面倒だったが、皇紀が手を出した以上邪険にもできない。
響子の部屋に行った。
丁度昼食を食べている頃だ。
響子は先週鷹にもらった虎の着ぐるみを着ている。
非常にカワイイ。
赤ん坊に着ぐるみを着せて写真を公開している人がいるが、何となく気持ちが分かった。
響子は食べながら、微笑んで俺に手を振った。
「おや、虎がむしゃむしゃやってるぞ!」
「エヘヘヘ」
「さぞかし一杯喰うんだろうなぁ」
「うん」
「なにせ、虎だもんなぁ」
「うふふ」
六花も笑って見ている。
響子は一生懸命に食べていた。
綺麗に全部食べた。
俺は口の周りを拭いてやり、頬にキスをした。
「じゃあ、今日のオッパイ検査だぁ!」
「いやー」
ここのところ、毎日響子の胸を触っている。
なんとなくだ。
六花が気を付けをして待っている。
どうぞ、と目で訴えている。
俺は手を振って、食器を片付けろと合図した。
「先週な、顕さんと羽田空港へ行ったんだ」
「そうなのー」
「うん。やっぱり綺麗だった」
「私も行きたいー」
「そうだな。また行こう」
「うん、約束ね」
「ああ、オシャレして行こうな」
「これでいいよ」
「これじゃぁな、響子がカワイ過ぎて、また一杯写真撮られちゃうよ」
「エヘヘヘ」
六花が戻って来た。
俺は廊下に連れ出して検査させろと言った。
看護師の一人が倉庫に何か取りに来た。
「じゃあ、またな」
「えぇー!」
その日の夜。
時間通りに待ち合わせの喫茶店に行くと、既に相川さんが待っていた。
「お待たせしました」
「いえ、今日は本当にお時間をいただきまして」
俺たちは名刺を交わした。
相川さんは大手電機メーカーの半導体部門の仕事らしい。
常務というから、大したものだ。
流石は軽井沢に別荘を持っているはずだ。
俺たちは他愛のない話をした。
お互いの子どものことが主な話題だった。
「石神先生の子育てに関する話を聞いて、私は感激した次第で」
「そんなことは。結構好き勝手にやってるだけですよ。こないだ子どもたちがお客さんに「奴隷なんだ」って言うんで。「当たり前のことを言うな」とか」
相川さんは笑っていた。
「そういうところですね。僕はどうも子どもの顔色をみてしまっていたことに気づきました」
「そりゃ、葵ちゃんは可愛らしいですから」
「いえいえ。ワガママに育ってしまって。でも石神先生がお話し下さったことで、随分と変わったようです」
俺たちは話を切り上げた。
相川さんは、ご縁ができたのでまたお会いしたいと言った。
もちろん、俺も同じく思っていることを言う。
「今度、お嬢さんとうちへ遊びに来て下さい」
「ほんとですか! 是非伺います」
相川さんは「縁」と言った。
皇紀たちが量子コンピューターを作り出して、日本有数の半導体部門の重役と知り合った。
これは本当にただの「縁」なのだろうか。
いつも通りに一江の報告を聞いたのだが。
「ということで、先週も問題ない。今週は斎藤の有給休暇以外は特段のこともありません」
「あいつの休暇だって特段じゃねぇけどな」
「はい!」
「まったく一番若いくせに、真っ先に休暇をとりやがって」
「それはお盆の時期に先輩に休ませようという」
「おい、ちょっと説教するから斎藤を呼べ」
「勘弁してあげて下さい!」
「はぁー」
「あの部長」
「あんだよ」
「何か気に入らないことがありますか?」
「そうだな」
「宜しければ」
「あのなぁ!」
「はい!」
「なんなんだよ、化粧パンダぁ!」
「はい?」
「大森!」
「は、はい!」
大森が飛んでくる。
「お前、こいつに化粧のことをちゃんと教えてやれ!」
「はい!」
「いや、待て。ついでだ、お前ら一緒に六花に化粧のことを教わって来い!」
「「はい!」」
「あいつも忙しい身だ。絶対に地獄の飲み会なんかにするなよ!」
「「はい!」」
一江と大森は部屋を出た。
一江は目の周りを真っ黒に塗りたくっていた。
論文を幾つか読んでいると、内線がかかってきた。
「交換です。石神先生、お忙しいところをすいません」
「なにか?」
「相川様とおっしゃる方からお電話なのですが」
部長兼理事の俺の所には、電話を直接回さない。
俺に断ってから交換が繋ぐことになっている。
「分かった。繋いでくれ」
「はい」
誰だっけ?
「相川です。先日は皇紀くんにいろいろお話を伺って」
「いいえ、その節は大変お世話になりました」
思い出した。
皇紀の彼女の葵ちゃんの父親か。
「まだ別荘にいらっしゃるんじゃ」
「いえ、仕事があるもので。週末にまた迎えに行きます」
「大変ですね」
相川さんは用件を述べた。
俺に会いたいということだ。
なんでだ?
「いえ、ご迷惑なのは承知しているのですが、皇紀くんの話を聞いて、どうしてもお会いしてみたくなって」
「そうですか。皇紀が葵ちゃんに仲良くしていただいているようですし、私の方もいろいろお聞きできればと思います」
俺たちは今日の夜に会うことにした。
銀座の喫茶店を指定した。
正直言って面倒だったが、皇紀が手を出した以上邪険にもできない。
響子の部屋に行った。
丁度昼食を食べている頃だ。
響子は先週鷹にもらった虎の着ぐるみを着ている。
非常にカワイイ。
赤ん坊に着ぐるみを着せて写真を公開している人がいるが、何となく気持ちが分かった。
響子は食べながら、微笑んで俺に手を振った。
「おや、虎がむしゃむしゃやってるぞ!」
「エヘヘヘ」
「さぞかし一杯喰うんだろうなぁ」
「うん」
「なにせ、虎だもんなぁ」
「うふふ」
六花も笑って見ている。
響子は一生懸命に食べていた。
綺麗に全部食べた。
俺は口の周りを拭いてやり、頬にキスをした。
「じゃあ、今日のオッパイ検査だぁ!」
「いやー」
ここのところ、毎日響子の胸を触っている。
なんとなくだ。
六花が気を付けをして待っている。
どうぞ、と目で訴えている。
俺は手を振って、食器を片付けろと合図した。
「先週な、顕さんと羽田空港へ行ったんだ」
「そうなのー」
「うん。やっぱり綺麗だった」
「私も行きたいー」
「そうだな。また行こう」
「うん、約束ね」
「ああ、オシャレして行こうな」
「これでいいよ」
「これじゃぁな、響子がカワイ過ぎて、また一杯写真撮られちゃうよ」
「エヘヘヘ」
六花が戻って来た。
俺は廊下に連れ出して検査させろと言った。
看護師の一人が倉庫に何か取りに来た。
「じゃあ、またな」
「えぇー!」
その日の夜。
時間通りに待ち合わせの喫茶店に行くと、既に相川さんが待っていた。
「お待たせしました」
「いえ、今日は本当にお時間をいただきまして」
俺たちは名刺を交わした。
相川さんは大手電機メーカーの半導体部門の仕事らしい。
常務というから、大したものだ。
流石は軽井沢に別荘を持っているはずだ。
俺たちは他愛のない話をした。
お互いの子どものことが主な話題だった。
「石神先生の子育てに関する話を聞いて、私は感激した次第で」
「そんなことは。結構好き勝手にやってるだけですよ。こないだ子どもたちがお客さんに「奴隷なんだ」って言うんで。「当たり前のことを言うな」とか」
相川さんは笑っていた。
「そういうところですね。僕はどうも子どもの顔色をみてしまっていたことに気づきました」
「そりゃ、葵ちゃんは可愛らしいですから」
「いえいえ。ワガママに育ってしまって。でも石神先生がお話し下さったことで、随分と変わったようです」
俺たちは話を切り上げた。
相川さんは、ご縁ができたのでまたお会いしたいと言った。
もちろん、俺も同じく思っていることを言う。
「今度、お嬢さんとうちへ遊びに来て下さい」
「ほんとですか! 是非伺います」
相川さんは「縁」と言った。
皇紀たちが量子コンピューターを作り出して、日本有数の半導体部門の重役と知り合った。
これは本当にただの「縁」なのだろうか。
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