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後編
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優雅に発せられた言葉に一瞬意味が分からない。
承るって…………婚約破棄をか?
殿下に振られた……いや殿下を振るってことか!?
とうとうやっと愛想つかせたか?
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
周りも意外な反応に驚き声をあげる。
って殿下が言うな。いやそりゃ予想外だったと思うけど。
「私を愛しているというのは偽りだったのか!?」
だから殿下が言うな。
……だいたい愛とそれにしがみつくことは別だ。
婚約破棄がなれっことはいえ、今回ばかりは皆の動きも止まる。
そんな中で令嬢ただ一人がなにもなかったかのように姿勢を直し殿下を見つめる。
「もちろん嘘偽りなく愛しておりますわ」
そして当然のようにいう。
だがその言葉にはいつも通り熱というか恋情が感じられない。嘘偽りなくという以上愛はあるのだろうが家族愛か友愛に近いものだろう。政略ならそれで充分だ、最低限役目を果たせればそれでいいのだから。
「ですが何度も破棄を告げられるということは、どれだけ考え直しても殿下がわたくしでは不足だと思われたということでしょう?」
いや、ただのかまってちゃんだから。てかそれ分かってるよな? 今更だし、彼女に限って分からないとかないよな!?
「ですから今度こそ破棄をお受けします」
殿下の顔色が気の毒なほど変わる。正直ここまで変わったの見たことない。
「これから殿下にわたくしよりふさわしい相手が現れることを祈っております」
あまりにも綺麗に作られた、なのに発言内容のせいかいつもより影あるように見えその分美しい笑顔に状況も忘れて皆が見とれる――殿下以外。
「取り消す!!」
殿下が叫ぶ。今更だけど王族が軽々しく言った言葉取り消すなよ。
「それにもう破棄とか二度と言わない!!」
必死である。
「本当に?」
令嬢が純粋に疑問とでもいうように小首をかしげる。結われていない部分の髪がふわりと揺れさらりと華奢な肩を滑る。
あざとい。けどかわいい。いつもの近寄りがたい感じの美しさが親しみやすい感じのかわいさになる。
なのに今はそれにどこか儚さが加わって、胸を締め付けられる。
殿下でなくとも愛を乞いたくなるだろう。
「あんなに繰り返したのに?」
……確かにあれはしつこかった。破棄は成立しないだろうと思いつつも、いざ本当に成立したらやっぱりとそれでも思うだろうなという程度には多かった。
「絶対しないから!!」
暫く殿下と令嬢が見つめ合う。
やがて令嬢が目を伏せ、ため息をつく。
「……今度やりましたら、本当に婚約はなくなりますからね?」
殿下が顔を輝かせる。
「愛している」
感極まったらしい令嬢を抱きしめる。ここまでやったことはさすがに今までなかったぞ。
そろそろよそでやれ、よそで。すっかり忘れてたけどこれから予行演習だ。
しかし、なくなるねぇ。やめるじゃなくて。
ほんと、なんで殿下に愛想つかさないんだろう?
確かに破棄されたとなれば問題も起こるだろうが、それを差し引いても付き合いがよすぎないか?
今度やったら婚約はなくなる。それは事実だろう。
学内では恐らく何度やってもまたかで流されるが、それを卒業する式の予行演習をするために集まっている訳だから、当然殿下はここを離れることになる。
よそでうっかり婚約破棄なんてやったらどうなるか。
真に受ける人はもちろん、口だけだと分かっていてなおそれにつけ込もうとする人、あるいは激怒する人、他にもいろいろな人が出てきて引っ込みがつかなくなるだろう。
令嬢の評判に傷がつくし、それでも彼女を手に入れたいという有象無象が湧くのが目に見えている。
殿下だって公爵家の後ろ盾を失うし、それでも王族である事を利用されたり、なのに必要とはされなかったりするだろう。下手をすれば幽閉くらいされるかもしれない。
何より殿下は本当に令嬢が大好きなのだから。
令嬢に他に好きな人でもいるとか他にやりたいことがあるとか結婚したくない理由があるならとにかく、婚約解消に当人達の利点はほとんどない。
これは一応予想なのだが。
殿下は婚約破棄癖以外は大きな問題はないので、令嬢がそこを卒業前に念のため注意しようと思っていたところにいつものように婚約破棄が来たのだろう。
なのでそれを利用して、あえて受け入れることで衝撃を与え、二度と癖やいい加減な気持ちではそんな事を言えないようにしたと。
確かにそれは殿下に必要なことだろう。
だからって……女は怖いなぁ。
そう思いながら眺めていると、抱き締められている令嬢の口角が少し上がっていることに気づく。
いつものように華やかな笑顔ではなく、かすかな、けれどいつもよりうれしそうに見える表情だった。
……さっきまで考えていたこともあるいは間違いではないだろう。
けれど、もしかしたらただ単に自分にも愛を告げて欲しかっただけかもしれない。
構って欲しいが理由でもあんなに破棄されれば不安にもなるだろうし。
それを殿下とは違う意味で表に出せなかったのだろう。
結局、彼女も殿下が好きだったって事か。
まったく。
お似合いだよ、二人とも。
……本当に。
承るって…………婚約破棄をか?
殿下に振られた……いや殿下を振るってことか!?
とうとうやっと愛想つかせたか?
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
周りも意外な反応に驚き声をあげる。
って殿下が言うな。いやそりゃ予想外だったと思うけど。
「私を愛しているというのは偽りだったのか!?」
だから殿下が言うな。
……だいたい愛とそれにしがみつくことは別だ。
婚約破棄がなれっことはいえ、今回ばかりは皆の動きも止まる。
そんな中で令嬢ただ一人がなにもなかったかのように姿勢を直し殿下を見つめる。
「もちろん嘘偽りなく愛しておりますわ」
そして当然のようにいう。
だがその言葉にはいつも通り熱というか恋情が感じられない。嘘偽りなくという以上愛はあるのだろうが家族愛か友愛に近いものだろう。政略ならそれで充分だ、最低限役目を果たせればそれでいいのだから。
「ですが何度も破棄を告げられるということは、どれだけ考え直しても殿下がわたくしでは不足だと思われたということでしょう?」
いや、ただのかまってちゃんだから。てかそれ分かってるよな? 今更だし、彼女に限って分からないとかないよな!?
「ですから今度こそ破棄をお受けします」
殿下の顔色が気の毒なほど変わる。正直ここまで変わったの見たことない。
「これから殿下にわたくしよりふさわしい相手が現れることを祈っております」
あまりにも綺麗に作られた、なのに発言内容のせいかいつもより影あるように見えその分美しい笑顔に状況も忘れて皆が見とれる――殿下以外。
「取り消す!!」
殿下が叫ぶ。今更だけど王族が軽々しく言った言葉取り消すなよ。
「それにもう破棄とか二度と言わない!!」
必死である。
「本当に?」
令嬢が純粋に疑問とでもいうように小首をかしげる。結われていない部分の髪がふわりと揺れさらりと華奢な肩を滑る。
あざとい。けどかわいい。いつもの近寄りがたい感じの美しさが親しみやすい感じのかわいさになる。
なのに今はそれにどこか儚さが加わって、胸を締め付けられる。
殿下でなくとも愛を乞いたくなるだろう。
「あんなに繰り返したのに?」
……確かにあれはしつこかった。破棄は成立しないだろうと思いつつも、いざ本当に成立したらやっぱりとそれでも思うだろうなという程度には多かった。
「絶対しないから!!」
暫く殿下と令嬢が見つめ合う。
やがて令嬢が目を伏せ、ため息をつく。
「……今度やりましたら、本当に婚約はなくなりますからね?」
殿下が顔を輝かせる。
「愛している」
感極まったらしい令嬢を抱きしめる。ここまでやったことはさすがに今までなかったぞ。
そろそろよそでやれ、よそで。すっかり忘れてたけどこれから予行演習だ。
しかし、なくなるねぇ。やめるじゃなくて。
ほんと、なんで殿下に愛想つかさないんだろう?
確かに破棄されたとなれば問題も起こるだろうが、それを差し引いても付き合いがよすぎないか?
今度やったら婚約はなくなる。それは事実だろう。
学内では恐らく何度やってもまたかで流されるが、それを卒業する式の予行演習をするために集まっている訳だから、当然殿下はここを離れることになる。
よそでうっかり婚約破棄なんてやったらどうなるか。
真に受ける人はもちろん、口だけだと分かっていてなおそれにつけ込もうとする人、あるいは激怒する人、他にもいろいろな人が出てきて引っ込みがつかなくなるだろう。
令嬢の評判に傷がつくし、それでも彼女を手に入れたいという有象無象が湧くのが目に見えている。
殿下だって公爵家の後ろ盾を失うし、それでも王族である事を利用されたり、なのに必要とはされなかったりするだろう。下手をすれば幽閉くらいされるかもしれない。
何より殿下は本当に令嬢が大好きなのだから。
令嬢に他に好きな人でもいるとか他にやりたいことがあるとか結婚したくない理由があるならとにかく、婚約解消に当人達の利点はほとんどない。
これは一応予想なのだが。
殿下は婚約破棄癖以外は大きな問題はないので、令嬢がそこを卒業前に念のため注意しようと思っていたところにいつものように婚約破棄が来たのだろう。
なのでそれを利用して、あえて受け入れることで衝撃を与え、二度と癖やいい加減な気持ちではそんな事を言えないようにしたと。
確かにそれは殿下に必要なことだろう。
だからって……女は怖いなぁ。
そう思いながら眺めていると、抱き締められている令嬢の口角が少し上がっていることに気づく。
いつものように華やかな笑顔ではなく、かすかな、けれどいつもよりうれしそうに見える表情だった。
……さっきまで考えていたこともあるいは間違いではないだろう。
けれど、もしかしたらただ単に自分にも愛を告げて欲しかっただけかもしれない。
構って欲しいが理由でもあんなに破棄されれば不安にもなるだろうし。
それを殿下とは違う意味で表に出せなかったのだろう。
結局、彼女も殿下が好きだったって事か。
まったく。
お似合いだよ、二人とも。
……本当に。
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