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異世界にも事情があるみたいです
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ゆっくりしている時間はないので、話しながら瑛仙に衣装を着付けてもらう。
白い衣装を着付けている間は、流石に阿王には壁を向いていてもらった。
白の婚礼衣装は光沢のある白糸で総刺繍されていて、ずっしりと重みがある。
帯や襟にはそれぞれ目立たない程度に淡い色で花や刺繍が施されていて、それが何種類も取り揃えられていた。
瑛仙はその中から、白地に薄い水色の幾何学模様の柄の襟を手に取り、薄桃色の羽織を当てて具合を確かめている。
あとは羽織と装身具という段階に入り、阿王にとりあえず気になっていたことを聞いてみた。
「協力してくれるのはありがたいけど、急にどうして?私が黎明と番になった方が都合がいいんでしょう?」
阿王はグッと詰まってから、言葉を続けた。
「それはそうだが・・だってお前、嫌なんだろ?流石に無理矢理、番にするのは人道に反するって魯伯も・・。まあ藝實みたいな国益優先の意見も少なからず居るが」
「人道に反するって‥え?人に猿轡までかませておいて・・・?」
”人道に反するジャッジ”が今更過ぎる‥!
私のジトーッとした目に気づいたのか、阿王が弁解を始めた。
「だから‥悪かったよ!こっちの事情に巻き込んで悪かった!言い訳になるが、こっちも大分追い詰められてたんだ。いつ国庫が空になるか気が気じゃなかったんだ!このままじゃ民は冬を越せないし、毎日悪い報告ばかりで・・頼りにしていた神獣もいつまで経っても番を見つけられないし‥」
だから、番の召喚に縋ってしまった、と。この国が危機を迎えていたのは本当らしい。
でもそれなら尚更、私と黎明を番にする方に躍起になりそうなものだけれど。
まだ訝しげな私に、瑛仙が口を開く。
「これ以上カナ様に無理強いすると、流石に道義神がお怒りになるでしょうから。」
「ドーギシン?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「カナ様、阿の国は祖護神と道義神の二神で成り立っております。祖護神は、この地とこの地に生きる命を生みだした祖の神で、この国と命を守護する神でもあります。神獣様はこの祖護神により遣わされます。…カナ様、次はお化粧をしますのでこちらへ。」
促されて化粧台の前に座ると、鏡越しに胡座をかいた阿王と目があった。瑛仙が手を動かしながら説明を続ける。
「祖護神と違って、道義神は阿の国を興す中で民の願いから生まれた神です。国が発展するにつれて、民や国の間で交わす取り決めを保証する存在が必要となりました。当時の王を中心に願ったところ、道義神がこの地に宿り二神となったのです。人道を尊び民の営みを照らすのが道義神です。厳格な神ですので、不正や非道を許しません。」
「ふうん‥」と取り合えず聴いているけれど、それが今回の件に関係あるんだろうか。
鏡越しにチラッと阿王を見ると、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「阿の国の王は即位の際に、道義神の名の下に、国を守る誓いと共に、非道を犯さずの誓約を立てております。王や国がこの誓約を破り、非道を犯すことがあれば、道義神の怒りを買い、王は病に斃れます。今回カナ様を召喚したのは、祖護神様の遣わした神獣様の番を得るためでしたので、召喚も非道には当たらないと我々は考えておりました。でも状況が変わり、これ以上カナ様に無理強いをするのは非道に当たると陛下は考えをお改めになったのです。」
「そんな理由?」と思ったけれど、瑛仙も阿王も表情は至って真面目で私は少し混乱した。
ひとつの国に神様が2人いるのも驚きだけど、瑛仙の口ぶりを聞いていると、ただの信心ではなく、本当に神様がいるかのようだ。
「ここって・・神様が本当にいるの?」
「ええ、ええ!もちろんでございますよ。そうでなければ、カナ様をこちらにお呼びすることなど到底できません。陛下の求めに応じて、祖護神がお力をお貸しくださったのですから!」
「本当に・・!?」
「本当でございますよ。道義神についていえば、例えば、道義神の名の下に交わす取引や誓約は、その内容に間違いや嘘偽りがあれば成立不可能となり、やり直しもできなくなります。ですので、重要な案件ほど神殿で道義神の名の下に交わされます。民の間では頻繁にできるものではありませんが、結婚は道義神の名の下に行う一番身近な誓約となります」
瑛仙がにこやかに話すけれども頭が付いていけない。
ひとつの国に神様が2人存在することだけでも驚きなのに、この世界線では本当に神様がいて機能している。
これまで起きたどんな出来事より、ここが別世界なんだと思い知らされた気がした。
◇
衝撃を受けている間にお化粧は終わり、その後はカツラをかぶらされて、シャラシャラした簪をたくさん付けていく。
「一応聞くが、お前は元の世界に戻りたいか?」
「え?」
「召喚の時に言われてたんだよ。番であっても、住まう国との結びつきが強ければ召喚はできないってな。だから召喚が成功するのは番自身が望んだ時だと俺たちは信じてたわけだが…」
「結びつき‥?」
結びつき、と聞いて真っ先に思いつくのは佑太の顔だ。
『お前のことは大事だけど、もう恋愛って感じじゃなくて』
『悪いけど、別れてくれ』
あの日のことを思い出して心がズンと重くなる。
もしかして、失恋したその日に召喚されたのは、偶然ではないんだろうか。
「‥元の世界に戻る方法はあるの?」
「今のところはない。もしお前が望むならこれから考えることになるが、何年かかるかわからん。」
「それに、」と阿王が続ける。
「元の世界に戻れたとしても、このままじゃアレも一緒に着いていきそうだろ。まずは目の前の番契約をどうするかが先決だ。」
阿王がぶっきらぼうにそう言ったところで、私の支度が完成した。
白い衣装を着付けている間は、流石に阿王には壁を向いていてもらった。
白の婚礼衣装は光沢のある白糸で総刺繍されていて、ずっしりと重みがある。
帯や襟にはそれぞれ目立たない程度に淡い色で花や刺繍が施されていて、それが何種類も取り揃えられていた。
瑛仙はその中から、白地に薄い水色の幾何学模様の柄の襟を手に取り、薄桃色の羽織を当てて具合を確かめている。
あとは羽織と装身具という段階に入り、阿王にとりあえず気になっていたことを聞いてみた。
「協力してくれるのはありがたいけど、急にどうして?私が黎明と番になった方が都合がいいんでしょう?」
阿王はグッと詰まってから、言葉を続けた。
「それはそうだが・・だってお前、嫌なんだろ?流石に無理矢理、番にするのは人道に反するって魯伯も・・。まあ藝實みたいな国益優先の意見も少なからず居るが」
「人道に反するって‥え?人に猿轡までかませておいて・・・?」
”人道に反するジャッジ”が今更過ぎる‥!
私のジトーッとした目に気づいたのか、阿王が弁解を始めた。
「だから‥悪かったよ!こっちの事情に巻き込んで悪かった!言い訳になるが、こっちも大分追い詰められてたんだ。いつ国庫が空になるか気が気じゃなかったんだ!このままじゃ民は冬を越せないし、毎日悪い報告ばかりで・・頼りにしていた神獣もいつまで経っても番を見つけられないし‥」
だから、番の召喚に縋ってしまった、と。この国が危機を迎えていたのは本当らしい。
でもそれなら尚更、私と黎明を番にする方に躍起になりそうなものだけれど。
まだ訝しげな私に、瑛仙が口を開く。
「これ以上カナ様に無理強いすると、流石に道義神がお怒りになるでしょうから。」
「ドーギシン?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「カナ様、阿の国は祖護神と道義神の二神で成り立っております。祖護神は、この地とこの地に生きる命を生みだした祖の神で、この国と命を守護する神でもあります。神獣様はこの祖護神により遣わされます。…カナ様、次はお化粧をしますのでこちらへ。」
促されて化粧台の前に座ると、鏡越しに胡座をかいた阿王と目があった。瑛仙が手を動かしながら説明を続ける。
「祖護神と違って、道義神は阿の国を興す中で民の願いから生まれた神です。国が発展するにつれて、民や国の間で交わす取り決めを保証する存在が必要となりました。当時の王を中心に願ったところ、道義神がこの地に宿り二神となったのです。人道を尊び民の営みを照らすのが道義神です。厳格な神ですので、不正や非道を許しません。」
「ふうん‥」と取り合えず聴いているけれど、それが今回の件に関係あるんだろうか。
鏡越しにチラッと阿王を見ると、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「阿の国の王は即位の際に、道義神の名の下に、国を守る誓いと共に、非道を犯さずの誓約を立てております。王や国がこの誓約を破り、非道を犯すことがあれば、道義神の怒りを買い、王は病に斃れます。今回カナ様を召喚したのは、祖護神様の遣わした神獣様の番を得るためでしたので、召喚も非道には当たらないと我々は考えておりました。でも状況が変わり、これ以上カナ様に無理強いをするのは非道に当たると陛下は考えをお改めになったのです。」
「そんな理由?」と思ったけれど、瑛仙も阿王も表情は至って真面目で私は少し混乱した。
ひとつの国に神様が2人いるのも驚きだけど、瑛仙の口ぶりを聞いていると、ただの信心ではなく、本当に神様がいるかのようだ。
「ここって・・神様が本当にいるの?」
「ええ、ええ!もちろんでございますよ。そうでなければ、カナ様をこちらにお呼びすることなど到底できません。陛下の求めに応じて、祖護神がお力をお貸しくださったのですから!」
「本当に・・!?」
「本当でございますよ。道義神についていえば、例えば、道義神の名の下に交わす取引や誓約は、その内容に間違いや嘘偽りがあれば成立不可能となり、やり直しもできなくなります。ですので、重要な案件ほど神殿で道義神の名の下に交わされます。民の間では頻繁にできるものではありませんが、結婚は道義神の名の下に行う一番身近な誓約となります」
瑛仙がにこやかに話すけれども頭が付いていけない。
ひとつの国に神様が2人存在することだけでも驚きなのに、この世界線では本当に神様がいて機能している。
これまで起きたどんな出来事より、ここが別世界なんだと思い知らされた気がした。
◇
衝撃を受けている間にお化粧は終わり、その後はカツラをかぶらされて、シャラシャラした簪をたくさん付けていく。
「一応聞くが、お前は元の世界に戻りたいか?」
「え?」
「召喚の時に言われてたんだよ。番であっても、住まう国との結びつきが強ければ召喚はできないってな。だから召喚が成功するのは番自身が望んだ時だと俺たちは信じてたわけだが…」
「結びつき‥?」
結びつき、と聞いて真っ先に思いつくのは佑太の顔だ。
『お前のことは大事だけど、もう恋愛って感じじゃなくて』
『悪いけど、別れてくれ』
あの日のことを思い出して心がズンと重くなる。
もしかして、失恋したその日に召喚されたのは、偶然ではないんだろうか。
「‥元の世界に戻る方法はあるの?」
「今のところはない。もしお前が望むならこれから考えることになるが、何年かかるかわからん。」
「それに、」と阿王が続ける。
「元の世界に戻れたとしても、このままじゃアレも一緒に着いていきそうだろ。まずは目の前の番契約をどうするかが先決だ。」
阿王がぶっきらぼうにそう言ったところで、私の支度が完成した。
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