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地獄VS悪魔 終幕
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国道246事件の二週間後。
7月上旬の土曜日。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
朝食で、石神はコーヒーだけを飲んでいた。
亜紀ちゃんが手つかずの食事を悲しい顔で眺めていた。
二口でご飯を飲み込み、三口でおかずとサラダを飲み込む。
「ルー、今日もタカさん元気なかったね」
「そうだね、私たち、とんでもないことしちゃったよね」
双子も元気がない。
ご飯を炊く量も、ずいぶんと減った。
毎回、お釜一つ、18合だけだ。
皇紀だけはいつも通りに食べている。
「この大食い!」
皇紀にハーが蹴りを入れた。
「それは自分たち、あ、イタイ!」
ルーも蹴りを入れた。
石神には散々謝った。
もちろん、許してもらっている。
しかし、石神は落ち込んだままだった。
フェラーリを手放したことで、どうしようもなく悲しんでいる。
「取り敢えず、栞さんのとこ行こう!」
「そうだね。あっちの問題を解決しておくか!」
元気な双子だった。
「「たのもー!」」
栞の家のチャイムを押し、双子が呼んだ。
「あ、来たの?」
玄関に栞が顔を出した。
少し憔悴している。
石神に殴られた顔は、すっかり元へ戻ってはいたが。
「ごめんね。しばらく会いたくないの」
栞は悲しげな声で言った。
「栞さん! ダメだよ。タカさんが落ち込んでるんだよ。あたしたちが頑張らなきゃ!」
「え、石神くんが……」
「そうだよ! 自分のことばっか考えちゃダメ! 一緒にタカさんのこと考えよ?」
「でも」
「ほら、涙を拭いて、上を向こうよ!」
悪魔がなんか言ってた。
「うん、そうだね。石神くんのために、何かしなきゃだよね」
「「そうそう!」」
双子は中へ入れられた。
「まずはさ、ちょっと身体を動かそうよ」
「うん」
道着に着替えて、道場へ行った。
なんの話もせずに、いきなり組み手を始めた。
「花岡」の奥義は使わない。
それはお互いの無言の約束だった。
最初は流す程度で。
徐々にお互いが相手の「やる気」を探り合い、スピードと強度を上げていく。
やはり鍛錬の年月が違う。
双子の攻撃は、すべて栞に防がれ、また栞の攻撃が双子に時折入る。
それが、時間が経つにつれて、段々と形になっていった。
双子は栞の攻撃をすべて防ぐようになり、栞への攻撃が一発入った。
「やったー!」
三人とも息が荒い。
30分もやっていたか。
「あー喉が渇いた!」
「もうカラカラ!」
「あー、じゃあ何か飲もうか」
道着のまま、リヴィングへ行った。
冷たいものが良い。
「ごめんね。子ども用の冷たいものってなくて。取り敢えず、これ」
『マカ! 大元気王』という小さなガラスの瓶が出た。
量が少ないので、三本ずつ置かれた。
「なんだ、コレ?」
ハーが一口飲んだ。
「案外美味しいよ!」
ルーも飲んだ。
「石神くんのために買ってあるんだけど、あの人使ったことないから」
「「へぇー」」
よく分からない。
「それでね。私たちがしちゃったことは悪いんだけど、でももうそれはどうしようもないじゃない」
「そうだね」
「だからね、タカさんが落ち込んでるのはフェラーリのことであって……」
ルーが一方的に話している。
「私、ちょっとお手洗いお借りします。お腹痛くなっちゃった」
「大丈夫?」
「へいきへいき!」
ハーが部屋を出て行った。
「さて、どこにあるかなー」
まずは寝室だ。
そう簡単に見つかるとは思っていない。
しかし、探すしかない。
栞の弱みを。
寝室に入る。
栞のベッドがある。
誰か寝てる。
「ん?」
ハーは近づいてよく見た。
人形だ。
タカさんの顔の写真が貼ってある。
布団をめくった。
「!!!!!!!!!!!!!!」
戸棚を漁った。
いっぱいでてきた。
ハーはすべてをベッドに置き、シーツをめくって人形と一緒に担いだ。
走ってリヴィングへ戻る。
「フェーズ4! フェーズ4! ルー、フェーズ4だからねぇー!」
ハーが怒鳴る。
栞は何があったのか分からない。
ニコやかに話していたルーが、瞬時に自分の背後に回り、両足で栞の腕ごと身体を固定し、両腕を首に回した。
ハーが飛び込んでくる。
床にシーツを拡げた。
「ギャッァァァァァーーーーー!!!!!」
栞が物凄い悲鳴を上げ、失神した。
雑誌を縛るためか、PP紐を見つけた。
それで栞を縛る。
色情ゴリラおっぱいにどれだけ有効かは分からない。
栞が目を覚ました。
大泣きする。
「おい、泣くな色情オッパイ」
「うるせぇぞ、変態ゴリラ」
栞は泣き止まない。
「黙れ、これをタカさんに見せるか?」
泣き止んだ。
バイブの数々。
まあ、今となっては、それはいい。
そんなものが出てくれば、ちょっとは弱点になるかも、とは考えていた。
予想外のものが出てきた。
恐らくは男性型のマネキン人形。
その顔にタカさんの写真を貼り、股間に生えてる巨大なバイブ。
何に使っているのかは、一目瞭然だった。
完全にアウトだ。
「栞さん、大変なことしちゃったねぇ」
「これはちょっとやりすぎすぎすぎだよねぇ」
「おねがい、いしがみくんには」
「もちろんだよ。栞ちゃんはタカさんにとって大事な人だし、だったら私たちにも大事な人だよ」
「いくら何でも、これは話せないしね」
「「私たちが話そうとしてがんばらなきゃね!」」
「ヒィッ!」
「安心して。これで脅そうなんて全然考えてないし」
「そうそう。言うこと聞いて欲しいなんて言わないよ」
「……」
「ただね、今後はお酒飲んで暴れたりしないでね」
「それと、あんまし私たちに干渉しないで欲しいかな」
「そんだけかな」
「そうだね」
「え、言う通りにしろとか、ないの?」
「ないよ」
「何かよこせとか」
「だからー! お酒飲んで暴れなきゃいいの!」
「干渉するなって、逆らうなってことでしょ?」
「そうじゃないのね。あたしたちはまだ子どもだから」
「悪いことしたら、ちゃんと叱って欲しいの」
「え?」
「でもね、私たちも譲れないことがある。タカさんのために、絶対にやらなきゃならないことがある」
「そういうことでは、できれば栞さんにも味方になって欲しいかな」
「あなたたち……」
「今回のこともね。栞さんが暴れたら頼むって言われたのね」
「でもね、栞さんって強いから。ほんとにあたしたちが止められるかわからなかったのね」
「だから私を」
「うん。ごめんね。こんなことになっちゃったのは、私たちが栞さんの力を知るためだったから」
「本当にごめんなさい。だから栞さんが気に病む必要はないの」
「そんなこと」
「暴れる栞さんを止めるのは、栞さんのためなんだよ」
「タカさんは、栞さんのために、私たちを送ったのね」
「……」
「これからもタカさんを宜しくお願いします」
「私たちも頑張るけど、栞さんもタカさんを守って」
「うん、約束する」
栞は涙を流した。
「それにしても、これはないわー」
「しばらくは大人しくしろ、ゲロンチョオッパイ」
「ギャッァァァァァーーーーー!!!!!」
7月上旬の土曜日。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
朝食で、石神はコーヒーだけを飲んでいた。
亜紀ちゃんが手つかずの食事を悲しい顔で眺めていた。
二口でご飯を飲み込み、三口でおかずとサラダを飲み込む。
「ルー、今日もタカさん元気なかったね」
「そうだね、私たち、とんでもないことしちゃったよね」
双子も元気がない。
ご飯を炊く量も、ずいぶんと減った。
毎回、お釜一つ、18合だけだ。
皇紀だけはいつも通りに食べている。
「この大食い!」
皇紀にハーが蹴りを入れた。
「それは自分たち、あ、イタイ!」
ルーも蹴りを入れた。
石神には散々謝った。
もちろん、許してもらっている。
しかし、石神は落ち込んだままだった。
フェラーリを手放したことで、どうしようもなく悲しんでいる。
「取り敢えず、栞さんのとこ行こう!」
「そうだね。あっちの問題を解決しておくか!」
元気な双子だった。
「「たのもー!」」
栞の家のチャイムを押し、双子が呼んだ。
「あ、来たの?」
玄関に栞が顔を出した。
少し憔悴している。
石神に殴られた顔は、すっかり元へ戻ってはいたが。
「ごめんね。しばらく会いたくないの」
栞は悲しげな声で言った。
「栞さん! ダメだよ。タカさんが落ち込んでるんだよ。あたしたちが頑張らなきゃ!」
「え、石神くんが……」
「そうだよ! 自分のことばっか考えちゃダメ! 一緒にタカさんのこと考えよ?」
「でも」
「ほら、涙を拭いて、上を向こうよ!」
悪魔がなんか言ってた。
「うん、そうだね。石神くんのために、何かしなきゃだよね」
「「そうそう!」」
双子は中へ入れられた。
「まずはさ、ちょっと身体を動かそうよ」
「うん」
道着に着替えて、道場へ行った。
なんの話もせずに、いきなり組み手を始めた。
「花岡」の奥義は使わない。
それはお互いの無言の約束だった。
最初は流す程度で。
徐々にお互いが相手の「やる気」を探り合い、スピードと強度を上げていく。
やはり鍛錬の年月が違う。
双子の攻撃は、すべて栞に防がれ、また栞の攻撃が双子に時折入る。
それが、時間が経つにつれて、段々と形になっていった。
双子は栞の攻撃をすべて防ぐようになり、栞への攻撃が一発入った。
「やったー!」
三人とも息が荒い。
30分もやっていたか。
「あー喉が渇いた!」
「もうカラカラ!」
「あー、じゃあ何か飲もうか」
道着のまま、リヴィングへ行った。
冷たいものが良い。
「ごめんね。子ども用の冷たいものってなくて。取り敢えず、これ」
『マカ! 大元気王』という小さなガラスの瓶が出た。
量が少ないので、三本ずつ置かれた。
「なんだ、コレ?」
ハーが一口飲んだ。
「案外美味しいよ!」
ルーも飲んだ。
「石神くんのために買ってあるんだけど、あの人使ったことないから」
「「へぇー」」
よく分からない。
「それでね。私たちがしちゃったことは悪いんだけど、でももうそれはどうしようもないじゃない」
「そうだね」
「だからね、タカさんが落ち込んでるのはフェラーリのことであって……」
ルーが一方的に話している。
「私、ちょっとお手洗いお借りします。お腹痛くなっちゃった」
「大丈夫?」
「へいきへいき!」
ハーが部屋を出て行った。
「さて、どこにあるかなー」
まずは寝室だ。
そう簡単に見つかるとは思っていない。
しかし、探すしかない。
栞の弱みを。
寝室に入る。
栞のベッドがある。
誰か寝てる。
「ん?」
ハーは近づいてよく見た。
人形だ。
タカさんの顔の写真が貼ってある。
布団をめくった。
「!!!!!!!!!!!!!!」
戸棚を漁った。
いっぱいでてきた。
ハーはすべてをベッドに置き、シーツをめくって人形と一緒に担いだ。
走ってリヴィングへ戻る。
「フェーズ4! フェーズ4! ルー、フェーズ4だからねぇー!」
ハーが怒鳴る。
栞は何があったのか分からない。
ニコやかに話していたルーが、瞬時に自分の背後に回り、両足で栞の腕ごと身体を固定し、両腕を首に回した。
ハーが飛び込んでくる。
床にシーツを拡げた。
「ギャッァァァァァーーーーー!!!!!」
栞が物凄い悲鳴を上げ、失神した。
雑誌を縛るためか、PP紐を見つけた。
それで栞を縛る。
色情ゴリラおっぱいにどれだけ有効かは分からない。
栞が目を覚ました。
大泣きする。
「おい、泣くな色情オッパイ」
「うるせぇぞ、変態ゴリラ」
栞は泣き止まない。
「黙れ、これをタカさんに見せるか?」
泣き止んだ。
バイブの数々。
まあ、今となっては、それはいい。
そんなものが出てくれば、ちょっとは弱点になるかも、とは考えていた。
予想外のものが出てきた。
恐らくは男性型のマネキン人形。
その顔にタカさんの写真を貼り、股間に生えてる巨大なバイブ。
何に使っているのかは、一目瞭然だった。
完全にアウトだ。
「栞さん、大変なことしちゃったねぇ」
「これはちょっとやりすぎすぎすぎだよねぇ」
「おねがい、いしがみくんには」
「もちろんだよ。栞ちゃんはタカさんにとって大事な人だし、だったら私たちにも大事な人だよ」
「いくら何でも、これは話せないしね」
「「私たちが話そうとしてがんばらなきゃね!」」
「ヒィッ!」
「安心して。これで脅そうなんて全然考えてないし」
「そうそう。言うこと聞いて欲しいなんて言わないよ」
「……」
「ただね、今後はお酒飲んで暴れたりしないでね」
「それと、あんまし私たちに干渉しないで欲しいかな」
「そんだけかな」
「そうだね」
「え、言う通りにしろとか、ないの?」
「ないよ」
「何かよこせとか」
「だからー! お酒飲んで暴れなきゃいいの!」
「干渉するなって、逆らうなってことでしょ?」
「そうじゃないのね。あたしたちはまだ子どもだから」
「悪いことしたら、ちゃんと叱って欲しいの」
「え?」
「でもね、私たちも譲れないことがある。タカさんのために、絶対にやらなきゃならないことがある」
「そういうことでは、できれば栞さんにも味方になって欲しいかな」
「あなたたち……」
「今回のこともね。栞さんが暴れたら頼むって言われたのね」
「でもね、栞さんって強いから。ほんとにあたしたちが止められるかわからなかったのね」
「だから私を」
「うん。ごめんね。こんなことになっちゃったのは、私たちが栞さんの力を知るためだったから」
「本当にごめんなさい。だから栞さんが気に病む必要はないの」
「そんなこと」
「暴れる栞さんを止めるのは、栞さんのためなんだよ」
「タカさんは、栞さんのために、私たちを送ったのね」
「……」
「これからもタカさんを宜しくお願いします」
「私たちも頑張るけど、栞さんもタカさんを守って」
「うん、約束する」
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