秋月の鬼

凪子

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九、

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「次の手とは」

「例えばそう、用意しておいた本物の暗殺者を潜り込ませ、お前を人質に取る。情に絆された俺は、お前の身の安全と引き換えに自分の命をなげうつ。どうだ、美談だろう。筋立てとしてもよくできている」

ぞっとした時、背後から物音もなく忍びこんだ者に腕を取られ、初姫は悲鳴を上げた。

「その通りです」

気づけば覆面に黒装束、忍と思われる者がクナイを初姫の首に押し当てていた。

「待ちかねたぞ。ようやく姿を現したな。お前が倉橋に雇われた隠密か」

唯一自由になる視線を動かしても、自分を捕えるその者が男なのか女なのかすら分からなかった。

動揺がさざ波のように全身に伝わってゆく。

「気配を絶っておりましたのに、お気づきだったとは恐れ入ります」

やけに丁重な物言いが余計に恐怖を増幅させた。

「残念だが、その女に人質の価値はないぞ」

「さて、そうでしょうか」

二人は緊迫した空気の中、見つめ合う。

「待って」

初姫は震える喉から声を振りしぼった。

「若様に手を出してはなりません。わたくしを殺し、その首を持って帰って父に頼むのです。どうか退いてほしいと」

「お言葉ですが、初姫様。お父君は、邪魔立てするならばあなたのお命も頂戴するようにとのお達しです。手出しは無用に願います」

すうっと顔から血の気が引いた。

「どういうことです」

隠密の者は答えない。

「驚いたな。血を分けた娘をここまで冷酷に扱えるとは。倉橋家の当主も存外、気骨のある者と見える」

あっぱれよ、と京次郎は扇を開いた。

「だが悪いな、俺はこの姫に命をくれてやったのだ。姫が死んでも俺は困らぬが、俺を殺せるのは姫のみ。お前に首をくれてやるわけにはいかぬぞ」

と言うなり京次郎は刀を抜き、隠密に斬りかかった。

隠密は人間業とは思えない跳躍で剣戟をかわし、空中でクナイを投擲する。

京次郎は初姫を庇って床の上を転がった。

突き飛ばされてたたらを踏み、障子に体を打ちつける。
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