"番様"認定された私の複雑な宮ライフについて。

airria

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神獣と番の初対面ってこんなにムードないものですか。

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馬車が動き出して1時間も経たずに、間もなく到着するらしい。

向かいの席で阿王と宰相が難しい話をする中、景色を眺めている私の視界の隅で、何かが動いた。

「ヒイッ!虫!」

いつの間に入りこんだのか、窓枠の内側で動きを止めているそれは、テニスボールくらいある大きなバッタだった。

私がこの世で最も苦手としているもの、虫。

バッタなんてその代表格といっていい。

それが、ひと跳ねでもすれば私に届きそうな位置にいる。

少しでも距離をあけたい、でも、動くことで刺激して飛んできそう。

結果的に私は身じろぎできずに固まることになる。

「なんだお前、虫が嫌いなのか?」と阿王に聞かれて私が半べそをかきながら頷いた。

「ほら、どいてろ」

そう声をかけられて向かいをみれば、阿王が窓枠に向かってヒョイっと手を伸ばすところだった。

「ヒッ・・!」

悲鳴をあげそうになる私を気にすることなく、難なくバッタを捕まえて外に逃がしてくれた。

その様子を、ポカンとした顔で見つめてしまう。

阿王が怪訝そうに眉をしかめた。

「・・・なんだ、その顔は」

「・・・虫、さわれるの?」

「当たり前だろ、あんな虫。造作もない。」

なんだかすごく意外な気がした。佑太は私に負けないくらい、大の虫嫌いだったから。

そこでようやく、無意識に佑太と重ねてしまっていたことに気づいて、私は目を瞬いた。






到着し馬車から降ろされ、連れて来られたのは大きな洞窟だった。

洞窟の中は真っ暗だ。

再び逃げ出そうとしたら、今度は足も縄で縛られた。

「往生際の悪い奴‥」

呆れた表情でこちらを見る阿王。

そのまま洞窟の入口近くまで運ばれる。

付いてきた女官たちが「通常の番候補であれば、この入り口で祈りを捧げながら静かに待つというに・・」
「どれだけ名誉なことか何故わからぬのか」などとブーブー言っている。

「獣の餌になるのに祈ってられるかー!」

喚いていたら「罰当たり」と言われて、とうとう猿轡まで嵌められた。

少し離れた位置に松明が並ぶ。

その後方で、阿王を筆頭に大勢の人達が遠巻きに囲んでこちらを見物するようだ。

セッティングが終わったらしく、辺りは静寂に包まれた。

(まずい、まずいー!)

身を捩りながら、少しでも洞窟から遠ざかろうとするけれど、ズリズリと音がするばかりで幾らも進まない。

「おい、いい加減諦めろ!」

野次を飛ばしてきた阿王を睨んだ次の瞬間。

グルル・・

獣が喉を鳴らす音が聞こえて、慌てて身を捩って洞窟に向きを変えた。




辺り一帯がシンとしている。

誰も、何も声を出さない。

それどころか、虫の声ひとつしない。

静寂の満ちる中、ぽっかり開いた洞窟の闇の中から何かが近づいてくる。

最初に見えたのは、薄ピンク色の鼻先。

一度立ち止まって、ヒクヒクと鼻を動かし、そしてまた進み出す。

白虎だった。

姿形は、テレビで見たことのあるホワイトタイガーそっくりだけれど、目が紫色で、体の大きさは小さな家ほどもある。

その白虎が、瞳孔ガン開きににしながらこちらににじり寄って来る。

(あ、これ喰われる。)

開いたままの口から鋭い歯が並んでいるのが見えて、失神しそうになった。

さっきまで、何とか逃げてやろうとモゾモゾ動いていたのに、今は本能的恐怖でぴくりとも動けない。

ゆらゆらと長い尻尾を揺らしながら、悠然と近づいてくる白虎。

終わった、と思った。

享年25歳。

短すぎる人生でした。

脳内でしめやかなエンドロールと共に走馬灯が流れる。

最後に見えたのがあの阿王で舌打ちしたくなった。

白虎は私をまっすぐ見据えている。

目を合わせるのも怖いけれど、逸らしたらその瞬間飛び掛かられそうで、結局見入るしかない。

尖った歯が怖くて怖くて、涙がツーッと流れた。

勝手に召喚されて、それなのに・・なんで神獣に食べられなきゃいけないの?

もう逃げるのは絶対に無理な所まで神獣が来ている。

怖い、怖い、せめてひと思いにパックリ食べて欲しい。

泣きながら、祈りにも似た気持ちで白虎を見上げた。

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