富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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久し振りの御堂家 Ⅵ

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 大学四年生の初夏。
 僕は、花岡さん、紺野さんの3人で居酒屋にいた。
 石神は英文学の高橋教授の飲み会に顔を出してから来ることになっていた。

 「高橋教授って、高虎のことが大好きだよねー」

 紺野さんが言った。
 ちょっと怒っている。

 「そうだね。教養学部が終わる頃から、相当しつこく誘われたそうだよ」
 「うん、聞いてる。医学部なんかやめて、こっちに来なさいってね」
 「試験もいらないって言われたそうだ。学長とかに、相当根回ししたようだよ」
 
 三人で笑った。

 「でも、医学部でも高虎を欲しかったんでしょ?」
 「まあね。優秀だし立派な人間だからね」
 「立派かなー」
 「ほら、木村君の彼女を助けたじゃない」
 「あー!」
 「あの時、医学部の教授たちの間で随分と話題になったらしいよ。一学生が自分の経歴を捨ててまで学部外の人間を助けようとしたって」
 「うんうん!」

 紺野さんが嬉しそうに笑う。
 普段は石神を否定するような発言も多いが、本当は誰よりも石神を好きで尊敬している。
 だから誰かが石神のことを褒めると、途端に嬉しそうな顔になるのだ。

 「石神のことは、みんなが好きになるよ」
 「そうかな!」

 紺野さんがニコニコして生ビールを飲み始めた。
 あまりお酒の強い人ではないので、最後までソフトドリンクということもある。
 今日は上機嫌でビールを飲んでいた。
 紺野さんにしては、少し飲みすぎだったかもしれない。

 「ねえ、栞も高虎のことが好きでしょう?」
 「え、何言ってんの」
 「私分かるもん。時々高虎のことをジッと見てるし。高虎が喧嘩してるって聞くと、走って見に行くよね?」
 「それは石神君の喧嘩が素敵だから」
 「ふーん」

 僕は話題を変えようかと思ったが、紺野さんが続けて言った。

 「私、栞だったら別にいいけどな」
 「え?」
 「あ、今はダメだよ!」
 「何よ!」
 「私がいるうちはダメ。でも、もしもいなくなったら、高虎をお願いね?」
 「奈津江、何言ってんの!」
 「じゃー、そういうことで!」

 紺野さんがビールのジョッキを前に押して、そのままテーブルに突っ伏して寝てしまった。
 やはり飲みすぎだったのだ。

 「もう、奈津江ったら! 酔ってたのね」
 「寝ちゃったね」

 花岡さんがタオルを出して、紺野さんの顔の下に敷いてあげた。

 丁度石神が店に入って来た。
 目立つ男なので、すぐに分かる。
 店の人間や客たちがざわめくからだ。
 僕が手を振って合図した。
 石神はすぐに見つけてくる。

 「ありゃ、なんだ、奈津江は潰れてんのか?」
 「つい、さっきまで起きてたよ。今急にね」
 「なんだよ。じゃあ、少し寝かせてから送って行くな」
 「うん」
 「花岡さん、奈津江、どんだけ飲んだ?」
 「そのジョッキだけだよ」

 まだ半分以上残っている。
 中生ジョッキだった。

 「奈津江にしては呑んだなぁ。まあ、しょうがない。何か気分が良かったのかな?」
 「そうだね」

 花岡さんと一緒に笑った。
 石神はテーブルを離れて、店員に注文を入れに行った。

 「御堂君、今の話は石神君にはしないでね」
 「ああ、分かってるよ」
 「奈津江はただ酔っぱらっただけだから」
 「うん、そうだね」

 石神から、また高橋教授に誘われたという話を聞いた。

 「今日はさ、お弟子さんたちが勢ぞろいしてて、みんなで俺を説得すんだよ! まいったぜぇ」
 「大変だね」
 「ああ。俺は医者になるんだって言っても全然聞いてくれねぇ。だから「10億円くれたら考える」って言ったんだよ」
 「アハハハハハ!」
 「そしたらさ。みんなで相談始めちゃって。どこの誰に頼めばこのくらいは集まるとか。なんか実現しそうになったんで慌てたよ!」
 
 花岡さんと一緒に笑った。

 「前にも話したんだけどさ。お袋との約束なんだって話をもう一度して。そうしたらみんな黙り込んじゃってさ」
 「そうなのかい?」
 「俺もはっきり言わなかったけどさ。なんか、「死んだお袋との約束」みたいにみんな思っちゃって! まあ、面倒だからそのままにしてきた」

 花岡さんと爆笑した。
 その騒ぎで、紺野さんが目を覚ました。

 「おう、起きたか!」
 「タカトラ!」
 「ちょっとトイレに行って来いよ。戻ったら送って行くから」
 「うん」

 花岡さんが一緒に行ってくれた。

 「俺が来る前に何かあったか?」
 「いや、別に。普通に話していたよ」
 「そうか」

 石神は何かを感じていたようだが、僕がそういうと安心していた。
 花岡さんが紺野さんを連れて戻って来た。
 紺野さんの後ろで首を横に振っている。
 トイレで戻したということなのだろう。
 
 「奈津江、送って行くけど帰れるか?」
 「うん」

 少し顔色が青い。

 「少し休んでからにするか」
 「うん」
 「じゃあ、座って寝てろよ」
 「うん」

 酔いが回ったようだが、紺野さんは微笑んで言った。

 「栞、まだダメだからね」
 「わ、分かってるよ!」

 さっきの話を蒸し返したようだ。
 紺野さんはすぐにまた眠った。

 「もう!」
 「花岡さん、何の話?」
 「な、なんでもないよ。でも、いつか譲ってもらうかも」
 「何を?」
 「!」
 「ん?」
 「し、知らない!」

 30分ほどすると、奈津江さんが起きた。
 石神が水を飲ませてから送って行った。
 僕と花岡さんも帰った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 御堂の話が終わった。
 俺がまったく知らなかった話だ。

 「石神と花岡さんは、仲良くなって結ばれたしね。今更、僕が話すようなことじゃないんだけど」
 「いや、聞けて良かったよ」

 栞は絶対に話さないだろう。
 自分が奈津江から託されたなどとは思いたくもない。
 栞は奈津江に生きていて欲しかったのだ。
 自分の恋が実らなくても構わない。
 親友の奈津江を喪いたくなかった。

 「よく最近思うことなんだけどな」
 「なんだ、石神」
 「奈津江と栞はどうして親友になったのかってことなんだ」
 「どういうことだい?」

 みんなが不思議そうな顔をしている。
 考えてみたことも無かったのだろう。
 
 「奈津江はずっと親しい友達を作らなかったんだ」
 「あ、私も不思議に思ってました!」
 「嘘つけ!」

 亜紀ちゃんが俺の頭に噛り付いて「オロチ呑み」だと言った。
 俺も「オロチ呑み返し」と言って亜紀ちゃんの頭に噛り付いた。

 「イタイイタイイタイ!」

 オロチがでかい頭を動かしたので、二人で「辞めろ!」と言った。
 亜紀ちゃんの頭を引っぱたいた。
 「自分もやったくせに」と文句を言った。

 「多分、顕さんを思っていたんだ」
 「顕さん?」
 「顕さんは、奈津江のために恋人と別れ、ずっと友達とも付き合わずにいた。まあ、奈津江が成長してからは、多少会社の方々と食事や飲みにいくこともあったようだけどな」
 「そうだったか」
 「そういう顕さんを見ていて、自分が友達と楽しく、なんて思えなかったんだろうよ」
 「そうか……」

 俺は栞から聞いた話をした。

 「大学で同じ講義に出て一緒になったらしいけどな。講義が終わったら、奈津江が栞に話しかけたそうだ。「あまりにも綺麗は人なので友達になりたい」って。栞もまあ、特殊な家だったからな。上京して奈津江からそんなことを言われて嬉しかったようだよ」
 「そういう出会いだったんだね」
 「ああ。生まれも全然違うし、性格も違う。片や引きこもりのような生活だったし、もう一方は恐ろしい暗殺拳の家系だ」
 「アハハハハハ!」

 みんなが笑った。

 「もちろん、奈津江も大学生になって、デビューじゃないけど、いろいろと自分を変えたいとも思っていたんだろうよ。特に顕さんに負担を掛けない人間になりたいってな。だから友達も恋人も欲しかった。それを手に入れた」
 「うん、そうだね」
 「まあ、俺と栞と御堂と、あとはちょっとだけな。奈津江にしては頑張ったんじゃないのか?」

 みんながまた笑った。

 「それで充分だったんだよ。石神と栞さんがいればな」
 「そうだな。栞のことは本当に大事にして信頼していた。でも、まるで自分の運命を知っていたかのような話だったな」
 「うん、僕もそう思うよ」

 正巳さんが言った。

 「長く生きているとな。そういう不思議な出会いがあるよ。わしも何人もそういう人間を知っている」
 「そうですか」
 「わしの兄貴もそうだった。わしにいつも、御堂家を護れと言っておった」
 「正克伯父さんが?」
 「ああ。自分が後継ぎだったのにな。何度もわしにそう言っていたよ。そして突然逝ってしまった」
 「そうだったのか」

 人間に運命が分かるのかどうかは知らない。
 しかし、そうだったと思える人間の話は多い。

 ニジンスキーたちがまた身体を上って来て、ヘビだらけになった。

 「おい、俺は今ちょっとカッチョイイポーズを決めてるんだ」

 みんなが大笑いした。
 
 「ニジンスキー!」

 俺の頭でとぐろを巻いているのが身体を動かした。

 「お前、そこでウンコになってんじゃねぇ!」

 みんなが爆笑した。
 オロチも楽しそうに舌を出し入れした。

 「タカさん、ギター弾いて下さいよ!」
 「おう!」

 ニジンスキーたちが自然に離れた。
 覚えたのだろうか。
 俺の足元に集まって、俺のギターを聴いていた。

 暗く広い大地に、ギターの音が拡がって行った。
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