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失恋と始まり
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その日は最悪だった。
佑太から別れを切り出されたのである。
しかも、付き合って4年の記念日に。
別れる理由を問い詰めたら、佑太はあっさりと白状した。
『お前が傷つくと思って言いたくなかったんだけど…実はさ、同じ部署の後輩のマミちゃんに告白されたんだ。お前のことは大事だけど、もう恋愛っていう感じじゃなくて・・情っていうか。悩んだけど、やっぱり自分の気持ちに嘘はつけない。悪いけど、別れてくれ』
◇
その後のことはよく覚えていない。
気づいたら家の近くにあるバーでグラスを握りしめていた。
見下ろした目線の先で、モスコミュールの泡が静かに漂っている。
バーになんて普段は来ない。
それも1人でなんて初めてだ。
(あぁ・・・・帰りたくないなぁ・・)
頭の中で何度も呟いた言葉がまた浮かぶ。
実家暮らしの彼は合鍵を使って、私の家に来てはくつろいでいた。
帰ったら家の明かりが付いていて、彼が「おかえり」と出迎えてくれて・・そんな光景を思い出して、じんわりと視界が滲む。
このままアパートに帰ったら、本当に、ひとりぼっちになったんだと痛感してしまいそうで。
涙を誤魔化すように、グラスを煽った。
佑太と、いつか結婚するんだと思っていた。
家族と折り合いが悪く疎遠な私にとって、佑太は唯一の家族のようだった。
実直で、責任感の強い佑太だから、二股をかけることもせずに、ちゃんと私と別れてから、後輩からの告白に応えるという筋を通したかったんだろう。
再び、じわっと視界がにじむ。
「帰ろ・・」
◇
お会計を済ませて、帰る前にトイレに寄った。
用を済ませて出る前に、姿見に映る、草臥れた顔の自分と目が合った。
マスカラがにじんで薄く隈みたいになっていて、ひどい顔だ。
こないだ切ったばかりの、ショートヘアの髪だけが、きれいに整っていた。
せめて、帰る前にこの隈だけは消さないと。
姿見に近づいて、下瞼を指で拭う。
隈が少しマシになったかと思ったその瞬間、鏡が水面のように揺れた。
「・・え?」
一歩飛び退って、姿見を見る。
その時にはもう揺れはなく、私は目を瞬いた。
目を凝らしても、鏡面に異常はない。
なんの変哲もない姿見だ。
(ただの鏡・・そりゃそう、だよね?)
頭ではそう思うのに、さっき見た光景が忘れられなくて、目をギュッと瞑ってみた。
(見間違い、きっとそう)
目を開けてから、怖いもの見たさで恐る恐る近づいて、もう一度、隅から隅まで鏡を見た。
沈黙を貫く鏡に、ようやく息をつく。
最後に間抜けな自分の顔と目を合わせて、へにゃっと笑った。
「はは…飲みすぎたかな」
やっぱり、気のせいだ。
そうして、ドアに向かおうと、鏡に背を背けた瞬間。
鏡からニュッと突き出てきた手に体を掴まれ、叫ぶ間もなく鏡の中に引きずり込まれた。
佑太から別れを切り出されたのである。
しかも、付き合って4年の記念日に。
別れる理由を問い詰めたら、佑太はあっさりと白状した。
『お前が傷つくと思って言いたくなかったんだけど…実はさ、同じ部署の後輩のマミちゃんに告白されたんだ。お前のことは大事だけど、もう恋愛っていう感じじゃなくて・・情っていうか。悩んだけど、やっぱり自分の気持ちに嘘はつけない。悪いけど、別れてくれ』
◇
その後のことはよく覚えていない。
気づいたら家の近くにあるバーでグラスを握りしめていた。
見下ろした目線の先で、モスコミュールの泡が静かに漂っている。
バーになんて普段は来ない。
それも1人でなんて初めてだ。
(あぁ・・・・帰りたくないなぁ・・)
頭の中で何度も呟いた言葉がまた浮かぶ。
実家暮らしの彼は合鍵を使って、私の家に来てはくつろいでいた。
帰ったら家の明かりが付いていて、彼が「おかえり」と出迎えてくれて・・そんな光景を思い出して、じんわりと視界が滲む。
このままアパートに帰ったら、本当に、ひとりぼっちになったんだと痛感してしまいそうで。
涙を誤魔化すように、グラスを煽った。
佑太と、いつか結婚するんだと思っていた。
家族と折り合いが悪く疎遠な私にとって、佑太は唯一の家族のようだった。
実直で、責任感の強い佑太だから、二股をかけることもせずに、ちゃんと私と別れてから、後輩からの告白に応えるという筋を通したかったんだろう。
再び、じわっと視界がにじむ。
「帰ろ・・」
◇
お会計を済ませて、帰る前にトイレに寄った。
用を済ませて出る前に、姿見に映る、草臥れた顔の自分と目が合った。
マスカラがにじんで薄く隈みたいになっていて、ひどい顔だ。
こないだ切ったばかりの、ショートヘアの髪だけが、きれいに整っていた。
せめて、帰る前にこの隈だけは消さないと。
姿見に近づいて、下瞼を指で拭う。
隈が少しマシになったかと思ったその瞬間、鏡が水面のように揺れた。
「・・え?」
一歩飛び退って、姿見を見る。
その時にはもう揺れはなく、私は目を瞬いた。
目を凝らしても、鏡面に異常はない。
なんの変哲もない姿見だ。
(ただの鏡・・そりゃそう、だよね?)
頭ではそう思うのに、さっき見た光景が忘れられなくて、目をギュッと瞑ってみた。
(見間違い、きっとそう)
目を開けてから、怖いもの見たさで恐る恐る近づいて、もう一度、隅から隅まで鏡を見た。
沈黙を貫く鏡に、ようやく息をつく。
最後に間抜けな自分の顔と目を合わせて、へにゃっと笑った。
「はは…飲みすぎたかな」
やっぱり、気のせいだ。
そうして、ドアに向かおうと、鏡に背を背けた瞬間。
鏡からニュッと突き出てきた手に体を掴まれ、叫ぶ間もなく鏡の中に引きずり込まれた。
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