富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《ハイヴ》襲撃

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 「虎蘭(こらん)! ちょっと来い!」
 「はい!」

 長い髪を後ろで束ねた虎蘭が走って来る。
 顔は高虎に似て美しい。
 年齢は25歳で若いが、新たに剣士になった人間の中では優秀だ。

 「高虎から連絡があった。今度、ブラジルのジャングルで妖魔の掃討戦がある」
 「はい!」
 「お前にも同行させるからな」
 「え、本当ですか!」

 虎蘭の顔が輝く。
 女ではあるが、やはり石神家だ。
 闘いが何よりも好きなのだ。
 
 「お前も最近、どんどん伸びているからな。この辺りで実戦を経験しておけよ」
 「はい! ありがとうございます、虎白さん!」
 「ああ、頑張れよな」

 虎蘭が嬉しそうに鍛錬に戻っていく。
 剣聖の虎月が相手になっている。
 虎月が虎蘭を随分と買っており、努力とセンスの良さを褒めていた。

 石神家の剣士は、ほとんどが男だった。
 それは、体力的に男性の方が優位であるためだが、女が剣士になった事例が無いわけではない。
 石神家の血は、男女を問わずに発動する。
 時に、女性の身で男性を遙かに上回る者もいた。
 昔、当主になった女もいる。
 その人間も「虎蘭」という名前だった。
 虎蘭はその話を知り、自分も剣士になるべく、修行を続けていた。
 そして、先日ついに剣士として認められた。

 「虎名」を付けるにあたり、本人が「虎蘭」を望んだ。
 反対する者もおらず、誰もが虎蘭の努力と練り上げた剣力を知り、「虎蘭」が与えられた。
 虎蘭は、一層鍛錬にのめり込んだ。
 若い剣士の中で、頭一つ抜けている。
 きっとそのうちに剣聖にもなるだろう。
 才能と努力を兼ね備えた人間だった。

 顔は高虎に少し似ている。
 高虎の子ども時代を知っているが、女のように美しい顔だった。
 後に高虎は男性らしい要素が加わって行ったが、虎蘭はあの時の高虎の顔のまま成長したようだ。
 非常に美しい。
 背も高く、180センチ以上ある。
 骨格も太く、やせてはいるが逞しい身体をしていた。
 長い髪を後ろに束ねて、剣を振るっている。
 剣までが美しい動きで、虎蘭の心が顕われているようだった。

 一度高虎にも会っており、虎蘭は高虎に一遍で憧れた。
 虎蘭も高虎の高さが分かったようだ。
 人間には辿り着けない領域だが、それが虎蘭の憧れになった。
 また一層、虎蘭は鍛錬に励むようになった。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 高虎から連絡があったのは、4月の下旬だった。

 「虎白さん、また戦場を頼みます」
 「おうよ!」
 「今度はブラジルです。アマゾンの大ジャングルですよ」
 「そうか!」
 「「業」の《ハイヴ》らしい施設を発見しました。「御幸5号」の情報です」
 「はいぶ?」
 
 高虎が、ジェヴォーダンやバイオノイド、それにライカンスロープなどを飼育研究している施設のことだと説明した。

 「大きな施設です。それに、恐らく周辺は妖魔がガードしている。施設そのものもです」
 「そうか」
 「敵戦力は、恐らくジェヴォーダン100、バイオノイド1000、妖魔は未定です」
 「バイオノイドってなんだ?」
 「改造人間です。通常の人間よりもずっと速く力もある。恐らくは知性も。武器も操りますよ」
 「ほう」
 「「花岡」も使います」
 「そうかよ」

 高虎は作戦の概要を話した。

 「最初に殲滅戦装備のデュールゲリエで施設と周辺を空爆します」
 「そうか」
 「虎白さんたちは、自由なタイミングで入ってください」
 「なんだよ、そんなほんわかした作戦なのか」
 
 高虎が言った。

 「あのですね。虎白さんたちって、俺の言うこと聞きませんよね?」
 「ワハハハハハハハ!」

 まあ、その通りだ。
 それに、戦場は刻々と変化する。

 「それと、ヤバい時には撤退して下さいね」
 「なんだよ」
 「俺たちも何度もそういう場面があったんです。幸いなんとか突破しましたが、撤退した方がいい場合もあります。絶対に今落とさないといけない施設ではないんで」
 「わかったよ。でも、その時はどうすんだ? 走って逃げんのかよ」
 「聖の部隊が待機してます。聖がすぐに突っ込んで、同時に「タイガーファング」が回収に行きます」
 「そうか、分かった。じゃあその流れでな」

 大体把握した。
 高虎の話は分かりやすいし、余計なことも言わない。
 だから俺もすぐに自分なりに組み立てることが出来た。

 「はい。人選は虎白さんにお任せしますよ」
 「ああ、40人ほどで行くよ。半分は残す」
 「そうですか。え、また増えましたよね?」
 「若い連中を中心に行く。戦場を経験させたいからな」
 「お願いします」

 高虎は俺らのことをよく考えてくれている。
 最初にデュールゲリエに攻撃させるということも、敵戦力や迎撃の様子を探らせて、俺たちに少しでも安全な強襲をさせたいのだろう。
 撤退の話もそうだ。
 もしも予想外の反撃があったのならば、撤退して次回の攻略法を考える。
 基本、足で動く俺たちを心配してのことだ。




 その後、作戦は5月の4日に決まったと高虎から連絡があった。

 「もっと早くてもいいぞ? 俺らはいつもうずうずしてんだからよ」
 「いや、俺が丁度休みなもんで」
 「なんでお前の休みに合わせんだよ」
 「仕事中だと、万一があったら飛んで行けないじゃないですか!」
 「お前なんかいらねぇよ」
 「虎白さん!」
 「まあ、簡単にぶっ潰してやっから、のんびりしてろ」
 「もう!」

 高虎の奴、どこまでも俺たちのことを考えてやがる。
 まあ、石神家の当主であり、「虎」の軍の最高司令官だ。
 いろいろ考えちゃみるんだろう。
 だから、せめて俺らは負担になりたくねぇ。
 高虎が行けと言えば、戦場を平らげて来る。
 そう高虎に思ってもらえるようにしなきゃな。

 俺は剣士を集めて、作戦の決行日と連れて行く人間を言い渡した。
 
 「作戦名は「オペレーション・ブローウィング」、穴掘り作戦という意味だ」

 高虎からいろいろと説明は受けているが、うちの連中は何も考えないで突っ込む。
 だから俺も資料は置いて、好きな奴が見ればいいようにした。
 虎蘭が熱心に読んでいた。
 まったく真面目な奴だ。
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